
第5回ABEMAトーナメント 本戦決勝
9月24日に、約半年に渡って繰り広げられてきたABEMAトーナメントの本戦決勝が行われました。Dリーグ2位のチーム稲葉「サンライズワン」とBリーグ2位のチーム斎藤「シンエンジェル」の顔合わせとなっています。
チーム稲葉は、本戦でエントリーチームとチーム永瀬を降して勝ち上がり、忍者の衣装でオープニングに登場しています。チーム斎藤は、本戦でチーム三浦とチーム糸谷とチーム渡辺を破って勝ち上がり、恒例となった天使の衣装でオープニングに登場しています。斎藤八段は前日に結婚を発表しており、優勝して花を添えたいところです。
一局目:服部慎一郎四段 vs 木村一基九段
チーム稲葉はチームのポイントゲッターとなっている服部四段、チーム斎藤はチームの精神的支柱ともなっている木村九段が先陣を切ります。振り駒で先手となった服部四段が矢倉を選択し、木村九段はがっちり相矢倉に組み合います。服部四段は土居矢倉に組み、金で桂に紐を付けると4筋の歩をぶつけて仕掛けます。服部四段は▲4五桂と跳ね、木村九段が銀を上がって受けると飛先の歩を交換します。木村九段は△8四角と覗いて△7三桂と跳ね、6筋の歩をぶつけて取り込みます。服部四段が角で取ってぶつけると、木村九段は角交換に応じてから8筋を継ぎ歩で攻めます。服部四段は▲4一角と打ち込みますが、木村九段は8筋の歩を取り込んでから9筋を端攻めします。服部四段は構わず2筋を継ぎ歩攻めし、▲7四角成と桂に当てて馬を作って歩を補充します。木村九段が馬に当てて△8四角と打ち、香を奪って△8二香と8筋からの総攻撃を仕掛けると、服部四段は玉を右方向に早逃げして凌ぎます。木村九段は△1三玉と上がって玉で2筋に垂らされた歩を取りにいきますが、服部四段は後手の玉頭から猛然と攻め掛かり即詰みに討ち取りました。
チーム稲葉:1勝 - チーム斎藤:0勝
二局目:服部慎一郎四段 vs 佐々木勇気七段
チーム稲葉は勝った服部四段が恒例の連投です。先手の佐々木七段が角換わりに誘導して相腰掛け銀の将棋となり、△5二金・▲5八銀型の平成時代に流行した駒組みとなります。服部四段が6筋から仕掛けて歩を交換し3筋の歩もぶつけると、佐々木七段は意表を突かれたのか2分近く考えて、2筋の歩を突き捨ててから▲6五銀と桂を取ります。お互いに銀を取り合ってから服部四段も3筋の歩を取り込んで桂を取りにいきますが、佐々木七段は桂と歩で後手陣を乱してから飛香両取りに▲5五角と打ちます。服部四段は飛車を6筋に寄せて銀に当てますが、佐々木七段は構わず金の両取りに▲4五桂と打ちます。服部四段は両取りを受けずに△3三銀と打って先手の飛車と角の利きを止め、佐々木七段が▲5二桂成と金を取ると、△6五飛と銀を取って角に当てます。佐々木七段は銀を打って角に紐を付けますが、服部四段は飛車を角と刺し違えて△3七歩成と"と金"を作って攻め込みます。佐々木七段が▲4一飛と打ち込むと、服部四段は"と金"を捨てて飛金両取りに△3八角と打ち込みます。佐々木七段は飛車を見捨てて▲4四銀と踏み込み、時間に追われて詰めろを掛けて下駄を預けます。3分以上残していた服部四段は落ち着いて1分程考えると△6七桂から即詰みに討ち取りました。
チーム稲葉:2勝 - チーム斎藤:0勝
三局目:服部慎一郎四段 vs 斎藤慎太郎八段
チーム稲葉は服部四段が今大会3度目の3連投、連敗スタートとなったチーム斎藤はリーダーが「チームの勢いを取り戻し」に出陣します。先手の服部四段は再度矢倉を選択し、斎藤八段も受けて立ちます。服部四段が一局目とは変えて金矢倉に組むと、斎藤八段は△4二金型にして5筋の歩を突き捨て、△4四銀~△5二飛と中央に戦力を集めます。斎藤八段が7筋の歩を突き捨ててから△8五桂と跳ねると、服部四段は2分近く考えて4筋の歩を突いて反発します。服部四段は銀取りに▲5六歩と打ちますが、斎藤八段が△7六歩と銀取りに打ち返すと、解説の森内九段が「なるほど、そうやるのか」と叫びます。銀を取り合ってから服部四段が角に当てて▲4六銀と打つと、斎藤八段は手抜いて△3九銀と飛車取りに打ちます。服部四段が飛車を1筋にかわすと、斎藤八段は角で銀を食いちぎり、慎重に時間を使って桂を交換してから△5七銀と角取りに打ち込みます。服部四段はすぐに▲5五桂と打ち、間接王手飛車で▲7四角と打ちます。斎藤八段は飛車取りに△2七角と打ち返しますが、服部四段は銀で飛車を取って後手玉を追います。時間に追われた斎藤八段は銀2枚を投じて飛車を捕獲し、△4九飛と王手で打ち込んで先手玉に迫りますが、服部四段は角で桂を食いちぎって▲4四桂と打ち、そのまま即詰みに討ち取りました。
チーム稲葉:3勝 - チーム斎藤:0勝
四局目:稲葉陽八段 vs 木村一基九段
3連敗スタートなったチーム斎藤ですが、明るい雰囲気は変わらず木村九段を送り出します。先手の木村九段が角道を止めて力戦調の将棋となり、稲葉八段は雁木に構えます。稲葉八段が飛先の歩を交換すると、木村九段は銀冠に組み替え、桂交換となります。稲葉八段が7筋の歩を突き捨てると、木村九段も1筋から端攻めし押さえ込みます。木村九段は▲1六桂と打って後手の玉頭に戦力を集め、更に▲1七桂と跳ねて力を溜めます。稲葉八段は△3三金と上がって受けますが、木村九段は▲2四歩から猛然と攻め掛かります。稲葉八段は△5三角と出て先手の桂を狙って凌ぐと、8筋の歩を突き捨ててから△7四桂~△5五桂と打って反撃の狼煙を上げます。木村九段が▲3六角とぶつけると、稲葉八段は金と交換してから△6四桂と3枚目の桂を打って先手の玉頭を制圧します。稲葉八段は△7八桂成と銀を取って飛車を追うと、△6七桂成~△7八桂成と3枚の成桂を作って先手玉に迫ります。木村九段は攻防に▲6四銀と打って粘りますが、稲葉八段は△7七成桂引から即詰みに討ち取りました。
チーム稲葉:4勝 - チーム斎藤:0勝
五局目:出口若武六段 vs 斎藤慎太郎八段
早くも追い込まれたチーム斎藤は、今大会何度もカド番を凌いできたリーダーが力強く出陣します。先手の出口六段が相掛かりに誘導し、お互いに飛先の歩を交換します。斎藤八段は棒銀で△8五銀と進めますが、歩を合わせて銀交換する筋は保留して△4四角~△3三桂と力を溜めます。見慣れない形に出口六段が3分程の長考で▲3七桂と跳ねてじっくり駒組みを進めると、斎藤八段も2分近く考えて5筋の歩を突き角の退路を作ります。出口六段が4筋の歩を突いて角を引かせると、斎藤八段はここで8筋の歩を合わせて銀交換し、桂取りに△6四角と引きます。出口六段が▲4六角とぶつけると、斎藤八段は角交換に応じて△4九角と打ち込みます。出口六段は構わず3筋の歩を伸ばして桂頭を狙いますが、斎藤八段は△2七銀と打って飛車を追ってから角で金を食いちぎり、△3六銀成と攻め掛かります。出口六段は玉を早逃げしますが、斎藤八段は△6七金と打って飛車を追い、△5七歩成と"と金"を作ります。両者とも時間に追われる中、出口六段も▲3三歩成と桂を取り、銀取りに▲3四歩と打って攻め合います。斎藤八段が△5六成銀と寄って先手玉に迫ると、出口六段は▲3三桂の王手から▲6五角と出て、もう1枚の角を飛車取りと後手の玉頭の両狙いで▲7一角と打ち込みます。決まったかに見えましたが、斎藤八段は飛車を寄って凌ぐと△6七成銀から先手玉に迫り、そのまま即詰みに討ち取りました。
チーム稲葉:4勝 - チーム斎藤:1勝
六局目:稲葉陽八段 vs 斎藤慎太郎八段
後がないチーム斎藤は「非常時だから」とリーダーに連投を求め、リーダー同士の対決が実現しました。先手の斎藤八段が角換わりに誘導し、稲葉八段は受けて立ち少し変わった右玉の陣形を敷きます。斎藤八段が▲5六角と据えてから矢倉に入城すると、稲葉八段は6筋から仕掛けます。斎藤八段は1分半程考えて金取りに▲4五桂と跳ね、稲葉八段が金を引くと飛先の歩を交換します。稲葉八段は6筋の歩を取り込みますが、斎藤八段は飛車で3筋の横歩を取ってから2筋に戻します。稲葉八段が8筋の歩を突き捨ててから飛車取りに△1三角と打つと、斎藤八段は▲2三飛成と竜を作ります。稲葉八段は角取りに△5五歩と伸ばしますが、斎藤八段は手抜いて銀取りに▲6四歩と打ち、角と銀を取り合います。斎藤八段が▲5五銀と打つと、5分以上残している稲葉八段は1分程考えて銀交換に応じ、△6四銀と打って守りを固めます。斎藤八段が銀を交換すると、稲葉八段は歩で先手陣の金を上ずらせてから△6九角と打ち込みます。斎藤八段は時間に追われながらも金を引いて粘りますが、稲葉八段は△6八同角成と金を食いちぎって寄せ切りました。
チーム稲葉:5勝 - チーム斎藤:1勝
決勝の結果
チーム稲葉は、服部四段が3度目の3連投で2度目の3連勝を遂げ、チームに勢いをもたらしました。リーダーの稲葉八段も着実に2戦2勝でチームを優勝に導きました。出口六段は決勝では1局しか出番がなく勝ち星はありませんでしたが、準決勝までの個人成績は勝ち越しており、相手のエースを倒すなど印象的な勝利でチームの決勝進出に貢献しました。このチームは戦前からリーダーが「爆発力はあるが安定感はない」と評していましたが、若い2人を勢いに乗せたのはリーダーの人柄や采配だったように思います。またリーダー自身も7勝1敗と抜群の安定感でチームを支え、まさに優勝に相応しい素晴らしいチームでした。
チーム斎藤は、ドラフト直後には優勝候補筆頭と言われながら予選から苦しい戦いが続きました。6試合の内、4試合で相手に先に4勝されカド番に立たされましたが、それでも決勝までたどり着いた底力の陰には、勝っても負けても変わらないリーダーの斎藤八段の穏やかさ、木村九段の明るさ、佐々木(勇)七段の前向きな想いが感じられました。2大会連続で準優勝となった木村九段はエンディングで言葉に詰まる場面もあり、充実感とともに湧き上がる悔しさを滲ませましたが、優勝してもおかしくない好チームだったと思います。