「観る将」が観た第32期女流王位戦五番勝負第三局
6月2日に福岡県飯塚市の旧伊藤伝右衛門邸で女流王位戦第三局が行われました。ここまで里見香奈女流王位が2連勝し防衛に王手を掛けての対局となりました。挑戦者の山根ことみ女流二段としては。先手番の本局に勝って流れを掴みたいところです。
本局は、後手の里見女流王位が先に三間飛車に振り、山根女流二段も向かい飛車に構えて相振り飛車の将棋となりました。31手目まで両者ともまったく時間を使わず第一局と同じ進行でしたが、32手目に里見女流王位が初めて1分消費して手を変え、1筋の位取りを保留して美濃囲いの完成を急ぎます。山根女流二段が9筋の位を取り金無双に構えると、里見女流王位は5筋の位を取り、飛車をぶつけて開戦しました。
山根女流二段は飛車交換に応じ、82分の長考でじっと7筋の歩を突きます。里見女流王位も浮き駒の角を移動し紐を付けます。山根女流二段は敵陣に飛車を打ち込みますが、里見女流王位は桂を跳ねて駒損を回避しつつ将来の端攻めを用意します。山根女流二段が、自陣に飛車を打ち込まれた際に桂を取られないよう整備したところで昼休となりました。
里見女流王位は、昼休を挟んで42分の長考で△1五歩と伸ばした後じっと竜を作ります。山根女流二段は攻められそうな1筋から反発し、香を奪って銀と馬の田楽刺しに▲4六香と打ちます。里見女流王位も銀で香を食いちぎって△1一香と、竜と香の田楽刺しのお返しです。里見女流王位が歩で相手玉頭を崩しにかかると、山根女流二段も相手玉頭に歩を垂らして相手陣を崩します。
攻めの速さを競う終盤戦になってきました。里見女流王位は金と玉の田楽刺しのおかわりで金を剥がし、山根陣は玉の周りに守り駒が1枚もありません。山根女流二段は攻め合いを選択し、▲8八香~▲6四角~▲8七香打と相手の玉頭に戦力を集めます。里見女流王位は金や桂を打って自陣を固め徹底抗戦です。
これ以上攻め駒を足されたくない里見女流王位は、△4四角と引いて相手の攻めを催促します。山根女流二段は香の二段ロケットを発射し、2枚の桂で金と角を奪いますが、里見陣は竜に守られた堅陣になりました。山根女流二段は▲4三桂成と側面からの攻撃を試みますが、里見女流王位は△5四角と攻防に打ち、守りを固めつつ相手陣に圧力を掛けます。角で成香を剥がした里見女流王位は、香で王手を掛けて寄せに入ります。山根女流二段は竜を見捨てて馬を取り、最後の反撃で形を作ってから投了となりました。
本局は横からの攻めに強い美濃囲いに構えた里見女流王位が思い切りよく飛車をぶつけて華々しい戦いになるかと思われましたが、お互いに相手の竜を働かせない受けを見せじっくりした中盤戦となりました。山根女流二段が1筋から反発し、相手の玉頭に殺到した辺りでは優勢になったように見えましたが、里見女流王位の執念の守りの前に力尽きました。
この結果、里見女流王位は3連勝で防衛を果たし、歴代1位となるタイトル獲得通算44期となりました。感想戦後の記者会見でその記録について聞かれて「大変光栄なことだと思っております」と答え、「より棋力向上に努めないと厳しくなっていくと思うので、そのあたりを自分なりに考えて勉強していきたいです」と謙虚に語りました。女流棋士に転向した西山朋佳女流三冠については「本当に刺激になりますし、頑張らないといけないなと思わされます」と語っており、今後の女流棋界の勢力図がどのように変化していくのかとても楽しみです。
タイトル初挑戦の山根女流二段は、残念ながらストレート負けに終わりましたが、各局とも積極的な指し手で見せ場を作れたのではないかと思います。対局後のインタビューでは「結果は残念ですけど、よい経験ができました。実力不足なので、実力をつけてまたこの舞台に戻ってきたいです」と前向きな発言をしていましたので、近い将来再びタイトル戦の場で戦う姿を見られると期待しています。