「観る将」が観た第37期竜王戦 挑戦者決定三番勝負第二局
8月13日に竜王戦の挑戦者決定三番勝負第二局が行われました。先勝した佐々木勇気八段が一気に自身初のタイトル挑戦を決めるのか、広瀬章人九段が勝って決着を第三局に持ち越すのか、注目の一局となりました。
戦型は相掛かり
先手の広瀬九段が相掛かりに誘導し中住まいに構えると、佐々木八段は飛先の歩を交換して浮き飛車に構えます。広瀬九段も飛先の歩を交換して深く引き、お互いに駒組みを進めて下段飛車の先後同型となると、角を交換して銀を6筋に上がります。佐々木八段は6筋の歩を伸ばし、広瀬九段が4筋の歩を伸ばすと、2筋の歩を突きます。
広瀬九段の自陣角
広瀬九段が4筋の歩を突き捨ててから飛車を走ると、佐々木八段は銀を立って銀冠の形を作ります。広瀬九段は9筋の歩を突き捨ててから▲5七角と据え、佐々木八段が飛車を浮いて香を取られる筋を消すと、2筋に歩を合わせて作った空間に歩で銀頭を叩いて1筋に引かせ、更に1筋の歩を突き捨ててから2筋に桂を跳ねて攻め掛かります。
佐々木八段の受け
佐々木八段は飛頭を叩いて吊り上げてから自陣に歩を打って受け、広瀬九段が3筋の歩をぶつけると、次の68手目を考慮中に昼休となりました。形勢はまったくの互角、各5時間の持ち時間の内、残り時間は広瀬九段が4時間19分、佐々木八段は4時間27分となっています。
揺れる評価値
昼休が明けるとすぐ、佐々木八段が5筋の歩を突き捨て、78分の長考で△5六歩と角頭を叩くと、広瀬九段は銀で取ります。佐々木八段が3筋に桂を跳ねてぶつけて交換すると、広瀬九段は飛車を下段に戻して両取りを防ぎますが、AIの評価値は佐々木八段の60%とわずかに傾きます。佐々木八段は3筋でぶつかっていた歩を取り、広瀬八段が66分の長考で2筋の歩を成り捨ててから1筋の香頭を歩で叩くと、5筋に歩を合わせますが、AIの評価値は広瀬九段の60%と揺れ動きます。
広瀬九段の"と金"
広瀬九段は1筋の香を取って"と金"を作り、佐々木八段が5筋の歩を取り込むと、銀を引いてかわします。佐々木八段は金銀両取りに△5六桂と打ち、広瀬九段が飛頭に香を打つと、飛車を9筋にかわします。後手の飛車を詰ます筋もあるようですが、広瀬九段がじっと1筋の"と金"を引くと、佐々木八段が次の88手目を考慮中に夕休となりました。残り時間は広瀬九段が1時間53分、佐々木八段は1時間44分となっています。
佐々木八段の大技
佐々木八段が夕休を挟む69分の長考で残り54分となり、8筋の桂頭を歩で叩くと、広瀬九段も76分の長考で残り37分となり、同金と応じます。佐々木八段が桂を6筋の銀と交換し、6筋の歩を突き捨ててから5筋に銀を打って攻め込むと、広瀬九段は自陣に桂を打って角を打たれる傷を消します。佐々木八段は△6五桂と歩頭に捨て、銀交換してから空けたスペースに金香両取りに角を放ちますが、AIの評価値は広瀬九段の71%と大きく傾いてきました。
広瀬九段が攻勢
広瀬九段が金を7筋に上がって香を取らせ、もらった桂を6筋に打って後手の角の利きを止めると、佐々木八段は6筋の角頭を歩で叩きます。広瀬九段は角を3筋に飛び出してかわし、佐々木八段が飛車を8筋に寄せて活用を図ると、5筋の玉頭を歩で叩いて金で取らせ、金頭を歩で叩いて銀で取らせ、▲6四桂と王手します。AIの評価値は広瀬九段の80%と大きく傾いてきました。
大きく振れる評価値
佐々木八段は金で桂を食いちぎって金取りに△5六桂と打ち、残り10分まで考えた広瀬九段が▲6三銀と王手すると、銀交換してから飛車で取ります。押さえ込まれていた後手の飛車角が息を吹き返し、AIの評価値は佐々木八段の57%と逆転模様です。広瀬九段は再度玉頭を歩で叩き、佐々木八段が玉を6筋にかわすと、何か誤算があったのか少し首を傾けてから5筋に桂を跳ねて飛車に当てます。
難解な終盤戦
少し前のめりになって考えていた佐々木八段は桂で金を取って王手し、広瀬九段が6分使って同玉と応じると、△6六飛と走って金桂との2枚替えをして角で王手します。広瀬九段は桂で合い駒し、佐々木八段が角で先手の攻めの拠点となっている桂を外すと、後手陣に飛車を打ち込んで王手します。AIの評価値は佐々木八段の95%と大きく傾いていますが、応手を間違えれば一気に逆転することを示しています。
ギリギリの攻防
佐々木八段は玉を7筋に上がってかわし、広瀬九段が直前に合い駒に使った桂を跳ねて王手すると、玉を8筋に寄ってかわします。1分将棋となった広瀬九段が後手の攻撃の拠点となっている角取りに金を打つと、佐々木八段は香で金と玉を田楽刺しにして角を守ります。広瀬九段が後手玉の腹に銀を打ち、詰めろを掛けて下駄を預けると、佐々木八段は香で金を取って王手します。広瀬九段は力なく同角と応じますが、後手玉には即詰みが生じており、一度席を外して戻ってきた佐々木八段が自信に満ちた手つきで桂で王手すると、静かに投了を告げました。
まとめ
本局は広瀬九段が経験豊富な局面に誘導し、佐々木八段も深い研究を活かして食い下がりました。わずかにリードを奪った広瀬九段は後手が繰り出す大技に丁寧に応じてリードを拡げましたが、佐々木八段は一瞬の隙を突いて押さえ込まれていた飛車角を活用して逆転すると、一気に先手玉を追い詰めました。広瀬九段は再逆転の狙いを秘めた攻め合いに勝負を賭けましたが、佐々木八段は適切に応じて138手の大熱戦を制しました。
自身初のタイトル戦となる竜王挑戦を決めた佐々木八段は、対局後「どうやったら藤井竜王と対局できるか、勝てるかをぼんやり考えていた時期だったですけど、七番勝負を戦うということで勝たなくてはいけないという明確な命題になったので、それに向けて取り組みたいと思います」と力強く話しました。10月5日に開幕する七番勝負まで1か月半以上ありますが、若き2人の天才が初めて激突する番勝負をワクワクした気持ちで待ちたいと思います。
竜王戦は読売新聞社が主催しています。
本稿は竜王戦・棋譜等利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ryuuou) に従っています。