第11期加古川青流戦三番勝負
9月25-26日、加古川青流戦三番勝負が兵庫県加古川市「鶴林寺」で行われました。加古川青流戦は、四段・奨励会三段上位者・女流棋士2名・アマチュア3名によるトーナメント戦で、決勝のみ三番勝負が行われます。若手にとっては登竜門とも言うべき棋戦で、過去の優勝者には永瀬拓矢王座や佐々木勇気七段が名を連ねています。昨年の第10期は緊急事態宣言を受け中止となっており、2年ぶりの開催となりました。
服部慎一郎四段は2020年プロ入りの22歳で、第4回ABEMAトーナメントのドラフトでは藤井三冠と糸谷八段から重複指名を受けた期待の新鋭です。三段時代の第9期加古川青流戦でも三番勝負に進出し、準優勝に終わったものの「四段になってこの舞台に戻ってきたい」とコメントを残しており、早くも有言実行を成し遂げました。今期は準々決勝で渡辺(和)四段、準決勝で高田四段を破って決勝に駒を進めました。
井田明宏四段は2021年プロ入りの24歳で、デビュー1年目での三番勝負進出となりました。今期は準々決勝で伊藤(匠)四段、準決勝で冨田四段を破って決勝に駒を進めました。
■第一局 9月25日 14時開始
振り駒で先手となった井田四段が相掛かりに誘導し、飛先の歩を交換した後7筋の歩も取ります。服部四段は角頭の歩を突く趣向を見せ、先手の飛車が2筋に戻るのを防ぎます。井田四段が飛車を六段目に下げて楽にすると、お互いに盤面中央付近に角を打ち合い、大駒が乱舞する激しい中盤戦となります。服部四段が1-2筋の歩を伸ばし、井田四段は8-9筋の歩を伸ばして突破を図ります。井田四段は角を切って7筋を突破し、王手銀取りに飛車を敵陣に打ち込み竜を作ります。服部四段は竜を攻めて自玉の安全を図りますが、井田四段は構わず寄せに入り勝利を掴み取りました。
■第二局 9月26日 10時開始
先手の服部四段は矢倉、井田四段は得意の雁木に構えます。服部四段は角交換後、自陣に角を打って後手の7筋の桂頭や9筋の桂を狙います。井田四段は飛車を浮いて桂頭を受け、金銀を繰り出して6筋の位を奪還します。井田四段が8筋を突破し"と金"を2枚作って先手玉に迫りますが、服部四段も後手の玉頭から反撃し自玉は早逃げで右辺に脱出を図ります。井田四段は飛車を3筋に回して先手玉を攻めますが、服部四段はこの飛車を捕獲すると再度後手陣に攻め込みます。最後は井田四段が先手の玉頭から迫りましたが、服部四段が受け切りました。
■第三局 9月26日 14時開始
再度振り駒が行われ、先手となった服部四段は第二局と同様の駒組みを進め、5筋の位を取ります。お互いに飛車を5筋に回して、天王山の位を巡り激しい攻防を繰り広げます。井田四段は8筋の歩を突き捨てから金を8筋に引っ張り出して先手陣を乱しますが、服部四段に落ち着いて金を7筋に戻されると攻めあぐねます。少し形勢を悲観していた井田四段は角を切って飛銀両取りに金を打つ勝負手を放ちますが、服部四段は冷静に飛車を逃げてから2枚の角で後手玉の寄せに入ります。最後は服部四段が桂で後手玉に詰めろを掛け、井田四段の投了となりました。
◆服部四段が初優勝
本シリーズは若手同士らしく、お互いに積極的な踏み込みを魅せ、観る者を楽しませてくれました。第一局を快勝した井田四段が第二局も攻め込み優勢かと思われましたが、服部四段が「忍者服部」の異名どおり玉を逃がし、逆転勝ちを収めて流れが変わりました。最終局は序盤から主導権を握った服部四段が、自陣を乱されながらも決め手を与えず、反撃に転じてからは鮮やかに寄せ切りました。
服部四段は第9期に続いての決勝進出で、嬉しい棋戦初優勝を遂げました。形に拘らない自由奔放な棋風と受けの強さを活かして、近い将来タイトルに絡むような飛躍をを期待したいと思います。井田四段は惜しくも優勝には届きませんでしたが、プロデビュー半年足らずで得た貴重な経験を活かし、今後も様々な棋戦で活躍することを楽しみにしたいと思います。