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「観る将」が観た第36期竜王戦第三局

10月25-26日、第36期竜王戦七番勝負第三局が北九州市の旧安川邸で行われました。藤井聡太竜王としては、勝てば防衛にあと1勝と迫る重要な一局となりました。伊藤匠七段としては、何としても勝って流れを変えたいところです。

前日の検分では、将棋連盟役員の森下九段が不在というハプニングもあったようですが、本局のために用意された厚さ七寸一分の盤や駒などの確認は滞りなく行われました。インタビューでは、藤井竜王は「ファンの方の期待に応えられるような内容にしたいと思います」、伊藤七段は「ここまで苦しいシリーズになっていますが、明日からは気持ちを一新して、よい将棋が指せればと思っています」と意気込みを話しています。


戦型は相掛かり

歴史の重みを感じさせる対局室に、伊藤七段が濃緑の着物と細い縦縞の袴に淡い緑色の羽織で入室すると、藤井竜王は濃紺の着物と鶯茶の袴に明るい水色の羽織で入室します。先手の伊藤七段が相掛かりに誘導し、飛車先の歩を交換してから7筋の歩も取ると、藤井竜王は銀で飛車を追い返し、手得を主張する将棋となります。

じっくりした序盤戦

伊藤七段が角道を開けると、藤井竜王は飛先の歩を交換し、右銀を四段目に繰り出します。伊藤七段は3筋から右銀を繰り出し、藤井竜王が玉を4筋に寄せると、54分の長考で金を5筋に上がって陣形を引き締めます。藤井竜王が62分の長考で5筋の歩を突いて先手の角の利きを止めると、次の35手目を伊藤七段が考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は両者とも6時間25分と並んでいます。

大長考の封じ手

昼休が明けてすぐ、伊藤七段が銀を4筋に上がると、藤井竜王は角道を開けて5筋の歩を支えます。伊藤七段は3筋の歩を突き捨てから46分熟考して銀で取り、藤井竜王が7筋に桂を跳ねると、更に55分の長考で2筋に歩を合わせます。藤井竜王は同歩と応じ、伊藤七段が銀で取ると、103分長考して次の44手目を封じました。形勢はほぼ互角、残り時間は藤井竜王が3時間43分、伊藤七段が4時間40分と1時間近い差が付いています。

角交換から銀交換

藤井竜王の封じ手は、5筋の歩をぶつけて角道を通す手でした。伊藤七段が37分考えて飛車で取ると、藤井竜王は角を交換してから△5二飛と飛車をぶつけます。伊藤七段が飛車を3筋にかわすと、後手玉はいきなり詰まされてしまう筋もあるので、藤井竜王は歩で飛車を引き付けてから、40分の熟考で銀をぶつけます。伊藤七段が銀交換に応じると、藤井竜王は金で取って先手の飛車を追います。

飛車の転回

伊藤七段が飛車を六段目に引くと、藤井竜王は5筋に歩を合わせて先手玉のコビンを開けてから、飛車を2筋に回して飛成を狙います。伊藤七段が次の59手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井竜王の54%とほぼ互角、残り時間は藤井竜王が2時間38分、伊藤七段が2時間24分と拮抗してきました。

強気の攻め合い

伊藤七段は昼休を挟む45分の長考で、飛成を受けずに▲3四歩と金頭を叩きます。次に金を取れば1手詰の詰めろとなる強手で、AIも金を引く手を推奨していましたが、藤井竜王は44分の熟考で△5七歩と金頭を叩いて攻め合いを選択します。伊藤七段は43分の熟考で金を4筋にかわして辛抱し、藤井竜王が更に46分熟考して飛車で桂を取って竜を作ると、歩で金を取って"と金"を作り詰めろを掛けます。激しい応酬となりましたが、AIの評価値は藤井竜王の65%と傾いてきました。

白熱の終盤戦

藤井竜王は角を打って王手し、伊藤七段が玉を7筋に引いて逃れると、角で金を取って馬を作りつつ竜の利きで王手します。伊藤七段は3筋に歩を打って竜の利きを止め、残り1時間を切った藤井竜王が桂で3筋の"と金"を取ると、飛車で取り返して竜を作り詰めろを続けます。どちらが勝っているのかわからないギリギリの終盤戦となり、藤井竜王が自陣に金を打って詰めろを逃れると、伊藤七段は52分の長考で残り29分となり、▲4二銀と王手し▲5四桂と打って詰めろを続けます。

受けなしの後手玉

藤井竜王は記録係にエアコンの設定を1度下げるよう依頼し、6筋の金を5筋に寄せて詰めろを逃れます。伊藤七段が角を打って利きを足すと、部分的に後手玉は受けがなく、藤井竜王はやむなく△3九竜と王手竜取りを掛けて竜を交換します。伊藤七段が角を取られる前に金を食いちぎり、7筋に銀を上がって自玉の懐を拡げると、藤井竜王は△5八歩成と"と金"を作って詰めろを掛けます。

ほどけない連続の詰めろ

伊藤七段が玉を8筋に早逃げすると、藤井竜王は馬を5筋に引いて詰めろを続けます。伊藤七段は8筋に飛車を打って王手しつつ自陣の守りにも利かせ、藤井竜王が玉を3筋に上がってかわすと、1分将棋にになるまで考えた上で、金を打って詰めろを掛けて形を作ります。先手玉には長手数の即詰みが生じており、藤井竜王が角打ちから王手を続けると、伊藤七段は数手指し続けてから投了を告げました。

まとめ

本局は伊藤七段が銀を繰り出して飛車先突破を図り、藤井竜王は先手の玉頭から攻め掛かる激しい展開となりました。伊藤七段が後手の飛車成りを受けずに詰めろを掛けに行くと、藤井竜王は多くのプロが怖くて指せないという、先手の金頭を叩いて攻め合う手順に踏み込み、お互いに相手玉を追い詰めました。最後は竜交換で自玉の危機を回避した藤井竜王が、馬を活用して詰めろを続けて寄せ切りました。
3勝0敗と防衛まであと1勝となった藤井竜王は、第四局への抱負を聞かれ「防衛のことはあまり考えずに、2日間しっかり集中して指したいと思います」と答えました。追い込まれた伊藤七段は「内容を改善して臨まないといけないのかなと思っています」と話しており、次局以降も熱戦になることを期待したいと思います。

竜王戦は読売新聞社が主催しています。
本稿は竜王戦・棋譜等利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ryuuou)に従っています。

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