「観る将」が観た第15期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦
3月11日に、マイナビ女子オープン挑戦者決定戦が行われました。準決勝で渡部愛女流三段を破った里見香奈女流四冠と、準決勝で香川愛生女流四段を破った山根ことみ女流二段の顔合わせとなりました。
里見女流四冠は女流タイトル獲得通算47期を誇る女流棋界の第一人者ですが、本棋戦とは少し相性が悪いのか獲得1期に留まっています。山根女流二段は24歳になったばかりの新鋭で、二度目の女流タイトル挑戦を目指します。両者の対戦は6局あり、これまで里見女流四冠が全勝しています。山根女流二段としては、女流タイトル初挑戦となった前期女流王位戦五番勝負で3連敗したリベンジを果たし、大きな壁を乗り越えたいところです。
本局は後手の里見女流四冠が中飛車に振り、これを見た山根女流二段が向かい飛車に振ります。24手目に里見女流四冠は△6二金と手早く陣形を整えると、まだ居玉の先手陣に△4五歩と仕掛けます。里見女流四冠が飛車を4筋に振り直すと、山根女流二段は23分の考慮で▲8四歩と反発します。歩を交換して山根女流二段が銀取りに▲8四同飛と走ると、里見女流四冠はノータイムで△4五銀と前進します。山根女流二段が飛車取りに▲8六角と覗くと、縦に逃げると銀を捕獲されてしまうので、里見女流四冠は飛車を5筋に戻します。
山根女流二段は▲4六歩と打って銀を追い返そうとしますが、里見女流四冠は強く△5四飛とぶつけて飛車交換を図ります。飛車打ちに弱い陣形の山根女流二段は33分考えて飛車を引きますが、里見女流四冠は歩で飛車を追います。山根女流二段が玉を早逃げして居玉を解消したところで昼休となりました。先手の飛車が捕獲されそうですが、形勢はむしろ山根女流二段の方がわずかに指し易いようです。各3時間の持ち時間の内、残り時間は里見女流四冠が2時間16分、山根女流二段が1時間15分と1時間近い差が付いています。
昼休明け、里見女流四冠は△7三桂から飛車を追いますが、山根女流二段は角を差し出し飛車を守ります。里見女流四冠は取れる角を取らずに、5筋の歩を突き捨ててから△4四飛と銀に紐を付けます。これで銀を取られた時に飛車の横利きが通り、角香交換ではなく角をタダ取りできる形になりました。山根女流二段が17分考えて▲7五歩と飛車の横利きを先受けすると、里見女流四冠タダでは取られそうだった銀を銀と交換します。このやり取りで、形勢はわずかに里見女流四冠に振れたようです。
山根女流二段は8五に飛車取りで銀を打たれるのを防いで歩を打ちますが、里見女流四冠は歩で先手陣を乱してから△7五飛と回ります。山根女流二段は飛車取りに▲8六角と引き、互いに飛車を取り合ってから▲7四歩と後手の玉頭に迫ります。里見女流四冠が構わず△8八飛と王手で打ち込むと、山根女流二段は▲7八銀と持ち駒を投入して辛抱します。里見女流四冠が取られそうだった桂を△8五桂~△7七桂成と攻撃参加させると、山根女流二段は香を補充し飛車取りに▲8九香と打ちます。
里見女流四冠は飛車を見捨てて▲4五桂と先手玉に迫ります。山根女流二段が飛車を取って下駄を預けると、里見女流四冠は△5七桂成から寄せに入り、△1三角と自陣にいた角まで攻撃に参加させます。山根女流二段は自陣に飛車を投入して執念の粘りを見せましたが、里見女流四冠は鮮やかな即詰みに討ち取りました。
本局は山根女流二段が前進してきた後手の銀を追い返そうとしましたが、里見女流四冠は銀を引かずに飛車交換を迫り、両者の意地がぶつかり合う激しい戦いとなりました。飛車を追われた山根女流二段が角と銀香の2枚替えを目指して少し優勢になったかと思われましたが、里見女流四冠はうまく銀交換に持ち込み形勢を入れ替えました。一度リードしてからの里見女流四冠の攻めは早く、出雲のイナズマと称される電光石火の寄せで勝ち切りました。
里見女流四冠が西山女王への挑戦権を獲得し、4月に開幕する2022年度最初の女流タイトル戦は、いきなり女流棋界を代表する2人の黄金カードが実現しました。本棋戦で両者が激突するのは第12期以来2度目となりますが、西山女王が防衛してクイーン称号を手にするのか、里見女流四冠が奪取して五冠に返り咲くのか、非常に注目されます。
山根女流二段は翌日に地元愛媛新聞のインタビューで、加藤清麗と伊藤女流名人が新たにタイトルを獲得したことについて「まだ全然、実力が足りない」と言いつつ「自分もそこに飛び込めたらいいですね」と話しています。今回は惜しくも挑戦権を逃しましたが、4人の女流タイトルホルダーを追う若手の筆頭として、2022年度を飛躍の年にして欲しいと期待しています。