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「観る将」が観た第9期叡王戦五番勝負第一局

4月7日、2024年度のタイトル戦の幕開けとして、叡王戦第一局が名古屋市の「か茂免」で行われました。全八冠を保持する藤井聡太叡王に挑むのは、昨年度の竜王戦、棋王戦に続いて挑戦権を得た伊藤匠七段です。

藤井叡王は第6期に豊島叡王(当時)から3勝2敗で奪取し、今期は4連覇を目指す戦いとなります。伊藤七段は今期、段位別予選の六段戦で渡辺(和)六段や服部六段らを破って本戦入りし、山崎八段、斎藤(明)五段、青嶋六段、永瀬九段を降して挑戦権を獲得しています。

伊藤七段は藤井叡王と同学年で、ライバルとしての成長を期待されていますが、これまで2度のタイトル戦を含む11局の対戦ではまだ1度も勝てていません。藤井叡王との対局を除けば、2023年度の勝率は0.850と驚異的で、本シリーズにおいて藤井叡王に対する苦手意識を払拭し、棋界No.2の地位を確立したいところです。升田幸三賞を受賞した角換わり持将棋定跡の様に、藤井叡王を上回る深い研究を見せることができるかがポイントになると思います。

前日に行われたインタビューで藤井叡王は「棋王戦から連続して戦う形になるので、作戦は棋王戦の対局をベースに叡王戦に向けてさらにブラッシュアップしていく必要があるのかなと思います」、伊藤七段は「前の2つの番勝負の時はタイトル獲得という所に期する思いが強かったですが、今回は純粋に良い将棋をお見せできればという思いの方が強いと感じています」と話しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

10人以上の関係者が待つ対局室に、挑戦者の伊藤七段が白い着物と灰色の袴に濃紺の羽織で入室すると、藤井叡王は若草色の着物と亜麻色の袴に淡い水色の羽織で入室します。振り駒で先手となった藤井叡王が角換わりに誘導すると、伊藤七段は堂々と受けて立ち、相腰掛け銀の駒組みを進めます。

伊藤七段の誘い

藤井叡王が▲8八玉と入城すると、伊藤七段は△6二玉と右玉に構えます。藤井叡王は飛車を左右に動かし、伊藤七段は金を細かく動かして、お互いに戦機を探ります。伊藤七段が5筋の位を取ってから△4二銀と引くと、藤井叡王は24分熟考し、誘いに応じて2筋の歩を交換します。

藤井叡王の強気の応手

伊藤七段は先手の飛車が浮いた瞬間に6筋の歩をぶつけ、藤井叡王が▲2九飛と引くと、24分の熟考で△6六歩と取り込みます。藤井叡王が強く▲6六同銀と応じると、伊藤七段は長考に沈み、次の70手目を考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井叡王が2時間43分、伊藤七段が2時間19分となっています。

長考の応酬

伊藤七段は想定外だったのか、昼休を挟む44分の長考で△5四銀と援軍を送り、藤井叡王が71分の長考で▲2二歩と桂頭を叩くと、更に47分の長考で△2八歩と飛頭を叩きます。藤井叡王は同飛と応じ、伊藤七段が8筋を継ぎ歩で攻めると、構わず▲2一歩成と桂を取って"と金"を作ります。

伊藤七段に一瞬のチャンス

伊藤七段は8筋の歩を取り込み、藤井叡王が▲7九桂と玉頭を補強すると、△6五銀とぶつけます。残り1時間を切った藤井叡王は▲5五銀とかわしつつ攻め合うAIの推奨する手を選択しますが、互角を示していたAIの評価値は徐々に傾き後手の勝率を59%と示します。AIは銀を前進して先手の玉頭に殺到する手を推奨していましたが、伊藤七段が△5四歩と銀頭を叩くと、再びほぼ互角に戻ります。

伊藤七段の辛抱

双方とも一手間違えれば形勢を大きく損ねてしまう難解な終盤戦となり、藤井叡王は▲6四歩と金頭を叩き、伊藤七段が金を5筋にかわすと、▲8二歩と飛頭を叩いて吊り上げてから、金取りに▲4一角と打ち込みます。伊藤七段も残り1時間を切り、30分の熟考で△4三金上と辛抱すると、藤井叡王は更に▲8三歩と飛頭を叩いて吊り上げてから、▲5六銀と働きの弱かった銀を戦場に送り込みます。

角と銀2枚の2枚替え

伊藤七段は△6九角と打ち込み、藤井叡王は飛車を引いて角に当てると、角を見捨てて△5五歩~△5六歩と先手陣の銀を2枚剥がします。ABEMAでは極自然な指し手と解説されていますが、ほぼ互角を示していたAIの評価値は、ついに藤井叡王の66%と傾きます。藤井叡王は▲7七桂と跳ねて銀に当てつつ自玉の懐を拡げ、伊藤七段が△6六歩と垂らすと、▲8四歩と飛頭を叩きます。

飛車切りの寄せ

1分将棋に突入した伊藤七段は同飛と応じ、藤井叡王が▲6五桂と銀を取ると、△6四金と自玉に迫る歩を取り払います。藤井叡王も▲6六飛と垂れ歩を取り、伊藤七段が△6五桂と桂を取りつつ先手玉の退路を狭めると、迷わず飛車で桂を食いちぎり、▲6三銀と王手します。後手がどのように応じても飛車を抜かれる筋があり、伊藤七段は秒読みの声が響く中、投了を告げました。

まとめ

本局は藤井叡王が2筋から仕掛け、伊藤七段は先手の玉頭から攻め掛かって主導権を握ったかに見えました。藤井叡王は難解な選択を迫り続けましたが、伊藤七段も辛抱して終盤まで形勢互角を維持し、どちらが勝ってもおかしくない熱戦となりました。最後は藤井叡王が銀2枚を犠牲に角を取り、眠っていた飛車を攻めに活用する構想で鮮やかに寄せ切りました。
伊藤七段は対局後、角取りに飛車を引かれたところで「△8七歩成と直接先手玉に迫る手と、角を取らせる代わりに銀2枚を取る手の二択で後者を選択し、先手玉が思いの外しぶとかったのが誤算だった」と悔やみましたが、まだまだ難解な局面が続く中、終盤になるにつれ正確にAIの推奨手を指し続ける藤井叡王に勝つ難しさを、またしても思い知らされる形となりました。
先勝した藤井叡王は次局に向け、「ここからは対局が続くことになるので、体調に気を付けて頑張っていきたいと思います」と話しており、本シリーズが好勝負になることを期待したいと思います。

叡王戦は、株式会社不二家が主催し、レオス・キャピタルワークス株式会社が特別協賛、中部電力・株式会社豊田自動織機・豊田通商株式会社・AMD・アパリゾート佳水郷が協賛しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。棋譜等は下記サイトをご覧ください。


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