「観る将」が観た第71期王将戦挑戦者決定リーグ 藤井竜王vs近藤七段
11月19日にALSOK杯王将戦の挑戦者決定リーグ(王将リーグ)、藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖)と近藤誠也七段の対局がありました。ここまで藤井竜王は4勝0敗と単独トップを走り、近藤七段も15日に永瀬王座から大逆転勝ちを収めるなど3勝1敗と好調で単独2位につけています。藤井竜王が勝てば挑戦権獲得決定、近藤七段が勝てば両者並んで最終局に臨むという大一番になりました。
近藤七段は渡辺名人の弟弟子にあたり、2015年プロ入りの25歳です。順位戦では5年目にB級1組まで昇級するスピード出世を果たしており、タイトル獲得が期待される若手有望株の一人です。両者の対戦成績は藤井竜王の4勝1敗ですが、2018年度の順位戦C級1組では近藤五段(当時)が勝ち、藤井七段(当時)に順位戦初黒星を付けて昇級を阻んだことで脚光を浴びています。
本局は先手の藤井竜王が相掛かりに誘導し、近藤七段も受けて立ちました。藤井竜王は▲7七角と上がって後手が飛先の歩を交換するのを防ぎ、近藤七段は△4四歩と突き角交換を拒みます。藤井竜王が飛先の歩を交換し▲2六飛と引いたところで昼休となりました。形勢はほぼ互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が3時間6分、近藤七段が3時間9分と拮抗しています。
対局が再開されると近藤七段は更に17分ほど考え、角道を開けて角交換します。藤井竜王が▲7九玉~▲6八金右と陣形を整えてから▲3五歩と仕掛けると、近藤七段は△7三桂と跳ねて力を貯めます。藤井竜王が3筋の歩を取り込んで▲2八飛と引くと、近藤七段は居玉のまま△6五桂と逆に仕掛けます。藤井竜王が▲6六銀とかわすと、近藤七段は9筋の歩を突き捨ててから飛先の歩を交換し、一段目に飛車を引きます。
藤井竜王は残り時間が1時間を切り、21分の考慮で3筋の銀を前進すると、近藤七段も残り時間が1時間を切り、31分の考慮で7筋の歩を伸ばします。勝負所を迎え、両者とも慎重に時間を使っています。藤井竜王は▲3三歩と叩いて後手の金を吊り上げ、▲3五歩と打って後手の銀を追い、後手陣にできた隙に▲2二角と打ち込みます。近藤七段は△8八歩と叩いて先手の玉を戦場に近づけ△7六歩と取り込みますが、藤井竜王は▲3三角成と後手の金を食いちぎって▲2三飛成と竜を作ります。藤井竜王が流れるような手順で2筋を突破し、形勢は少し傾いてきたようです。
近藤七段は△7七歩成から銀桂交換し、△7六銀と先手の玉頭に迫ります。藤井竜王は▲2一竜と王手で潜り込み▲3四歩と桂頭を狙いますが、近藤七段は△3二銀と竜取りに引いて粘ります。近藤七段は△7七銀と金を取って王手し、先手陣を睨みつつ竜取りの攻防に△1三角と打ちます。藤井竜王は▲4二銀と王手を利かせてから▲1一竜と香を取って角取りに逃げます。近藤七段は△6八角成と馬を作って先手玉に迫りましたが、藤井竜王に▲7八金と手堅く受けられると攻めが続かず、まだすぐに後手玉が詰む状況ではありませんが潔く投了を告げました。
本局は相掛かりから近藤七段が角を交換して角換わりのような将棋となりました。近藤七段は居玉のまま桂跳ねから仕掛けましたが、ある程度陣形を整えていた藤井竜王は丁寧に対処してから、歩で後手陣を乱して2筋を突破すると一気に差を拡げてしまいました。近藤七段も特に悪手はなかったように見えましたが、藤井竜王がいつもの藤井曲線を描く快勝となりました。
この結果、全勝を維持した藤井竜王は他に1敗の棋士がいなくなったため、最終局を待たずに渡辺王将への挑戦が決まりました。対局後に渡辺王将の印象を聞かれると「やはり作戦巧者というか序中盤の戦略は非常に優れている印象」と語り、1月に開幕する七番勝負で五冠への挑戦が始まります。タイトル戦への登場が期待される近藤七段は、今回は惜しくも機会を得ることができませんでした。最終局で豊島九段に勝てば初の王将リーグ残留となりますので、来期に向け一層の飛躍を楽しみにしたいと思います。
ALSOK杯王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟の主催、今期からALSOKが特別協賛しています。
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本稿は「王将戦における棋譜利用ガイドライン」に従い、利用許諾を得ています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ousho)
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