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「観る将」が観た第14期加古川青流戦決勝三番勝負第一局

10月13日、加古川青流戦決勝三番勝負の第一局が兵庫県加古川市の「刀田山 鶴林寺」で行われました。今期は岡部怜央四段と上野裕寿四段の顔合わせとなっています。

加古川青流戦は、四段・奨励会三段上位者・女流棋士2名・アマチュア3名によるトーナメント戦で、決勝のみ三番勝負が行われます。若手にとっては登竜門とも言うべき棋戦で、過去の優勝者には永瀬拓矢九段や佐々木勇気八段が名を連ねています。持ち時間は各1時間と短く、フルセットになった場合は第二局と同日に第三局が行われます。

岡部四段は2022年4月にプロ入りした25歳で、初参加の王位戦でリーグ入りを果たすなど、早くも頭角を現わしており、現在公式戦16連勝中と絶好調です。今期は齊藤優希三段、山川泰熙四段、森本才跳四段、生垣寛人三段を破って決勝に駒を進めました。

上野四段は2023年10月にプロ入りした21歳で、デビュー直後にいきなり新人王戦で優勝し、棋戦優勝の最速・最短記録を塗り替えています。今期は宮嶋健太四段、鳥巣友希三段、狩山幹生四段、古井丈大三段を破って決勝に駒を進めました。


角換わり腰掛け銀対早繰り銀

振り駒で先手となった岡部四段が角換わりに誘導し腰掛け銀に構えると、上野四段は早繰り銀で応じます。岡部四段は4筋の歩をぶつけ、上野四段が△4三金と上がると、4筋の歩を取り込んで▲4六歩と打ち直します。上野四段は△5五銀左とぶつけ、岡部四段が△4七銀と引いてかわすと、7筋の歩をぶつけます。

上野四段が攻勢

岡部四段が飛先の歩を交換して下段に引くと、上野四段は7筋の歩を取り込んで銀を吊り上げ、△6六銀と繰り出します。岡部四段が銀頭に▲6七歩と打つと、上野四段も銀頭に△7五歩と打って取り合いを目指します。岡部四段は▲8五銀と後手の飛車先の歩を食いちぎり、上野四段が△6七銀成と王手で捨ててから△8五飛と銀を取り返すと、▲5八玉と引いて局面を落ち着かせます。

岡部四段の馬

上野四段は△8二飛と引き、岡部四段が▲6一角と打ち込むと、△8二玉と入城して角切りから飛成の強襲を防ぎます。岡部四段は▲6七歩と打って自玉のコビンの傷を消し、持ち時間を使い切った上野四段が△6二飛と角に当てると、▲8三角成と馬を作ります。上野四段は△7六歩と伸ばし、岡部四段が1筋を端攻めして香を吊り上げ、香取りに▲2五銀と打つと、△1三銀と打って香を支えます。

千日手が成立

岡部四段は▲8四馬と引いて飛車に当て、上野四段が△8二飛と回して馬に当て返すと、▲7四馬と寄って6筋の歩を狙います。上野四段は△6二飛と戻して歩を支え、岡部四段が再度▲8四馬と飛車に当てると、△8二飛と馬に当て返して同一局面が現れます。両者とも打開できずに同じ手順が繰り返され、16時15分に千日手が成立しました。

岡部四段が1手損角換わり

指し直し局は準備ができ次第ということで、16時23分から行われました。両者とも持ち時間を使い切っていたため、初手から1手30秒未満となります。先後を入れ替えて後手となった岡部四段は、8手目に角を交換して1手損角換わりを選択し、上野四段が早繰り銀を見せると、腰掛け銀で応じます。

岡部四段の仕掛け

上野四段が3筋の歩をぶつけると、岡部四段は銀矢倉の形で受け、両者とも歩がぶつかったまま駒組みを進めます。端歩の交換を入れてから岡部四段が3筋の歩を交換し、8筋の歩を突き捨てると、歩で取ると継ぎ歩攻めから十字飛車の筋があるので、上野四段は銀で取ります。岡部四段が6筋の歩をぶつけると、取ると王手飛車があるので上野四段は▲6七金右と支えます。

上野四段の端攻めに岡部四段が反発

岡部四段は6筋の歩を取り込んで先手の金を上ずらせ、△3四歩と打って銀を追ってから金取りに△6二飛と回します。上野四段は▲7七銀と引いて金に紐を付け、岡部四段が△3一玉~△2二玉と入城すると、▲6四歩と打って飛車の利きを止めてから1筋を端攻めします。岡部四段は△1六歩と伸ばし、香で取らせてから△1二歩と受け、上野四段が▲7五金と前進すると、香取りに△4九角と打ちます。

岡部四段が攻勢

上野四段は▲1三歩成と成り捨てて▲1七歩と香を支え、岡部四段が△6六歩と垂らすと、銀で取ります。岡部四段が△7四歩と突いて金で取らせ、△7六角成と馬を作って銀に当てると、上野四段は▲7七銀と引いて馬に当て返します。岡部四段は△6五馬と金に当てて催促し、上野四段が▲6三歩成から金交換して飛桂両取りに▲7二角と打つと、△6四飛とかわします。後手の大駒が捌け、形勢はわずかに岡部四段が指し易くなってきたようです。

上野四段の辛抱

上野四段が▲8一角成と桂を取って馬を作ると、岡部四段は歩の連打で先手の銀の位置を変え、△6七金から金銀交換して△4七馬と銀に当てつつ飛車の利きを金に当てます。上野四段は銀を諦めて▲6六歩と飛車の利きを止め、岡部四段が▲4六馬と銀を取って飛車に当てると、▲3七歩と打って辛抱します。

飛車を見捨てての寄せ

岡部四段が△7七銀と放り込んで銀桂交換し、金取りに△8五桂と打つと、上野四段は飛桂両取りに▲7五金と打ちます。岡部四段が金桂交換してから飛車を見捨てて△5七馬と先手玉に迫ると、上野四段は▲6四金と飛車を取ります。岡部四段は金取りに△7五銀と打って先手玉の上部を押さえ、上野四段が▲3一銀と王手すると、取ると王手銀取りがあるので△1二玉とかわします。上野四段が反撃のチャンスを捉え、形勢は混沌としてきたようです。

飛車切りからの即詰み

上野四段は▲2四桂と歩頭に捨てて後手玉に迫り、岡部四段が△7六歩と王手してから△2四銀と歩を取ると、▲7二飛と打ち込んで詰めろを掛けつつ自玉に迫る銀に当てます。岡部四段は△6六馬と銀に紐を付けつつ王手し、上野四段が▲9八玉とかわすと、△5二桂と打って詰めろを逃れます。上野四段は後手の馬が動いたことで浮き駒になった銀を取って▲2四飛と走り、岡部四段が△2三歩と打つと、同飛成と食いちぎります。後手玉には即詰みが生じており、岡部四段は数手指し続けましたが、上野四段が▲2四歩と王手すると投了を告げました。

まとめ

千日手局は、上野四段が主導権を握ったかに見えましたが、岡部四段は馬を作って飛車を追い、千日手が成立しました。
指し直し局は、岡部四段が攻め込んで優勢となりましたが、飛車を見捨てての寄せに誤算があったようで、反撃に転じた上野四段が一気に後手陣を崩して寄せ切りました。
翌日に行われる第二局に向け、上野四段は「三番勝負なので、2勝しないといけません。気を引き締めて頑張りたいと思います」、岡部四段は「第三局につなげられるように、精一杯指したいです」と話しました。フルセットになった場合は当日に決着局が指される短期決戦ですが、両者が持ち味を出し切った熱戦になることを期待したいと思います。

加古川青流戦は、加古川市・公益財団法人加古川市ウェルネス協会・公益社団法人日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご確認ください。


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