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「観る将」が観た第71期王座戦挑決トーナメント 藤井竜王1回戦

5月10日に王座戦挑戦者決定トーナメントの1回戦、藤井聡太竜王と中川大輔八段の対局がありました。藤井竜王はシードされて挑決トーナメントからの出場、中川八段は二次予選からの出場で、深浦九段、渡辺(大)六段、横山(泰)七段を破って挑決トーナメントに勝ち上がりました。

全冠制覇を目指す藤井竜王にとって、意外なことに王座戦では初参加の第66期にベスト4に進出したのがこれまでの最高成績です。第67,69,70期は挑決トーナメント1回戦で敗退、第68期は挑決トーナメントに進めず二次予選で敗退しています。

中川八段は1987年プロ入りの54歳で、趣味の登山で真っ黒に日焼けした精悍な顔とダンディなファッションでお馴染みの人気棋士です。
両者は昨年度、棋王戦本戦とNHK杯本戦で対戦しており、藤井竜王が2勝しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

振り駒で先手となった藤井竜王が角換わりに誘導し、中川八段は受けて立ち、相腰掛け銀の駒組みを進めます。藤井竜王が1筋の位を取ると、中川八段は積極的に6筋の位を取ります。両者とも小刻みに時間を使い、中川八段が34手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、各5時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が4時間21分、中川八段が3時間41分となっています。

藤井竜王の仕掛け

中川八段が昼休を挟む32分の熟考で銀を上がって6筋の位を支えると、藤井竜王は27分考えて4筋の歩をぶつけて仕掛けます。中川八段は力強く△6三金と上がって銀を支え、藤井竜王が銀を5筋に腰掛けると、4筋でぶつかった歩を取ります。藤井竜王が48分の長考で桂を跳ねて銀に当てると、中川八段はすぐに銀を4筋に上がってかわします。AIの評価値は藤井竜王の61%とわずかに傾いています。

急所の角打ち

藤井竜王が玉を7筋に引くと、中川八段は飛車を4筋に回します。藤井竜王は歩で桂を支え、中川八段が玉を6筋に上がって金に紐を付けると、飛先の歩を交換して下段に引きます。中川八段が61分の長考で△5四角と据えて攻防に利かすと、藤井竜王は金を5筋に寄せて守りを固めます。中川八段も飛車を下段に引いて陣形を整えますが、藤井竜王は3筋の歩を突き捨ててから▲3四角と打ち、飛車先突破を図りつつ後手玉の脇を睨みます。

中川八段が先手の玉頭から攻勢

中川八段は26分の熟考で7筋の歩を突き捨て、残り1時間を切ったところで7筋の銀頭を歩で叩きます。藤井竜王は銀で歩を取り、中川八段が6筋の歩を突いて角の利きを銀に当てると、金を上がって銀を支えます。中川八段が次の62手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は藤井竜王の84%と大きく傾いています。残り時間も藤井竜王が2時間11分、中川八段が31分と1時間半以上の差がついています。

激しい駒の取り合い

中川八段が夕休を挟んで26分熟考し、△6五銀とぶつけて勝負を挑むと、藤井竜王は14分の少考で銀交換に応じます。中川八段は先手陣に銀を打ち込んで金と交換し、歩を打ち込んで桂交換し、△7六角と銀を食いちぎって詰めろ銀取りに金を打ち込みます。藤井竜王は銀を諦めて▲6八金と寄り、銀を取らせる代わりに飛車取りに▲5二銀と打ち込んで反撃に転じます。

一気の寄せ

中川八段は飛車を7筋にかわして間接的に先手玉を睨みますが、藤井竜王は金銀交換してから▲5二角打と王手します。中川八段は上部脱出を試みますが、藤井竜王は金を打って後手玉を追い返します。藤井竜王が▲6一角成と馬を作った手が詰めろ飛車取りの厳しい一着となり、中川八段は投了を告げました。

まとめ

本局は藤井竜王が得意とする角換わりに誘導し、中川八段は6筋の位を取って金銀で厚みを築く独特の陣形で対抗しました。藤井竜王が機敏に仕掛けて急所に角を据えると、中川八段は厚みを活かして先手の玉頭から攻め掛かりました。藤井竜王は丁寧に応じてから反撃に転じ、2枚の角と金で瞬く間に寄せ切りました。
藤井竜王は鬼門となっていた王座戦挑決トーナメントの1回戦を突破し、対局後のインタビューでは「(王座戦では初参加でのベスト4以降)結果が出せていないので、少しでも上に進めるように頑張りたいと思います」と、いつもながら謙虚に話しました。周囲は八冠制覇への期待で盛り上がっていますが、ご本人はいつも通り着実に一歩一歩階段を昇っていくものと思います。
中川八段は今期の挑決トーナメントに最年長で参戦した感想を求められ「(年寄扱いされるのは面白くないが)八冠阻止を少しでも頑張りたいなという気持ちで対戦しました」と答えました。背筋を伸ばした姿勢と気迫のこもった指し手には、中川八段の気持ちが十分に感じられる好局だったと思います。

王座戦は、日本経済新聞社と日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「王座戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ouza)

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