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『考えて、考えて、考える』を読んで

伊藤忠商事の社長などを歴任した丹羽宇一郎さんと、将棋界の歴史を塗り替え続ける藤井聡太さんの対談本『考えて、考えて、考える』を読みました。

「はじめに」で丹羽さんは、2018年に藤井さんと初めて出会った頃の印象や、現在に至るまで見守ってきて見えたところをまとめたと綴っています。名経営者の目に映る藤井さんは、「勝とうとするのではなく、困難を楽しむ。そんな藤井聡太さんを、友人としても、人間としても、心から応援していきたい」と思わせる存在だそうです。涙もろくなってきた私は、ここまで読んで早くもウルウルしてきました。

本文は、ずっとお二人の対談形式が続きます。デビュー戦や29連勝当時のこと、普段の生活や高校生活のこと、様々なエピソードから藤井さんの考え方や信念を浮かび上がらせています。特に最終章では将棋AIに対する藤井さんの考え方が示されていて、非常に興味深い内容になっています。日頃から記者の質問に答える形で「より良い将棋をお見せしたい」「もっと強くなりたい」と繰り返し話していますが、その裏にある思いが少しだけ詳しく語られています。

藤井さんはこれまで、将棋界の常識を覆す記録を次々に更新してきました。もちろん将棋における類稀なる才能が大きな要因であることは間違いありません。しかし藤井さんの遥か先を見つめる心が、大一番でも実力を発揮する原動力になっていることも見逃せません。数々の記録には関心を持たず、タイトル戦ですら自らの実力をつける場という捉え方が、必要以上に緊張することもなく萎縮などとは無縁の戦い方となって表れているように思います。

対談の中には「考えて、考えて、考える」という発言は出てきません。本書を読み終えてみると、なんと相応しいタイトルだと思えてきます。帯に記された「自分には勝つことより大切なことがあります。」という台詞も、本文には出てきません。しかし藤井さんの信念を象徴する言葉であることがわかってきます。将棋ファンだけでなく、若いビジネスマンにもお勧めしたいと思います。

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