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「観る将」が観た第49期女流名人戦第二局
1月22日に島根県出雲市の出雲文化伝承館で、岡田美術館杯女流名人戦五番勝負第二局が行われました。第一局を落とした伊藤沙恵女流名人が巻き返すのか、開幕局を制した西山朋佳女流二冠が一気に奪取に王手を掛けるのか、注目の一局となっています。
前日に行われた激励式で、伊藤女流名人は「第二局以降、自分の力を出して良い将棋をお見せしたい」、西山女流二冠は「第一局と変わらず、新鮮な気持ちで挑めたら」と挨拶しています。
挑戦者は三間飛車から地下鉄飛車
先手の西山女流二冠が初手で三間飛車に振り美濃囲いに構えると、伊藤女流名人は左美濃から銀冠に組み替え、更に穴熊を目指します。伊藤女流名人が5筋の位を取ると、西山女流二冠は金銀を前進し、一段目に引いた飛車を2筋に戻します。小刻みに時間を使う伊藤女流名人に対し、西山女流二冠はあまり時間を使わずに指し進めます。
女流名人の銀冠穴熊
伊藤女流名人が金で穴熊のハッチを閉めると、西山女流二冠は初めて手を止め、19分の考慮で5筋の歩をぶつけます。伊藤女流名人が8筋の歩を突き捨ててから銀冠穴熊を完成させると、西山女流二冠は26分考えて、5筋の歩を交換してから▲6八角と引きます。次の48手目を伊藤女流名人が考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は伊藤女流名人が1時間30分、西山女流二冠が2時間1分となっています。
挑戦者の端攻め
伊藤女流名人は昼休を挟む35分の長考で5筋の金頭を歩で叩き、△6四角~△8六角とぶつけます。西山女流二冠が桂を跳ねて角交換を拒否すると、伊藤女流名人は角を引いて飛車先を通します。西山女流二冠が歩で飛車の侵入を防ぐと、伊藤女流名人は9筋の歩を突き、端桂から桂交換を狙います。西山女流二冠は構わず4筋の歩を突いて角の利きを通し、2筋の歩を突き捨ててから銀頭を歩で叩いて吊り上げ、更に1筋の歩をぶつけて端攻めします。
女流名人の押さえ込み
残り1時間を切った伊藤女流名人は再び5筋の金頭を叩き、先手の角の位置を変えてから桂交換して飛車を走ります。西山女流二冠は銀取りに▲1六桂と打ち、伊藤女流名人が銀を前進して1筋の歩を取ると、▲2四歩と垂らして拠点を築きます。伊藤女流名人が2筋の歩を伸ばして先手の飛車を押さえ込むと、西山女流二冠は6筋の歩を突いて角を上がるスペースを作りますが、伊藤女流名人は先に△3三角と上がって防ぎます。形勢はわずかに伊藤女流名人に傾いているようです。
桂の攻防
西山女流二冠は5筋に歩を打ち、後手の角を引き付けてから銀を前進して角に当てます。伊藤女流名人が△3三角と引くと、西山女流二冠は更に▲2五桂と跳ねて後手の角を追います。西山女流二冠も残り1時間を切り3筋の歩をぶつけると、伊藤女流名人は△3三桂打と合わせて交換します。西山女流二冠は▲3七桂と打って後手からの桂跳ねを防ぎますが、伊藤女流名人は△5三桂と打って追撃します。
女流名人の竜
西山女流二冠が構わず3筋の歩を取り込んで桂に当てると、伊藤女流名人は△4五桂左とかわして角に当てます。西山女流二冠は▲3五角とかわしますが、伊藤女流名人は△8八飛成と待望の竜を作ります。西山女流二冠が歩で竜を追うと、伊藤女流名人は王手で桂を交換してから竜を1つ引きます。
竜への圧力
西山女流二冠が守りの金を左に寄って後手の竜に圧力を掛けると、伊藤女流名人は金取りに△4五桂と跳ねて攻め合います。西山女流二冠が金をかわすと、伊藤女流名人は2筋に"と金"を作ります。西山女流二冠が▲7七金とぶつけて竜を追い、▲4五金と根元の桂を取り払うと、残り10分を切った伊藤女流名人は△2六銀と出て角に当てます。形勢はわずかに西山女流二冠に傾いているようです。
激しい玉頭戦
西山女流二冠が▲4六角と引き竜銀両取りや角銀両取りの桂打ちを狙うと、伊藤女流名人は△5三銀と上がって逆に角銀両取りの桂打ちを狙います。西山女流二冠は構わず2筋の歩を成り捨て、金取りに▲3五桂と打ちますが、伊藤女流名人は銀で桂を食いちぎり、歩で"と金"を守りつつ飛車を押さえ込みます。
竜と飛車の取り合い
再び形勢は混沌とし、伊藤女流名人は竜を5筋に回して角銀両取りに△4四銀と出て竜の利きを先手陣に通しますが、西山女流二冠は構わず桂を打って1筋の香と交換し、竜取りに▲5六香と打ちます。伊藤女流名人が王手で△1五角と出てから飛頭を歩で叩くと、お互いに竜と飛車を取り合います。形勢は西山女流二冠に大きく傾きました。
豪快な決め手
西山女流二冠が▲2四桂から角交換し、▲3一銀と打って詰めろを掛けると、伊藤女流名人は△2三金引と逃れます。西山女流二冠が1筋の香を走ってから▲2四歩と打って追撃すると、伊藤女流名人は△1五角と打って粘ります。30分以上残していた西山女流二冠は、3分の少考で▲2三歩成から後手玉を追い詰めます。伊藤女流名人は△5九飛の王手から△5二飛成と竜を自陣に引き付けますが、西山女流二冠が豪快に▲5五飛と竜角両取りに打つと、無念の投了を告げました。
まとめ
本局は伊藤女流名人が銀冠穴熊の堅陣を築き、西山女流二冠は地下鉄飛車のような形で飛車を2筋に戻し、端を絡めて攻め掛かりました。伊藤女流名人は飛車をさばいて優勢と思われる局面もありましたが、西山女流二冠は守りの金を自玉から遠ざけて竜を追う力強い受けで主導権を取り戻しました。終盤は激しい攻防となりましたが、残り時間にも余裕のあった西山女流二冠が着実に寄せ切りました。
西山女流二冠は連勝で女流名人奪取に王手を掛けました。終局後には「結果は幸いしていますが内容は負けの内容なので、しっかり反省して次局以降に挑みたいと思います」と気を引き締めるように話しています。
伊藤女流名人は「苦しい星取りにはなりましたが、自分のできる限りのことをやりたいと思っています」と話しており、次局以降の巻き返しに期待したいと思います。