「観る将」が観た第70期王将戦七番勝負第六局
3月13-14日、島根県大田市「さんべ荘」で行われた王将戦第六局を観た感想です。本局の記録係は、先日四段昇段を決めたばかりの高田三段が務めています。
渡辺王将が3連勝の後、永瀬王座が2連勝して迎えた1局となります。渡辺王将としては本局で決着をつけたいところですが、永瀬王座も先手番の本局を制して追いつきたいところです。渡辺王将は3月10日に棋聖戦決勝トーナメントで斎藤八段を破ってから中2日、永瀬王座は3月11日に順位戦B級1組最終局で近藤七段を破りA級昇級を決めてから中1日での対局となりました。
本局は先手の永瀬王座の誘導で角換わりの将棋となりました。永瀬王座が早繰り銀を見せると渡辺王将は腰掛け銀で対抗します。本シリーズでは積極的な仕掛けを見せている永瀬王座が、本局でも▲3五歩と仕掛けました。永瀬王座は銀交換に成功すると、敵陣に角を打ち込み攻め掛かります。渡辺王将は持ち駒の銀を打って手堅く受け止めますが、永瀬王座が飛車取りに銀を打ったところで昼休となりました。
昼休明け、永瀬王座は馬を作って飛車を追い掛けますが、△8四飛▲6二馬△8三飛▲7二馬の手順が繰り返されます。永瀬王座が回避する手順もあったようですが、14時11分、72手目に千日手が成立し指し直しとなりました。
指し直し局は15時11分、先後を入れ替え渡辺王将の先手で開始されました。持ち時間は持ち越しで、渡辺王将は6時間32分、永瀬王座は5時間54分となっています。
本局は先後が入れ替わっていますが、13手目まで千日手局とまったく同じ進行になりました。先に手を変えたのは後手の永瀬王座で、1筋の端歩を受けずに9筋の歩を突きました。これは本シリーズ第五局と同じ進行です。25手目に渡辺王将は▲4五桂と仕掛けますが、第五局は永瀬王座が勝っているので、どこで渡辺王将の改良手順が指されるのか注目されます。
両者の研究が真っ向から激突する形になりましたが、先に手を変えたのはまたしても永瀬王座でした。32手目に8筋の歩を突き捨て7筋の歩も突き捨てると、敵陣に持ち駒の角を打ち込み中段に馬を引き付けます。渡辺王将が1筋の端攻めを仕掛けると、永瀬王座は次の42手目を封じました。形勢は互角のようですが、残り時間は渡辺王将の5時間29分に対して永瀬王座は4時間26分と、1時間以上渡辺王将が残す形になりました。
封じ手は、1筋を自然に受ける△1五同歩でした。渡辺王将は1筋に歩を連打し突破を図りますが、永瀬王座は△2三金~△1三金と、玉の守りは薄くなりますが攻められている1筋を手厚く受けます。少し意表を突かれたのか、渡辺王将がじっくり時間を掛けて3筋の歩を伸ばしたのに対し、永瀬王座が△2三歩としたところで昼休となりました。難解な中盤戦となり、形勢はほぼ互角のようですが、持ち時間は逆転して渡辺王将の方が20分程短くなっています。
昼休明け、渡辺王将は3筋の歩を成り捨て桂交換し、金銀両取りに▲2五桂と打ちます。金を取った後、持ち駒の角を▲4五角と打って2筋と6筋の両方に睨みを利かせます。永瀬王座は、持ち駒の桂で6筋を守りますが、渡辺王将は▲2三角成~▲2三飛成と角を切って竜を作ります。永瀬王座は馬の利きを活かして△4七桂と王手を掛けて反撃しますが、渡辺陣にはまだ余裕があり、形勢も渡辺王将に傾きつつあるようです。
苦しくなってきた永瀬王座は、△1二飛と竜取りを掛けます。この飛車は一見タダ捨てですが、取ると王手竜取りを掛けられるので取れません。永瀬王座はこのラインを使って竜を相手陣に押し戻します。永瀬王座は角で王手してから桂香を取って持ち駒を補充しますが、渡辺王将に▲3五歩から銀を取られ、形勢ははっきり渡辺王将の勝勢となってきました。
永瀬王座の攻めが途切れると、渡辺王将は▲7四桂と相手玉の左辺への逃走ルートを塞ぎ、右辺から寄せに入ります。永瀬王座は自陣に香を打って粘りますが、2枚の竜と金で攻められ受けがなくなり無念の投了となりました。
今回の千日手局は、永瀬王座が積極的な仕掛けを見せ、まずまずの序盤戦に見えましたが、どこかに誤算があったのか回避することなく千日手にしてしまいました。持ち時間にも30分以上差があって手番も入れ替わり、指し直しとなった時点で渡辺王将がかなり得をしたように思います。千日手を苦にしない永瀬王座らしい選択だったのかもしれませんが、本局では先手番で勝ち切れなかったのが悔やまれます。
指し直し局は第五局と同じ序盤となりましたが、永瀬王座が先に研究手順を見せて馬を作り、渡辺王将も1筋から戦果を挙げ形勢互角のまま中盤戦に突入しました。渡辺王将が角を切って右辺を突破したのが好判断だったようで、左辺への逃走を阻止して右辺から殺到し、一気に寄せ切った攻撃は迫力がありました。
本局の結果、渡辺王将は4勝2敗(1千日手)となり、防衛を果たしました。タイトル獲得は通算27期となり、谷川九段と並び歴代4位タイとなっています。名人および五番勝負が進行中の棋王と合わせ三冠を堅持し、第一人者としての貫録を示しました。
本シリーズの永瀬王座は、積極的な指し回しが印象に残りました。第二局の終盤に渡辺王将が飛車で王手を掛けた際、永瀬王座が銀を引いて受けた局面がありましたが、今までの永瀬王座なら持ち駒の金を打ち、攻めが遅くなってもがっちり受けていたような気がします。第四局や第五局では、渡辺王将の反撃に怯むことなく攻め続け、最短の寄せを目指して勝ち切りました。Numberの将棋特集第二弾で「アマの将棋は負けにくいけど~中略~プロの超一流棋士には通じない。捨てなければいけない。」と語っていましたが、タイトルを奪取・防衛していくために、これまでの「負けない将棋」から「勝つ将棋」への脱皮を図っているように感じます。第六局では残念ながら鋭い攻めは観られませんでしたが、今後も新しい永瀬将棋を魅せてくれるのを期待したいと思います。
王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催です。
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