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「観る将」が観た第72期王座戦五番勝負第二局

9月18日、名古屋市の名古屋マリオットアソシアホテルで王座戦五番勝負第二局が行われました。先勝した藤井聡太王座が防衛にあと1勝と迫るのか、永瀬拓矢九段がタイスコアに戻すのか、注目の一局となりました。

前日のインタビューで、藤井王座は「一手一手しっかり読みを入れて、積極的な将棋を指していきたいと思っています」、永瀬九段は「タイに戻せるかどうかの佳境ということで、精一杯頑張りたいと思います」と話しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

落ち着いた雰囲気の和室に設けられた対局室に、永瀬九段が淡い水色の着物と灰緑の袴に青灰色に蜻蛉の模様が入った羽織で入室すると、藤井王座は淡い黄色の着物と灰色の袴に白い羽織で入室します。先手の藤井王座が角換わりに誘導し、パタパタと相腰掛け銀の駒組みが進みます。

藤井王座の仕掛け

藤井王座は玉を8筋に入城してから4筋に桂を跳ね、永瀬九段が銀を2筋に引いてかわすと、3,1筋の歩を突き捨ててから飛先の歩を交換します。永瀬九段は桂取りに4筋の歩を突き、藤井王座が飛車で取って王手すると、金を上がって飛車を追い、2筋に歩を打って追い返してから、再度4筋の桂取りに歩を打ちます。

前例のある進行

藤井王座は7筋の歩を取り込んで銀で取らせ、銀頭を歩で叩いて引かせてから1筋に歩を垂らして香を吊り上げ、▲5八角と打って桂を取らせる代わりに香を取ります。永瀬九段が金を3筋に寄せて先手の飛車先突破を防ぐと、藤井王座は4筋の歩を取ります。ここまで対局開始からわずか30分、75手目まで前例もある定跡化された進行が続きます。

永瀬九段の研究手順

永瀬九段が9筋の歩をぶつけて前例を離れると、藤井王座は初めて手を止めます。ABEMAでは先手がこの歩を取ると一気に敗勢に陥る手順を解説していましたが、藤井王座は56分の長考でAIが推奨する4筋の歩を伸ばす手を選択します。研究手順なのか永瀬九段がノータイムで7筋の銀頭を叩いて吊り上げ、銀取りに△8四桂と打つと、藤井王座は51分長考し、銀を見捨てて▲4六香と攻め合います。この手で永瀬九段も研究を外れたのか、次の82手目を考慮中に昼休となりました。各5時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王座が2時間45分、永瀬九段が4時間7分と1時間以上の差が付いています。

永瀬九段が連続長考

永瀬九段は昼休を挟み74分長考して桂で銀を取って王手し、藤井王座が玉を7筋に上がってかわすと、30分の熟考で8筋の歩を突き捨ててから4筋の香頭を歩で叩きます。藤井王座が同香と応じると、永瀬九段は更に30分考えて△5四銀と上がって玉頭を補強します。藤井王座が薄くなった7筋の桂頭を歩で攻めると、永瀬九段は54分の長考で△7五銀と打って攻め駒を足しますが、AIの評価値は藤井王座の60%とわずかに傾いてきました。

藤井王座が攻勢

藤井王座は7筋の桂を歩で取ってから4筋の歩を成って王手し、銀香交換してから金取りに▲5五桂と打ちます。永瀬九段は金を上がってかわし、藤井王座が次の99手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は藤井王座の67%と傾き、残り時間は藤井王座が1時間24分、永瀬九段が1時間28分と拮抗しています。

飛車取りを放置しての寄せ

夕休が明け、藤井王座が7筋の金頭を歩で叩いて引かせ、更に4筋の金頭を叩くと、永瀬九段は金で5筋の桂を食いちぎり、飛車取りに2筋に香を打ちます。藤井王座は4筋の歩を伸ばして詰めろを掛け、永瀬九段が玉を5筋に寄って逃れると、金取りに▲7三銀と打って挟撃態勢を作ります。

懸命の反撃

永瀬九段は35分の熟考で残り30分となり、8筋に銀を出て王手し、藤井王座が玉を6筋に寄ってかわすと、△3四角と王手し守りにも利かせます。藤井王座は玉を5筋に引いてかわし、永瀬九段が4筋の金頭を歩で叩くと、手抜いて7筋の金を銀で取ります。永瀬九段は歩で金を取って王手してから玉頭を歩で叩き、藤井王座が角で取ると、角頭を歩で叩きます。藤井王座が▲4三金と王手して角金交換し、2筋の香頭に角を打って王手すると後手玉は受けがなく、永瀬九段は姿勢を正して投了を告げました。

まとめ

本局は永瀬九段の研究手順に進行し、藤井王座は長考を重ねて攻め合いを選択しました。攻守に選択肢の多い難解な終盤戦に突入し、永瀬九段は連続長考して指し手を探りましたが、藤井王座は的確に後手陣の急所を突いて徐々にリードを拡げ、最後は香頭への角捨てで鮮やかに寄せ切りました。
防衛まであと1勝となった藤井王座は対局後、「結果は意識せずに第三局に臨めたらと思っています」と話しました。カド番となった永瀬九段は次局に向け「精一杯準備したいと思います」と話しており、熱戦を期待したいと思います。

本稿は王座戦の棋譜利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ouza )に従っています。
第72期王座戦五番勝負第二局、主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟

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