第29期銀河戦決勝トーナメント準決勝 藤井銀河vs渡辺名人
12月14日に、銀河戦決勝トーナメント準決勝第1局が放映されました。銀河戦は持ち時間各15分、切れたら1手30秒未満(1分の考慮時間10回)という早指し棋戦で、8つのブロックに分かれて本戦トーナメントを行い、各ブロックから最終勝ち残り者と最多勝ち抜き者の2名が決勝トーナメントに進出しています。この日はベスト4に進出した藤井聡太銀河と渡辺明名人が激突しています。
藤井銀河は前期優勝者で、本戦トーナメントで佐々木勇気七段を破り、決勝トーナメントで斎藤明日斗四段と佐々木大地五段を降して勝ち上がりました。渡辺名人は、本戦トーナメントで斎藤慎太郎八段を破り、決勝トーナメントで服部慎一郎四段と木村一基九段を降して勝ち上がっています。
両者の対戦成績は藤井銀河が8勝1敗と圧倒していますが、渡辺名人にとって銀河戦は、優勝4回・準優勝1回と得意にしている棋戦であり、熱戦が期待されます。両者は年明けから王将戦七番勝負でも顔を合わせることが決まっており、渡辺名人としては本局で一矢報いて苦手意識を払拭しておきたいところです。
振り駒で先手となった藤井銀河が角換わりに誘導し、渡辺名人は受けて立ち腰掛け銀の駒組みを進めます。藤井銀河が9筋の位を取り4筋の位も取ると、渡辺名人は4筋から反発して1歩手持ちにします。藤井銀河は銀を腰掛けずに▲5六歩と突き▲6八角と自陣に打って3筋の歩を交換しますが、渡辺名人は力強く金を前進し中段の制圧を目指します。藤井銀河が2筋の継ぎ歩攻めで押さえ込むと、渡辺名人も8筋から反発し△8九歩成と"と金"を作ります。
藤井銀河は飛車で"と金"を取りますが、渡辺名人が△3六角と王手で打った手が強烈な一撃となりました。この角は先手の飛車が動いてできた2七の地点の隙に角取りで馬を作る手を狙っていますが、先手には適当な受けがありません。渡辺名人が歩で先手の陣形を乱してから△2七角成と馬を作ると、藤井銀河は角を見捨てて▲5四歩から攻め合いを選択します。形勢は大きく渡辺名人に傾きました。
藤井銀河は取った銀を金の両取りに▲5二銀と打ちますが、渡辺名人は△4四馬と引き付けて自玉を守る金に紐を付けます。藤井銀河は▲6三銀と後手玉から遠い方の金を取りますが、渡辺名人が銀取りに△6四飛と寄った手が先手玉を睨む絶好の一手となっています。藤井銀河は▲4五歩~▲5七金と馬を追いますが、渡辺名人に△6三飛と銀を取られると自玉が危険になるため馬を取れません。
藤井銀河はやむを得ず▲6七歩と打ちますが、渡辺名人は追撃に△5六銀と打ちます。藤井銀河はようやく馬を取りますが、渡辺名人の流れるような寄せは止まりません。渡辺名人が△4七角と詰めろかつ金取りに打った手を見て、藤井銀河は無念の投了となりました。
本局は序盤に藤井銀河が工夫を見せて自陣角を放ちましたが、渡辺名人が冷静に対処し取られるだけの駒になってしまいました。渡辺名人の放った角は馬となって攻防に働き、この差が勝負に直結したように思います。本局の収録は9月に藤井銀河が叡王戦第五局に勝って三冠になった翌日だったそうで、対局や会見が続いてさすがに多少疲れもあったのかもしれません。渡辺名人の指し手には隙がなく、朝日杯での大逆転負けや棋聖戦にストレートで敗れた屈辱を払拭する快勝となりました。
この結果、藤井銀河の連覇の夢は消え、渡辺名人が銀河戦6度目の決勝に臨むことになりました。決勝では菅井八段と増田六段の勝者と顔を合わせます。1月には渡辺王将に藤井竜王が挑む七番勝負が始まります。四冠対三冠の頂上決戦でもあり、白熱した好勝負を期待したいと思います。
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