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「観る将」が観た第72期王将戦第四局

2月9-10日、第72期王将戦七番勝負第四局が東京都立川市のSORANO HOTELで行われました。ここまで2勝1敗とリードした藤井聡太王将が勝って防衛に王手を掛けるのか、地元ともいえる地に凱旋した羽生善治九段が勝って再びタイスコアに戻すのか、将棋ファンのみならず注目する対局となっています。

前日に行われた前夜祭で、藤井王将は「前期にこの立川対局で王将を獲得することができて、また今期この場所に戻ってこれたことを大変嬉しく思っています」、羽生九段は「実家が八王子市ということもあり、こういうところで対局ができるのは棋士にとっても大変光栄なことだと思っています」と挨拶しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

広々とした対局室に、羽生九段が紺の着物と灰色の袴に新橋色の羽織で入室すると、藤井王将は藍色の着物と縦縞の袴に青色の羽織で入室します。先手の羽生九段が角換わりに誘導し、藤井王将が最も得意とする相腰掛け銀の将棋となります。

羽生九段の工夫

羽生九段が一度矢倉の形に組んだ囲いを崩し、金と玉を1筋ずつ中央に寄せると、藤井王将はわずか6分の少考で6筋の歩をぶつけます。羽生九段は▲4五桂と跳ね、藤井王将に銀を4筋に上げさせてから6筋の歩を取ります。藤井王将が桂で歩を取ると、羽生九段は銀で桂を食いちぎり、6筋の金頭を歩で叩きます。次の58手目を藤井王将が考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王将が6時間19分、羽生九段が6時間45分となっています。

羽生九段の攻勢

この歩を取ると飛金両取りの割り打ちがあるので、藤井王将は昼休を挟む44分の長考で金を7筋にかわします。羽生九段が更に桂を打って金を追うと、藤井王将は金を引いてかわします。羽生九段が後手陣に作った隙に角を打ち込むと、藤井王将は57分の長考で△6一銀と打ち、手厚く受けます。

藤井王将の大長考

羽生九段が2筋の歩を突き捨ててから5筋に王手で桂を成り捨てると、藤井王将は145分の長考に沈み、定刻になるとすぐに次の66手目を封じました。羽生九段が軽快に攻めていますが、AIの評価値はほぼ互角のようです。残り時間は藤井王将が2時間45分、羽生九段が5時間53分と3時間近い大差となっています。

藤井王将の決断

この成桂を玉で取るとすぐに寄せられてしまう変化もあるため、多くの解説者は銀で取る手を予想していましたが、藤井王将の封じ手は危険を顧みず玉で取る手でした。羽生九段は馬を作って銀に当て、銀を引かせてから飛車を走ります。AIの評価値は羽生九段に傾いてきたようです。

藤井王将の辛抱

この飛車を歩で追い返そうとしても3筋の横歩を取られ、金か銀を食いちぎって寄せられてしまうので、藤井王将は角を打って横歩を守ります。羽生九段が飛車を角と刺し違え、▲3一角と打ち込んで馬や桂の利いている後手の玉頭に戦力を集めると、藤井王将は74分の長考で先手の歩頭に銀を出て玉頭を支えます。

玉頭の攻防

羽生九段は45分の熟考で差し出された銀を歩で取り、藤井王将が金で取り返して玉頭を支えると、もらった銀を▲4二銀と後手玉の腹に打ち込んで攻め続けます。藤井王将が桂を打って玉頭の守りを足すと、次の79手目を羽生九段が考慮中に昼休となりました。羽生九段の攻めが途切れず、AIの評価値も大きく傾いています。残り時間は藤井王将が1時間31分、羽生九段が3時間14分と2時間弱の差になっています。

羽生九段の猛攻

羽生九段が昼休を挟む45分の長考で▲5三桂成と踏み込み、銀を取り合ってから再度後手玉の腹に銀を打つと、藤井王将は飛車を角と刺し違えてから馬に当てて銀を打って粘ります。羽生九段は更に31分考え王手で飛車を打ち、馬で9筋の香を取って挟撃態勢を作ります。

藤井王将の反撃

待望の手番を得た藤井王将は6筋の金頭を歩で叩き、羽生九段が金で取ると、守りに打った桂を△6五桂と跳ねて銀に当てます。羽生九段が35分の熟考で自陣に構わず▲4二銀と引き、飛車の成り込むスペースを空けると、藤井王将は△2二角と飛成を防ぎつつ先手陣を睨む攻防の角を放ちます。羽生九段が角道を遮断しつつ6筋の桂取りに歩を打つと、藤井王将は8筋の歩をぶつけ、東京では珍しく雪が降り積もる窓の外に視線を送ります。

着実な寄せ

羽生九段が慎重に22分考えて6筋の桂を取ると、藤井王将は8筋の歩を成り込んで王手し、金桂両取りに飛車を打ちます。羽生九段が玉を引いて受けると、藤井王将は竜を作って金に当てます。羽生九段は▲7三桂の王手から寄せにいき、飛車を角と刺し違えます。後手玉には即詰みが生じたようで、羽生九段が馬を寄って王手すると、藤井王将は深々と頭を下げ投了を告げました。

まとめ

本局は羽生九段が駒組みの工夫を見せ、藤井王将に仕掛けさせてから強く反発して攻め込みました。藤井王将は辛抱強く受け続けて反撃の機会を待ちましたが、羽生九段の的確な攻撃で一気に差を拡げられてしまいました。羽生九段は持ち時間を2時間近く残しての快勝となりました。
将棋界の夢の対決は、両者譲らず先手番を取り合い、再びタイスコアとなりました。次局まで2週間程ありますが、引き続き熱戦となるよう期待したいと思います。

ALSOK杯王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟が主催し、ALSOKが特別協賛、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリーが協賛しています。棋譜は公式サイトをご覧ください。

本稿は「王将戦における棋譜利用ガイドライン」に従い、利用許諾を得ています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ousho)

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