「観る将」が観た第3期清麗戦第一局
9月23日に大成建設杯清麗戦五番勝負がホテルオークラ東京で開幕しました。清麗戦は今期から主催が大成建設に変わり、大成建設が建設したホテルでの対局となっています。里見香奈清麗は、甲斐智美女流五段を降して初代清麗の座に就き、前期は上田初美女流四段の挑戦を退けています。今年度は17勝1敗と絶好調で、勝率0.944(!)はもちろん全女流棋士で1位となっています。加藤桃子女流三段は、予選を再挑戦トーナメント(敗者復活戦)で勝ち上がり、本戦では香川愛生女流四段と鈴木環那女流三段を降して挑戦権を獲得しました。今年度は19勝9敗と好調で、対局数と勝ち数は女流棋士の中で1位となっています。
両者の対戦成績は奨励会時代の対局を含めると、里見清麗が23勝6敗で直近は14連勝しているそうです。8月に対局した女流王座戦準決勝でも里見清麗が勝ち、そのまま決勝にも勝って挑戦権を獲得しています。両者がタイトル戦で顔を合わせるのは本シリーズが8度目とのことですが、これまで6度里見清麗が勝利を収めており、昨年度も女流王位戦で3連勝、女流名人戦でも3連勝と圧倒しています。
先に里見清麗が桃色の地に花柄の華やかな着物で入室し、加藤女流三段は大成建設のロゴの色を意識したという群青色の地に花柄の着物で入室します。振り駒で先手となった里見清麗は初手▲5六歩と中飛車を明示し、美濃囲いに構えます。加藤女流三段は右銀も左に寄せ、穴熊に囲います。里見清麗が銀冠に組み替えると、加藤女流三段は角を右辺に転回します。
加藤女流三段は相手の飛車がいる5筋から強く△5四歩と仕掛け、飛車を5筋に寄せて飛車交換します。里見清麗が先に▲5一飛と金香両取りに打ち込みますが、加藤女流三段は△5五金と前進して受けます。里見清麗が桂交換を図り、加藤女流三段が64手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は加藤女流三段の60%と少し傾いています。残り時間は里見清麗が2時間16分、加藤女流三段が2時間46分と30分程差がついています。
昼休明け、里見清麗はスーツに着替えました。加藤女流三段は昼休を挟む30分の長考の末、穏やかに桂交換に応じます。里見清麗は金取りに▲5四竜と引きますが、加藤女流三段は手抜いて△5五桂から銀桂交換で先手陣を薄くし、△4九飛と打ち込みます。里見清麗は持ち駒の金を打って自陣を補強し、加藤女流三段は香を取って竜を作ります。駒割りはほぼ互角となり、AIの評価値も50%と全くの互角に戻りました。
里見清麗は後手の角成を防ぐため▲8八金と寄り、一転して1筋から端攻めを仕掛けます。AIの評価値は再び加藤女流三段の70%と大きく傾きました。加藤女流三段は垂らされた歩を△1三同桂と取り、歩切れの里見清麗は▲5六桂と角取りに打ちます。加藤女流三段は手抜いて△1五香と1筋から反撃し、先手玉はかなり危険な状態になりましたが、里見清麗は▲6九桂と打って飛車の横利きを止めて粘ります。
加藤女流三段は△6八銀と先手の竜と角の利きに打って先手玉の退路を狭めます。この銀は竜で取っても角で取っても寄ってしまうため、里見清麗は▲4四桂と攻め合いを選択します。加藤女流三段は角を取って先手の守りの金と交換し、△5五金と先手の竜を押さえ込みます。先手玉は左右から挟撃され上部からも押さえ込まれて苦しくなってきました。里見清麗は自陣に角を打って粘りましたが、加藤女流三段は最後まで緩まず鮮やかに寄せ切りました。
本局は序盤から積極的に動いた加藤女流三段の作戦が奏功し、BSフジの番組で「攻めの加藤」と紹介された持ち味を存分に出し切る快勝となりました。対局直後に里見清麗戦の連敗を止めたことについて聞かれ、「勝つことができたのは本当に嬉しくて、少しほっとしている」と少し言葉に詰まって答えた姿に喜びが凝縮されていたように感じます。元々対戦成績ほどの実力差はないはずであり、挑戦者の加藤女流三段が後手番で先勝したことで、本シリーズは俄然面白くなってきたように思います。
里見清麗は対局後「無理に動き過ぎたかもしれない」と話していましたが、形勢を悲観しすぎて端攻めを焦り、歩切れになってからは厳しい将棋になってしまいました。しかし女流タイトル獲得通算44期の第一人者が、このまま引き下がるはずはありません。里見清麗の次局以降の巻き返しに期待したいと思います。