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「観る将」が観た第80期順位戦B級1組 藤井二冠4回戦

7月6日に順位戦B級1組4回戦、藤井聡太王位・棋聖と久保利明九段の対局が行われました。B級1組4回戦の一斉対局は7月15日に予定されていますが、王位戦第二局の移動日と重なるため前倒しされたようです。

藤井二冠は2回戦で稲葉八段に敗れて2勝1敗となっており、来期A級入りを目指して負けられない戦いが続きます。久保九段はタイトル獲得通算7期の強豪ですが、今期順位戦ではここまで0勝2敗と苦しんでおり、やはり負けられない一局となります。

両者は対戦成績は藤井二冠の2勝3敗で、藤井二冠にとって久保九段は数少ない負け越している棋士の一人です。本局は振り飛車の名手久保九段が、後手番でどのような戦型を採用するかが注目されましたが、4手目に飛車を4筋に振りました。藤井二冠は角交換の後、自陣に角を打って相手の飛車を睨みます。

久保九段が△3九角と打ち込み△8四角成と馬を作ると、藤井二冠は飛車を寄って3筋から仕掛けます。対局後藤井二冠は△3九角を「軽視していた」と話しましたが、久保九段の誘いに藤井二冠が応じる形となりました。この後は両者とも慎重に時間を使って相手の狙いを消す戦いとなりました。難解な応酬が続き、夕休を過ぎてもAIの評価値は藤井二冠の50~60%の間で揺れています。残り時間も拮抗しています。ABEMA解説陣も「難しい」「わからない」と繰り返しています。

久保九段が一度3筋に寄せた飛車を△5一飛と回した手が藤井二冠の読みになかったようで、久保九段もこの辺りでは手ごたえを感じていたようです。更に捌きのアーティストらしく5六~2六と旋回させた飛車を、とうとう△2九飛成と成り込みます。藤井二冠は▲2三歩成と金取りを掛けましたが、久保九段は金取りを放置して香を取り△8四香と角取りに打ちます。藤井二冠も角取りを放置し▲5九歩と底歩を打って竜の横利きを止めます。激しい戦いとなり、AIの評価値は藤井二冠の67%と振れましたが、中田八段は「振り飛車の方が良く見える」と解説しています。

久保九段は角を取って相手の玉頭に大きなキズを作ります。先手玉はかなり危うく見えますが、藤井二冠は攻め合い勝ちを読み切ったのか指し手が速くなってきました。久保九段の△5六歩に、藤井二冠が▲4六銀と自玉から離れる方に逃げた手が相手からの角の打ち込みを防ぐ好手だったようで、久保九段は△5三銀と自陣に手を戻します。藤井二冠は熟考の末、馬取りに▲6六桂と打って反撃に転じます。

藤井二冠が▲9五歩と端攻めを見せると、23時半を過ぎて久保九段は残り10分となり秒読みが始まります。藤井二冠はまだ26分残しています。粘りに定評のある久保九段ですが、藤井二冠の桂と香と歩の攻めに、堅かった美濃囲いが崩されていきます。藤井二冠が▲4六銀と馬の利きを遮断し、久保九段が馬を切って先手玉に迫ったところで、AIによれば後手玉に29手詰みが生じた様です。恐らく数手前から読み切っていた藤井二冠は、1分程確認しただけで▲7三歩成と王手を掛けます。久保九段は淡々と20手近く指し続け、わかりやすい詰みの局面で投了となりました。終局は0時20分過ぎ、117手の激闘でした。

本局は、恐らく久保九段が温めていた△3九角という誘いの手に藤井二冠が乗り、攻めあぐねている間に飛車を捌いた久保九段が好調に見えました。しかし藤井二冠は丁寧に指し続け、AI評価値が久保九段に傾くことはありませんでした。最終盤の寄せはいつもながら鮮やかで、久保九段に粘る余地を与えませんでした。盤上のほとんどの駒が相手玉の詰みに貢献し、持ち駒さえ1枚も余らない綺麗な詰み上がりとなりました。

藤井二冠は対局後「手強い相手ばかりなので、3勝1敗というのは悪くないかなと思います」と話しましたが、鬼のすみかと呼ばれるB級1組を1期抜けできるよう着実に勝ち星を積み上げて欲しいと思います。久保九段は0勝3敗と苦しくなりましたが、「結果は出ていないですけど、やるだけのことはやっているつもりなので、また次頑張りたい」と話しており、振り飛車党の第一人者としてなんとか踏みとどまって欲しいと期待しています。

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