「観る将」が観た第49期女流名人戦第一局
1月15日に神奈川県足柄下郡の岡田美術館で、岡田美術館杯女流名人戦五番勝負が開幕しました。前期に9回目の挑戦で悲願の初タイトルを獲得した伊藤沙恵女流名人と、女流棋士に転向して初参戦の女流名人戦で挑戦権を獲得した西山朋佳女流二冠の顔合わせとなっています。
主催のスポーツ報知のインタビューで、伊藤女流名人は「西山さんは、私よりはるかに番勝負という意味では経験もされていますし、チャレンジャーの気持ちで臨みたい」、西山女流二冠は「初めての環境は新鮮であり、不安でもあるのですが、やることは結局、自分の将棋を指すことだと思うので、見てくださる皆さんに楽しんでもらえるような、なにか…記憶に残るような番勝負になればいいなと思っています」と話しています。
両者の対戦成績は伊藤女流名人の3勝10敗で、タイトル戦で顔を合わせるのは、西山女王が防衛を果たした第14期マイナビ女子オープン以来2回目となります。伊藤女流名人は今年度他棋戦でのタイトル戦登場はありませんでしたが、勝率は0.800で女流棋士のランキングは1位となっており、相変わらず安定した成績を残しています。
挑戦者の三間飛車
振り駒で先手となった伊藤女流名人が飛先の歩を伸ばすと、西山女流二冠は三間飛車に振り対抗形の将棋となります。西山女流二冠が飛車を2筋から4筋へと振り直しながら美濃囲いに構えると、伊藤女流名人は金無双に構えます。伊藤女流名人が7筋の位を取ると、西山女流二冠は5筋の歩を伸ばして銀を引かせます。
女流名人の仕掛け
飛車を3筋に戻した西山女流二冠が△5一角と引くと、伊藤女流名人は5筋と6筋の歩を突き捨て、角の利きを通してから4筋の歩もぶつけます。この歩を取ると1筋の香を取られてしまうので、西山女流二冠が3筋の歩を交換すると、伊藤女流名人は力強く▲2六飛と浮いて受けます。西山女流二冠が次の48手目を考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は伊藤女流名人が2時間17分、西山女流二冠が1時間40分となっています。
金を上がっての押さえ込み
西山女流二冠が昼休を挟む20分の熟考で5筋の歩を成り捨ててから飛車を引くと、伊藤女流名人も36分の熟考で▲3六歩と打って桂頭を守ります。西山女流二冠が銀を上がって6筋の歩を支えると、伊藤女流名人は4筋の歩を取り込みます。西山女流二冠が△6二角と上がり、4筋の歩越しに先手の飛車を睨むと、伊藤女流名人は30分の熟考で残り1時間を切り、▲4六金左と上がって後手の大駒を押さえ込みにいきます。
飛車切りのさばき
西山女流二冠が飛車を4筋に回し、角をぶつけて交換すると、伊藤女流名人は飛香両取りに▲2二角と打ちます。西山女流二冠が△3三角と合わせると、伊藤女流名人は▲3一角成と馬を作ります。西山女流二冠は9分の少考で△3六飛と金を食いちぎり、6筋の歩を成り捨ててから△9九角成と香を取って馬を作ります。
怒涛の攻め
伊藤女流名人は▲6六歩と打って辛抱しますが、西山女流二冠は△6五歩と合わせて追撃します。伊藤女流名人は▲8八銀と上がって馬に当てますが、西山女流二冠は王手で△6八金と打って送りの手筋で▲8八馬と先手玉に迫ります。伊藤女流名人が▲7七桂と跳ねて馬の利きを止めると、西山女流二冠は△5五銀と打って数の攻めで先手陣に上部から圧力を掛けます。
女流名人の粘り
残り時間が10分を切った伊藤女流名人は▲5六歩と打って粘りますが、西山女流二冠は金銀交換してから歩で銀を吊り上げ、△6五香と打って銀と玉を田楽刺しにします。伊藤女流名人は玉を早逃げし、香で銀を取らせる代わりに▲6四馬と銀を取って馬を好所に引き付けます。西山女流二冠が馬で桂を取ると、伊藤女流名人は攻防に▲4一飛と打ち込みます。
とどめの2枚飛車
西山女流二冠が飛車取りに△2七銀と打って挟撃態勢を狙うと、伊藤女流名人は玉を寄って飛車に紐を付けます。西山女流二冠は△6三金と上がって馬を追い、歩の攻めで先手玉を追ってから銀で飛車を取ります。西山女流二冠は△5四金打と竜と馬の両取りを掛け、竜と交換してから2枚の飛車を先手陣に打ち込みます。伊藤女流名人は残り1分を使って考えましたが適切な受けはなく、投了を告げました。
まとめ
本局は伊藤女流名人が積極的に金を押し出し後手の大駒を押さえ込みにいきましたが、西山女流二冠は飛車切りから馬を作って攻め込みました。伊藤女流名人は辛抱を重ねてチャンスを待ちましたが、西山女流二冠は緩むことなく攻め続け、自陣はほとんど無傷のまま寄せ切る快勝となりました。
第二局は1週間後に予定されていますので、伊藤女流名人には気持ちを切り替えて巻き返して欲しいと思います。