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「観る将」が観た第37期竜王戦七番勝負第一局

10月5-6日、藤井聡太竜王に佐々木勇気八段が挑戦する第37期竜王戦七番勝負が、恒例となっている東京のセルリアンタワー能楽堂で開幕しました。

藤井竜王は第34期に豊島竜王(当時)から奪取し、前期は同学年の伊藤(匠)七段(当時)の挑戦を4勝0敗で退け3連覇を果たしました。昨年度は前人未到の全八冠制覇を果たし、今年度は叡王を失冠したものの、名人・棋聖・王位・王座を防衛して七冠を保持しています。

佐々木八段は2010年プロ入りで、ジュネーブ生まれの30歳です。藤井竜王の30連勝を阻止して脚光を浴びましたが、元々5人しかいない中学生棋士に次ぐ6番目の年少記録でのプロ入りを果たしており、早くからタイトル獲得を期待されていた逸材です。昨年度からようやく順位戦A級に参戦し、NHK杯では藤井竜王を決勝で倒して初優勝を遂げました。今期の竜王戦は2組で優勝し、決勝トーナメントでは久保九段、佐藤(康)九段を破り、挑決三番勝負で広瀬九段に連勝し、自身初のタイトル挑戦を決めました。

両者の対戦成績は藤井竜王の4勝2敗ですが、佐々木八段の2勝は上述の通りいずれも大一番での勝利であり、棋界最高峰の七番勝負は大熱戦になることが期待されます。

前日のインタビューでは、佐々木八段は「結果は後からついてくると思うので、最善を尽くしたいと思います」、藤井竜王は「2日制の長い持ち時間での対局になるので、一手一手しっかり読みを入れて内容の良い面白い将棋が指せるよう頑張りたいと思っています」と話しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

能楽堂に設けられた厳かな雰囲気の対局場に、佐々木八段が白い着物と濃灰色の袴に若竹色の羽織で入場すると、藤井竜王は焦げ茶色の着物と灰色の袴に白い羽織で入場します。振り駒で先手となった藤井竜王が角換わりに誘導すると、佐々木八段は受けて立ち、相腰掛け銀の駒組みを進めて6筋の位を取ります。藤井竜王は6筋の歩を交換し、佐々木八段が3筋の歩を突き捨ててから銀を4筋に上がって前例のない局面を迎えると、33分の熟考で銀を4筋に引いて桂頭を守ります。

佐々木八段が早くも長考

佐々木八段が銀で3筋の歩を取り返すと、藤井竜王は歩で銀を追い返してから、飛車先の歩を交換します。佐々木八段も飛車先の歩を交換すると、藤井竜王はじっと▲6七歩と打って銀を支えます。佐々木八段は想定を外されたか次の58手目で1時間を超える長考に沈み、そのまま昼休の時刻となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が6時間47分、佐々木八段が6時間18分となっています。

息詰まる展開

佐々木八段は昼休を挟む134分の大長考で△3四歩と打ち、藤井竜王が74分の長考で5筋の歩を突くと、腰掛けていた銀を6筋に引きます。藤井竜王が更に78分の長考で4筋の歩を伸ばして銀に当てると、佐々木八段は早々に封じ手の意思を示し、定刻になるとすぐに次の62手目を封じました。午後の5時間半でわずか4手しか進まない息詰まる展開となり、AIの評価値はほぼ互角です。残り時間も藤井竜王が4時間15分、佐々木八段が4時間21分と拮抗しています。

藤井竜王の好所の角

佐々木八段の封じ手は、盤上この一手という銀を3筋に引いてかわす手でした。藤井竜王が9筋の歩をぶつけると、佐々木八段は69分の長考で8筋の桂頭を歩で叩きます。藤井竜王は銀を7筋に引いて飛車と歩に当て、佐々木八段が飛車を下段に引くと、銀で歩を取ります。佐々木八段は9筋の歩を取り、藤井竜王が左右を睨む好所に▲6六角と打つと、7筋の歩をぶつけて先手の角の9筋への利きを止めます。

先手の角を巡る攻防

藤井竜王は角で歩を取り、佐々木八段が銀を7筋に上がって角に当てると、角を5筋に引いてかわします。佐々木八段が次の74手目を40分以上考えて昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角が維持されていますが、残り時間は藤井竜王が3時間37分、佐々木八段が1時間39分と2時間近い差が付いています。

角交換後に再度の角打ち

佐々木八段は昼休を挟む69分の長考で8筋の銀頭を歩で叩き、藤井竜王が銀を7筋に引いてかわすと、2筋に角を合わせます。藤井竜王は30分の熟考で角交換に応じ、2筋に歩を合わせて取らせてから、9筋の香頭に歩を連打して吊り上げ、香取りに▲6六角と打ち直します。佐々木八段は28分熟考して残り37分となり、7筋に歩を打って香取りを防ぎ、藤井竜王が2筋に桂を跳ねて銀に当てると、銀を2筋に引いてかわします。AIの評価値は藤井竜王の57%と、わずかに指し易くなってきたようです。

歩の小技の応酬

藤井竜王が56分の長考で2筋の銀頭を歩で叩いて取らせ、8筋の飛頭を歩で叩くと、佐々木八段は7筋に飛車をかわします。藤井竜王は7筋でぶつかっていた歩を取って銀に当てつつ歩切れを解消し、佐々木八段が残り9分となり、秒読みの声を聞きながら2筋の飛頭を歩で叩くと、3筋に寄ってかわします。

藤井竜王が馬を見捨てての踏み込み

佐々木八段は取られそうな銀を6筋に上がって角に当て、藤井竜王が角で1筋の香を取って馬を作ると、桂を1筋に跳ねて飛車の横利きを馬に当てます。藤井竜王は馬を見捨てて▲1三同桂成と飛び込み、馬を取らせる代わりに成桂を銀と交換し、2筋に香を打って金に当てます。2筋に歩を打てない佐々木八段は1筋に金をかわし、藤井竜王が7筋の歩を伸ばして桂に当てると、構わず△6六歩と合わせて先手玉のコビンを攻めます。

激しい終盤戦

残り1時間を切った藤井竜王が7筋の桂を取って"と金"を作り金に当てると、佐々木八段は6筋の歩を王手で成り捨てて金で取らせ、再度歩を打って金頭を叩いて攻め合います。藤井竜王は"と金"で金を取って後手玉に迫り、佐々木八段が△6七歩成と金を取って王手すると、玉を4筋に引いてかわします。素人目にはどちらが勝っているのかわからない激しい終盤戦となりましたが、AIの評価値は藤井竜王の77%と大きく傾いています。

桂打ちの技の応酬

佐々木八段が先手の香の利きに△2五桂と打つと、取ると後手玉を寄せ辛くなると見た藤井竜王は▲1七桂と打ち返します。佐々木八段は桂を取るしかありませんが、藤井竜王は後手玉のコビンに金を叩きつけます。後手玉はこのタダ捨ての金を取っても、2筋に空けたスペースにもう1枚の桂を打たれて受けなしになるようで、佐々木八段は1分将棋になるまで考えて次の手を指さずに投了を告げました。

まとめ

本局は佐々木八段の工夫で前例のない将棋に突入しましたが、藤井竜王は後手の狙いを外してじっくりした展開に持ち込みました。2日目に入ると藤井竜王が好所に角を放って主導権を握り、作った馬を見捨てて踏み込みました。佐々木八段も怯まず攻め合って激しい終盤戦となりましたが、藤井竜王は正確な距離感で寄せ切りました。
先勝した藤井竜王は次局に向け「第二局以降は先後が決まっての戦いになるので、次に向けてしっかり準備をしていきたいと思います」と淡々と話しました。防衛に向け、まずは順調な滑り出しだと思います。
佐々木八段は、「本局はそんなに悔いの残る手はなかったので、結果は仕方ないと思うので切り替えてやっていきたいと思います」と前向きに話しました。大盤解説会場では、初めてのタイトル戦で「楽しかった」と、佐々木八段らしい明るい言葉も聞かれましたので、次局以降も熱戦を期待したいと思います。

竜王戦は読売新聞社が主催しています。
本稿は竜王戦・棋譜等利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ryuuou )に従っています。


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