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「観る将」が観た第72期王座戦五番勝負第一局

9月4日、神奈川県秦野市の元湯陣屋で王座戦五番勝負が開幕しました。前期の王座戦を制して前人未到の八冠制覇を成し遂げた藤井聡太王座に挑むのは、前期に失冠してリベンジに燃える永瀬拓矢九段です。

藤井王座は全八冠制覇以降、竜王・王将・棋王・名人を防衛し、叡王を失冠したものの、棋聖と王位を防衛して七冠を保持した状態で、王座戦としては自身初めての防衛戦となります。永瀬九段は今期、挑戦者決定トーナメントで郷田九段、菅井八段、鈴木九段、羽生九段を破り、リターンマッチに駒を進めています。

両者の対戦成績は藤井王座が15勝7敗とリードしていますが、前期は最終盤での大逆転が続き、何が起こるかわからない将棋の怖さを思い知らされる勝負となりました。今期もファンを楽しませる熱戦が続くことを期待したいと思います。

前日の記者会見で、藤井王座は「永瀬九段とは1年ぶりの再戦ということで、1年間の取り組みであったり成長が問われるシリーズになるのかなと思っています」、永瀬九段は「自分を前に進めるために、一生懸命向き合って一生懸命取り組んで一生懸命戦いたいと思っています」と話しています。


藤井王座が3三金型の角換わり

数々の名局が指されてきた対局室に、永瀬九段が白い着物と灰色の袴に青灰色の羽織で入室すると、藤井王座は青緑の着物と灰色の袴に藤色の羽織で入室します。振り駒で先手となった永瀬九段が角換わりに誘導すると、藤井王座は角を3筋に上がり、前例の少ない3三金型の角換わりを選択します。藤井王座は早繰り銀に構え、永瀬九段が腰掛け銀にすると、7筋の歩をぶつけて仕掛けます。

永瀬九段の馬

永瀬九段が銀を6筋に引いて、銀矢倉の形を作って受けると、藤井王座は7筋の歩を取り込み、銀を斜めに繰り出して4筋の歩を取ります。永瀬九段は玉を8筋に入城し、藤井王座が銀を6筋まで引き戻すと、7筋に歩を垂らして飛車で取らせ、角を8筋に打ち込んでから4筋に引き成って馬を作ります。

間合いを測る両者

9筋の端歩を突き合うなどお互いに間合いを測り、永瀬九段が5筋の歩を突くと、藤井王座は先手の馬の利きがなくなったところに△7四歩と打ち、銀を繰り出す土台を作ります。次の53手目を永瀬九段が考慮中に昼休となりました。各5時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王座が3時間34分、永瀬九段が3時間18分と拮抗しています。

馬を睨む角

昼休が明けると永瀬九段は桂を3筋に跳ね、藤井王座が4筋の歩を突くと、▲4六馬と上がって間接的に後手の飛車を睨みます。藤井王座は7筋に角を打って間接的に馬を睨み返し、永瀬九段が馬を引いて角のラインから外すと、7筋で銀をぶつけて交換します。永瀬九段は5筋の金を上がって割り打ちの筋を防ぎ、藤井王座が4筋の銀を上がって厚みを築くと、飛車を下段に引いて待ちます。

藤井王座の端攻め

藤井王座が9筋の歩を突き捨ててから歩を垂らすと、永瀬九段は5筋の歩をぶつけて馬の利きを通します。藤井王座は37分の熟考で9筋の香を走り、永瀬九段が飛頭に銀を打つと、6筋にかわします。永瀬九段が2筋を継ぎ歩で攻めると、藤井王座は手抜いて△6四角と上がり、9筋を間接的に睨みます。永瀬九段が9筋に銀を成って香に当て、藤井王座が次の76手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値はほぼ互角のまま動かず、残り時間も藤井王座が1時間21分、永瀬九段が1時間31分と拮抗しています。

藤井王座の踏み込み

夕休が明けると、藤井王座は9筋の歩を飛び込み、桂香交換してから5筋の歩を取ります。永瀬九段は2筋の歩を取り込み、藤井王座が2筋に歩を打って受けると、飛車の前に香を置いて力を溜めます。藤井王座が28分の考慮で残り46分となり、7筋の歩をぶつけて銀を吊り上げ、空けたスペースに△7七歩と金頭を叩いて踏み込むと、永瀬九段も残り1時間を切り同金と応じます。ABEMAでは後手が良くなる手順がわからないと解説していますが、AIの評価値は藤井王座の59%とわずかに傾いてきました。

焦点の銀

藤井王座は更に銀頭を歩で叩き、永瀬九段が銀を6筋にかわしつつ角に当てると、馬金銀の焦点に△5六銀と打ちます。永瀬九段は金で取ってから天を仰ぎ、藤井王座が7筋に桂を打って王手すると、9筋に寄ってかわします。藤井王座は5筋の金を歩で取って詰めろを掛け、永瀬九段が8筋に銀を打って逃れると、5筋の歩を成って馬に当てます。藤井王座が手順を尽くして攻め込み、AIの評価値は藤井王座の65%と傾いています。

永瀬九段の反撃

永瀬九段が馬を諦めて6筋の角を銀で取り、金取りに▲2五桂と跳ねると、藤井王座は慎重に21分考えて金を2筋に上がってかわします。永瀬九段は桂を1筋に飛び込んで香の利きを金に当て、藤井王座が金取りに△6八角と打つと、金を引いてかわします。藤井王座は1筋の成桂を香で取り、永瀬九段が香を走って金を取ると、角で香を食いちぎり、取った香を打って飛車を捕獲します。藤井王座は先手玉を一気に攻略するのを自重し、手堅い受けでリードを保っています。

永瀬九段の勝負手

永瀬九段は飛車を取らせる間に歩で5筋の金を取り、1分将棋に突入してから後手の玉と飛車の利きに金をタダ捨てする勝負手を放ちます。藤井王座は飛車で取り、永瀬九段が5筋に銀を成って飛車に当てると、△5八飛と打って詰めろを掛けます。永瀬九段は成銀で飛車を取って王手し、自陣に金を埋めて逃れますが、藤井王座も1分将棋になり金を打って詰めろを続けます。永瀬九段は数手王手を続けましたが、後手玉に詰みはなく投了を告げました。

まとめ

本局は藤井王座が前例の少ない形に誘導し、永瀬九段は2歩損ながら馬を作ってバランスを保ちました。藤井王座は端攻めから先手陣に踏み込んでリードを奪うと、手堅い受けで反撃を凌いで寄せ切りました。
危な気なく先勝した藤井王座は「第二局まで2週間程あるので、その間にしっかり準備して良い状態で臨めるようにしたいと思います」と話しました。永瀬九段もサバサバした表情で「時間が空きますので、しっかり準備をして精一杯頑張りたいと思います」と話しており、次局以降が熱戦となることを期待したいと思います。

本稿は王座戦の棋譜利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ouza )に従っています。
第72期王座戦五番勝負第一局、主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟

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