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「観る将」が観た第81期順位戦A級 プレーオフ

今期の順位戦A級は藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)と広瀬章人八段が7勝2敗で並び、3月8日にプレーオフが行われました。両者は秋に行われた竜王戦七番勝負でも顔を合わせ、藤井竜王が4勝2敗で防衛していますが、今回は名人挑戦権を懸けた対決となります。


戦型は角換わり相腰掛け銀

注目の振り駒は歩が3枚出て藤井竜王が先手となりました。藤井竜王が角換わりに誘導し、広瀬八段は受けて立ち相腰掛け銀の将棋となります。広瀬八段が△2二玉と入城して銀を腰掛けると、藤井竜王は▲4五桂と跳ねて仕掛けます。広瀬八段が銀を4筋に引いてかわすと、藤井竜王は3筋の歩を突き捨ててから飛先の歩を交換します。

金の突撃

広瀬八段が金で飛車を追い返して金冠の形を作ると、藤井竜王は7筋の歩をぶつけて桂頭を狙います。広瀬八段が△5二角と自陣角を打って桂頭を守り、4筋の歩を突いて桂を取りにいくと、藤井竜王は▲3七金~▲2六金と突進します。次の62手目を広瀬八段が考慮中に昼休となりました。各6時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が5時間29分、広瀬八段が5時間4分となっています。

垂れ歩の是非

広瀬八段が昼休を挟む22分の熟考で4筋の桂を取ると、藤井竜王は2筋の歩を合わせます。広瀬八段が手抜いて7筋の歩を取ると、藤井竜王は48分の熟考で2筋の歩を交換し、金を吊り上げてから▲3四歩と垂らします。この歩を角で取っても金で取っても金を3筋に上がられる手が激痛なので、広瀬八段は90分の長考で△2七歩と飛車の利きを遮断します。広瀬八段の57%とわずかに傾いていたAIの評価値が、ほぼ互角に戻ります。

後手の玉頭での攻防

藤井竜王が▲4四角と王手すると、広瀬八段は歩頭に桂を跳ねて逃れます。藤井竜王が歩で桂を取ると、広瀬八段は銀で取り返して角に当てます。藤井竜王が金を3筋に上がって角に紐を付けつつ金に当てると、広瀬八段は金の方を取って交換します。広瀬八段が△3四金と打って自陣を固めつつ角に当てると、藤井竜王は角を1筋に引いてかわします。

広瀬八段の反撃

広瀬八段が8筋の歩を突き捨ててから△8八歩と叩いて待望の反撃に転じると、藤井竜王が次の81手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は藤井竜王の60%とわずかに傾いています。残り時間は藤井竜王が2時間35分、広瀬八段が2時間48分となっています。

激しい攻め合い

藤井竜王が有休を挟む24分の考慮で▲8八同玉と取ると、広瀬八段は△7六桂と王手で打ちます。藤井竜王は銀で桂を食いちぎり、▲3五歩~▲3六桂と後手陣の金を追います。広瀬八段は手抜いて△8七歩と玉頭を叩き、金で取らせて△8五歩と合わせます。藤井竜王が▲8五同歩と応じると、広瀬八段は△2五角と飛び出し、右辺から先手陣を睨みます。

難解な終盤戦

藤井竜王が59分の長考で▲3四桂と王手で打つと、広瀬八段は玉を1筋に上がってかわします。藤井竜王は▲2四桂と金を取り、残り45分まで考えて▲2二金と打って詰めろを掛けます。広瀬八段がやむなく攻めに使いたかった桂を自陣に打って詰めろを逃れると、藤井竜王は金で香を拾います。お互いに相手に不用意に駒を渡すと詰まされてしまう難解な終盤戦となり、一手指す毎にAIの評価値は揺れています。

広瀬八段の馬

広瀬八段が△8五桂と跳ねて攻め掛かると、藤井竜王は▲8六歩と打って飛車の利きを緩和します。広瀬八段が△7七歩成と王手し、桂を交換してから△7六歩と金頭を叩くと、藤井竜王は▲7六同金と応じます。広瀬八段が△5八角成と馬を作って挟撃態勢を作りつつ金に当てると、藤井竜王は残り17分まで考えて金を引いてかわします。

ギリギリの攻防

広瀬八段が大きくため息をつきながら18分考えて△7五桂と打つと、藤井竜王は見通しが立ったのか、すぐに▲7六歩と打って催促します。広瀬八段は9筋の歩をぶつけますが、藤井竜王は構わず7筋の桂を取ります。広瀬八段は9筋の歩を取り込みますが、藤井竜王は受けずに▲3七桂と打ち、後手の馬が動けば後手玉が詰む形を作ります。AIの評価値は藤井竜王の87%と大きく傾いてきました。

懸命の粘り

広瀬八段の残り時間も1時間を切り、34分の熟考で△7六歩と金取りに打ち、藤井竜王が▲7六同金と応じると、△2三玉と寄って粘ります。藤井竜王が銀取りに▲2六香と打つと、広瀬八段は△6五銀と歩頭に出て自玉の退路を作ります。藤井竜王が差し出された銀を歩で取ると、広瀬八段は馬で金を取って先手玉に詰めろを掛けて形を作ります。後手玉には即詰みが生じており、藤井竜王が▲2四香~▲4四銀と王手を続けると、広瀬八段は深々と頭を下げ投了を告げました。

まとめ

本局は広瀬八段が自陣角を打って桂頭を守り、藤井竜王は桂を取らせる間に金を突進して攻め掛かる将棋となりました。藤井竜王が3筋に歩を垂らした手が、AI的には評価値を下げたものの、広瀬八段が過去に指した類似形の将棋の研究を外す好手となりました。広瀬八段は自陣角を2筋経由で先手陣に飛び込ませる盤面を広く使った構想で難解な終盤戦に持ち込み、評価値が揺れ動く熱戦となりましたが、正確な読みで応じた藤井竜王が最後は細い攻めをつないで寄せ切りました。
藤井竜王は名人挑戦権を獲得し、最年少名人獲得に挑みます。現在3勝2敗でリードしている王将戦七番勝負で防衛し、2勝1敗としている棋王戦五番勝負で奪取を果たせば、名人戦七番勝負は七冠獲得への挑戦となります。対局後の会見では「名人戦という舞台に相応しい良い内容の将棋が指せるよう頑張りたい」と、いつも通り謙虚に話しており、厳しい日程ではありますが万全の体調でファンの期待に応えて欲しいと思います。

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