「観る将」が観た第80期順位戦B級1組 藤井竜王11回戦
1月13日に順位戦B級1組11回戦、藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖)と千田翔太七段との対局が行われました。藤井竜王はここまで8勝1敗でトップに立っており、この日の他局を含めた結果により昇級が決まる可能性があります。千田七段はここまで7勝3敗と3番手に付けており、残り2局を連勝して昇級に望みをつなぎたいところです。
両者の対戦成績は藤井竜王の4勝1敗となっており、直近の対局も昨年9月にJT杯で藤井三冠(当時)が先手で相掛かりを採用して勝っています。千田七段の1勝は2020年の朝日杯準決勝で、3連覇を目指していた藤井七段(当時)を破った千田七段が、決勝も制して初優勝を遂げています。
先手の藤井竜王が相掛かりに誘導し、千田七段は先に飛先の歩を交換して五段目に引く趣向を見せました。藤井竜王は角道を止めて穏やかな駒組みを目指しますが、千田七段は49分の熟考の上、左桂を跳ねて積極的な駒組みを進めます。千田七段が26手目を考慮中に昼休となりました。形勢は全くの互角、各6時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が5時間33分、千田七段が4時間42分となっています。
昼休明け、千田七段が1筋に角を覗くと、藤井竜王は52分の長考で飛車を回して4筋の歩を守ります。千田七段は飛車を5筋に回して先手の玉頭を睨み、仕掛けのタイミングを計ります。両者とも熟考を重ねてゆっくりした進行になり、千田七段が右桂も跳ねてから角を引くと、藤井竜王も飛車を2筋に戻します。千田七段が7筋から仕掛け、藤井竜王が39手目を考慮中に夕休となりました。形勢はほぼ互角、残り時間は藤井竜王が2時間34分、千田七段が2時間27分となっています。
夕休明け、藤井竜王が堂々と7筋の歩を取ると、千田七段は右桂を五段目に勇躍します。藤井竜王が右金を上がって自陣を引き締めると、千田七段は左桂も相手の歩頭に跳ねて角道を開け角を交換します。更に千田七段が△3九角と飛車取りに打ち込み△5七角成と先手の玉頭に成り込むと、藤井竜王は54分の長考で▲7八金と戻して自玉を固めます。藤井竜王の残り時間が30分を切り、AIの評価値は千田七段の60%前後と少し傾いてきました。ABEMAでは村山七段が「評価値以上に後手が指しやすい」と解説しています。
千田七段は35分の熟考で△7五馬と引きます。千田七段の残り時間は1時間を切りました。藤井竜王が▲4六角と攻防に打つと、千田七段は△7七歩と金頭を叩きます。藤井竜王がノータイムで▲8八金と避けると、AIの評価値は千田七段の74%と更に傾きましたが、千田七段の読みにはない手だったか熟考に沈みます。AIはここで飛車を切る手を推奨していますが、村山七段は「有利と思っている側が指しにくい手」と解説しています。
千田七段は28分考え残り20分になると、力強い手つきで△5八飛成と飛車切りを決行します。藤井竜王は玉で飛車を取りますが、千田七段は取った金を△7八金と打ち込んで先手玉に迫ります。藤井竜王は1分将棋になるまで考え、自陣に桂を打って玉頭を守りますが、少し肩を落として背中が丸まってきました。千田七段は△8八金と金を取り、△2七金と飛車取りに打って挟撃態勢を作ります。
千田七段は馬を飛車と交換し先手玉を攻め立てます。藤井竜王が自陣に飛車を打って辛抱して凌ぎ、後手陣に歩の手裏剣を飛ばして嫌味を付けると、千田七段は無理せず対処してジワジワと先手玉を追い詰めます。藤井竜王は▲9五角と転回して詰めろを掛けますが、千田七段は歩で角道を遮断して逃れます。藤井竜王は敵陣に飛車を打って竜を作り▲8八竜と守りに利かして粘りますが、千田七段は香を取って△4六香と先手玉に迫ります。最後は千田七段が△4七香成と取った銀で竜の横利きをずらし、鮮やかな即詰みに討ち取りました。
本局は千田七段が後手番ながら積極的に動き、飛車と2枚桂で先手の5筋を狙うと、交換した角を成り込んで主導権を握りました。更に思い切りよく飛車を切って攻め込んだ辺りで、大勢は決したように思います。藤井竜王も執念の粘りを見せ反撃に転じましたが、千田七段に丁寧に受けられ届きませんでした。2020年6月に大橋六段に敗れて以来、1年半以上七段以下の棋士に敗局のなかった藤井竜王でしたが、本局に関しては千田七段の会心の指し回しを称えるべきと思います。
藤井竜王は敗れて8勝2敗となりましたが、単独トップを維持しています。早ければ次の12回戦の結果により昇級が決まります。千田七段は8勝3敗となり、昇級争いに踏みとどまりました。次の12回戦は抜け番のため、最終13回戦が正念場となりそうです。