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「観る将」が観た第95期棋聖戦五番勝負第一局

6月6日、第95期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負が、千葉県木更津市の龍宮城スパホテル三日月で開幕しました。防衛すれば早くも永世棋聖の資格を得る藤井聡太棋聖に挑むのは、2009年度の王座戦以来2度目のタイトル挑戦となる山崎隆之八段です。

山崎八段は1998年プロ入りの43歳です。NHK杯で2回、JT杯で1回優勝しており、早指し棋戦に強いイメージもありますが、タイトル戦に昇格する前の第1期叡王戦でも優勝しています。定跡に囚われない独創的な棋風で、多少不利な状況から怪しい手を繰り出しての逆転も多く、五番勝負でどのような将棋を魅せてくれるのか楽しみです。藤井棋聖との対局は意外に少なく、両者1勝1敗の対戦成績となっています。

今期は二次予選で糸谷八段や松尾八段らを降して決勝トーナメントに進出し、森内九段、渡辺(明)九段、永瀬九段、佐藤(天)九段を倒して挑戦権を獲得しました。今年度は7戦全勝と好調で、竜王戦でもランキング戦1組優勝を果たしています。

特別に花火も打ち上げられた前夜祭では、山崎八段は「もし私が少しでも食いついてチャンスがあれば他の棋士の希望にもなりますので、この五番勝負を頑張って戦い抜きたいと思います」、藤井棋聖は「今期は山崎八段との対戦となって、私にとっては未知の局面における判断力、対応力が問われるシリーズになると思っています」と挨拶しています。


戦型は相掛かり

大きな窓から東京湾の絶景が見渡せる対局室に、挑戦者の山崎八段が青灰色の着物と細い縦縞の袴に濃紺の羽織で入室し、藤井棋聖は白い着物と亜麻色の袴に薄黄色の羽織で入室します。振り駒で先手となった山崎八段は得意の相掛かりに誘導し、藤井棋聖は受けて立ちます。藤井棋聖が角を上がって飛先の歩交換を防ぐと、山崎八段は右金を立ち、両者とも小刻みに時間を使って駒組みを進めます。

山崎八段の7筋の歩

山崎八段が角道を開けると、藤井棋聖は飛先の歩を交換します。山崎八段は中住まいに構え、藤井棋聖が玉を4筋に寄せると、角を交換してから7筋の歩を伸ばして意表を突きます。藤井棋聖は4筋の歩を突き、山崎八段が銀を8筋に上がると、次の40手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井叡王の53%とほぼ互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井棋聖が2時間32分、山崎八段が2時間47分となっています。

藤井棋聖の桂頭攻め

昼休が明けるとすぐ、藤井棋聖が4筋に銀を引いて角を打つスペースを作ると、山崎八段は30分の熟考で飛車を浮いて3筋の桂頭を補強します。藤井棋聖は玉を3筋に寄せ、山崎八段が玉を6筋に寄せると、37分の熟考で3筋の桂頭を継ぎ歩で攻めます。山崎八段は36分考えて同歩と応じ、藤井棋聖が△3四同銀右と繰り出すと、飛車を下段に引いて先受けします。

山崎八段の端角

藤井棋聖は△6三角と据えて桂頭攻めに戦力を加え、山崎八段が桂頭に歩を打って守ると、歩を合わせて銀を前進します。残り1時間となった山崎八段が銀取りに▲1七角と放つと、藤井棋聖は45分の長考で残り49分となり、力強く△3四銀と上がって支えます。中盤の勝負所を迎え、AIの評価値は藤井叡王の67%と傾いてきました。

藤井棋聖の踏み込み

山崎八段は2筋の歩を突き捨ててから3筋の銀取りに歩を打ち、藤井棋聖が銀交換に応じて角で取ると、1筋の香取りに▲4四角と飛び出します。藤井棋聖は構わず金取りに△4七銀と打ち込み、山崎八段が28分の熟考で2筋の飛車を走って後手陣に攻め掛かると、怯まず金を取って攻め合います。AIの評価値は藤井叡王の81%と大きく傾きました。

激しい攻め合い

山崎八段が少し顔を紅潮させて27分考え、残り5分となったところで2筋の桂取りに歩を打つと、藤井棋聖は金を上がって飛車に当てます。山崎八段は桂を取って作った"と金"で王手し、藤井棋聖が玉を4筋に上がってかわすと、飛車を逃げずに角取りに▲4五銀と打ちます。

大駒の取り合い

藤井棋聖が取れる飛車を取らず、取られそうな角も逃げず、△4三金と上がって角に当てると、山崎八段は角で香を取って馬を作り、守りにも利かせます。藤井棋聖は金で飛車を取り、山崎八段が銀で角を取り返すと、銀で3筋の桂を取って銀に当てます。1分将棋に突入した山崎八段が8筋の歩を突いて自玉の懐を拡げると、藤井棋聖は3筋に飛車を打ち込んで王手し、先手玉を狭い7筋に引かせてから成銀で銀を取ります。

馬の利きを遮断

山崎八段が8筋の銀を上がって銀冠を作ると、藤井棋聖は淡々と8筋に歩を合わせます。山崎八段は金取りに5筋に桂を打ち、藤井棋聖が8筋の歩を取り込むと、金桂交換してから銀取りに4筋に香を打ちます。藤井棋聖は歩で香の利きを止めつつ先手の馬の利きも遮断し、山崎八段が同香と応じると、△8八銀と王手します。先手玉には即詰みが生じており、山崎八段はすぐに投了を告げました。

まとめ

本局は山崎八段が序盤早々に7筋の歩を伸ばす趣向を見せましたが、藤井棋聖は角を打つスペースを作って先手の駒組みを牽制し、3筋の桂頭を攻めて主導権を握りました。山崎八段は端角を打って反撃しましたが、藤井棋聖は強く応じてリードを拡げ、激しい攻め合いを制しました。
先勝した藤井棋聖は、対局後「良いスタートが切れたかなと思いますし、第二局以降は先後が決まっている形になるので、しっかり準備していきたいと思います」と次局への抱負を話し、自信を感じさせました。山崎八段は「先手番を失ってかなり厳しい状況ではありますが、より自分のベストを出し切って、もっと良い将棋を指したいという気持ちです」と意気込みを話しており、自由奔放な山崎ワールドを魅せてくれることを期待したいと思います。

本稿は「ヒューリック杯棋聖戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kisei)
第95期ヒューリック杯棋聖戦第一局 主催:産経新聞社、日本将棋連盟

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