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「観る将」が観た第70期王座戦五番勝負第二局

9月13日、王座戦五番勝負第二局が名古屋市の名古屋マリオットアソシアホテルで行われました。第一局を落とした永瀬拓矢王座が巻き返すのか、地元愛知県での対局で豊島将之九段が奪取に王手を掛けるのか、注目の対局となりました。

前日のインタビューで、永瀬王座は「何とか勝ってタイに戻したい」、豊島九段は「自分らしい勢いのある将棋を指して熱戦にできたら」と話しています。


戦型は角換わり

永瀬王座が先に普段通り濃紺のスーツに水色のネクタイ姿で入室し、豊島九段は光沢のある白い着物に明るい灰色の羽織で入室します。先手の豊島九段が角換わりに誘導し9筋の位を取ると、相腰掛け銀の将棋となります。両者とも非常に速い指し手が続き、対局開始から15分で40手目に永瀬王座が6筋で銀をぶつけて開戦します。

両者の深い研究

銀交換の後、永瀬王座は王手で銀を打ち込み、すぐに先手の飛車の利きに差し出します。豊島九段はタダで取れる銀に見向きもせず、逆に金を取らせて角を取ります。永瀬王座が銀と金で飛車を取りに行くと、豊島九段は飛車を見捨てて桂を取り、王手で角を打って反撃します。激しい駒の取り合いになりましたが、両者とも研究の範囲なのか解説陣が追い付けないスピードで局面が進み、AIの評価値はほぼ互角の範囲で揺れています。

早くも終盤戦

豊島九段が馬を作り、もう1枚の角を飛車取りに打つと、永瀬王座は構わず金取りに飛車を打ち込みます。まだ11時前ですが、一手間違えれば詰みもある終盤戦に突入しています。永瀬王座が桂を打ち先手の玉頭から攻め掛かると、豊島九段は角で飛車を取って馬を作ります。永瀬王座も飛車で金を取って竜を作りますが、豊島九段は竜に当てて飛車を打ち交換します。永瀬王座が飛車を打ち直すと、豊島九段も飛車を後手陣に打ち込み馬に紐を付けます。

ようやく研究を外れたか

永瀬王座が歩で先手の飛車と馬の利きを遮断すると、豊島九段はもう1枚の馬を▲4一馬と後手陣深くに潜り込み、永瀬王座が次の94手目を37分考えて昼休となりました。ようやく両者とも少しずつ時間を使い始めましたが、AIの評価値は豊島九段の54%とほぼ互角です。各5時間の持ち時間の内、残り時間は永瀬王座が2時間53分、豊島九段は3時間59分となっています。

一転して長考の応酬

永瀬王座が昼休を挟む77分の長考で△1九金と香を取ると、AIの評価値は豊島九段の78%と大きく傾きます。豊島九段は172分の大長考で▲2四桂と歩頭に桂を打って攻め掛かります。後手の玉頭で駒を取り合う激しい戦いとなり、豊島九段が107手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は全くの互角に戻っています。残り時間は永瀬王座が1時間30分、豊島九段が52分となっています。

苦渋の千日手

夕休が明けると豊島九段が金を打ち、永瀬王座が金を埋めて取り合う手順の繰り返しとなり、118手までで千日手が成立しました。最後まで打開の道を探った豊島九段の残り時間は10分となっており、指し直し局は豊島九段の持ち時間を1時間とし、永瀬王座にも同じ50分を加えて2時間19分の持ち時間で、先後を入れ替えて再開されます。

指し直し局も角換わり

指し直し局は19時13分に再開され、先手となった永瀬王座が角換わりに誘導し1筋の位を取ると、豊島九段は早繰り銀を選択します。豊島九段は金矢倉の陣形に組むと、7筋から仕掛けます。永瀬王座は14分の少考で、2筋の歩を突き捨ててから7筋の歩を取ります。豊島九段が銀で7筋の歩を取り返すと、永瀬王座は2筋を継ぎ歩で攻めます。豊島九段は銀頭を歩で叩き、銀を引かせてから2筋の歩を取ります。

技の応酬

永瀬王座が飛車を走って7筋の銀に当てると、豊島九段は3筋の歩をぶつけて飛車の横利きを遮断します。永瀬王座が2筋に歩を垂らすと、豊島九段は飛金両取りに△3四角と打ちます。永瀬王座が飛車で3筋の歩を取って銀に当てると、豊島九段は銀を引いてかわします。永瀬王座が5筋の歩を突いて角道を遮断すると、豊島九段は2筋に銀を前進して飛車を捕獲します。

飛車の取り合い

永瀬王座は飛車取りに△7一角と打ちますが、豊島九段は少ない残り時間から12分を割いて銀で飛車を取ります。永瀬王座は角で飛車取って馬を作りますが、豊島九段は△2九飛と王手で打ち込みます。AIの評価値は永瀬王座の80%と大きく傾いています。

王座の玉頭攻め

永瀬王座が自陣に飛車を打って飛交換すると、豊島九段は2筋に歩を垂らします。永瀬王座は後手陣に王手で飛車を打ちおろし、2筋の銀頭を歩で叩いて引かせます。永瀬王座は更に歩で角を1筋に追い、1筋の歩を突き捨ててから馬で桂を取ります。豊島九段は2筋に"と金"を作りますが、永瀬王座は角金両取りに桂を打ちます。豊島九段は銀で桂を食いちぎり、先手陣に飛車を打ち込みますが、永瀬王座は構わず1筋の香を走ります。

挑戦者の勝負手

豊島九段は歩で角を守りますが、永瀬王座は王手で銀を打ち込みます。豊島九段が金銀交換して玉で"と金"を取ると、永瀬王座は歩で飛車の位置を変えてから馬を引いて銀に当てます。豊島九段は9分考えて1分将棋となり、秒読みを聞きながら飛馬両取りに△6二銀と勝負手を放ちます。この銀は馬でタダで取れますが、馬の自陣への利きが逸れるため、永瀬王座は馬を見捨てて▲4一飛成と竜を作って金に当てます。

鉄板の寄せ

豊島九段は馬を取りますが、永瀬王座は竜で金を取って王手を掛けます。豊島九段は入玉も視野に懸命に粘りましたが、永瀬王座は後手玉の上部から押さえ込み寄せ切りました。

まとめ

一局目は途中まで前例のある将棋で、両者が十分に研究していたと思われる展開となり、昼休までに93手という異例のハイペースで午前中から終盤戦に突入しました。永瀬王座は豊島九段の93手目に「準備不足だった」と話しましたが、昼休を挟む1時間超の長考で指した手は、先手からの猛攻を浴びかねない危険な一手でした。AIは馬で金を食いちぎってから後手の飛車の自陣への利きを遮る手順を推奨していましたが、豊島九段は3時間弱の大長考で「自信がある手順が浮かばなかった」ため、このチャンスを活かせず千日手にせざるを得ませんでした。
指し直し局は持ち時間に大きな差があり、序盤から短時間での決断を強いられた豊島九段が積極的に仕掛けました。時間に余裕がある永瀬王座は、徹底的に相手の狙いを消し、手堅く形勢をリードして寄せ切りました。
これで両者1勝1敗のタイスコアとなりました。この2人による千日手と言えば、2年前の叡王戦の激闘が思い出されますが、第三局以降の好勝負を期待したいと思います。

王座戦は、日本経済新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「王座戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ouza)

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