「観る将」が観た第35期女流王位戦五番勝負第三局
5月23日、女流王位戦第三局が福岡県飯塚市の麻生大浦荘で行われました。連勝スタートで防衛まであと1勝となった福間香奈女流王位が一気に決着を付けるのか、加藤桃子女流四段が一つ勝って巻き返すのか、楽しみな一局となりました。
前夜祭では、福間女流王位は「明日は自分の全力を出しきれるように頑張ってまいりたいと思います」、加藤女流四段は「明日は自分の納得がいく指し手を積み重ねていきたいと思います」と決意表明しています。
福間女流王位の中飛車
広々とした和室に設けられた対局室に、加藤女流四段が青灰色のワンピースに淡いグレーのジャケットで入室し、福間女流王位は白いシャツにベージュのスーツ姿で入室します。先手の福間女流王位が初手に5筋の歩を突いて中飛車に振ると、加藤女流四段は角道を開けずに超速で銀を繰り出し、銀対向の形になります。
銀冠対高美濃
福間女流王位は美濃囲いに構え、加藤女流四段が△4三金と中央に手厚く構えると、銀冠に組み替えます。加藤女流四段は左高美濃に組んでから△8四角と転回し、福間女流王位が▲6八角と引いて後手が銀冠に組み替えるのを防ぐと、お互いに7筋に桂を跳ね合います。
加藤女流四段の仕掛け
加藤女流四段は39分の長考で△9三角と引き、福間女流王位が▲5九飛と引くと、8筋の歩を交換して飛車を走ります。福間女流王位は▲7八金と上がって後手の飛成を防ぎ、加藤女流四段が飛車を下段に引くと、9筋の歩をぶつけて角頭を狙います。加藤女流四段は△8七歩と垂らし、福間女流王位が▲7九角と引いて受けると、次の52手目を長考して昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は福間女流王位が3時間29分、加藤女流四段が1時間47分と大差が付いています。
加藤女流四段の踏み込み
加藤女流四段は昼休を挟み、女流では珍しい92分の大長考で8筋の垂れ歩を成り捨て、福間女流王位が24分の熟考で金で取ると、△6六角と銀を食いちぎってから飛角両取りに△6八銀と放り込みます。福間女流王位は同角と応じ、加藤女流四段が△8八飛成と金を取って竜を作り角に当てると、▲7九角打と2枚角で後手の1筋を睨みつつ竜に当て返します。激しい駒の取り合いとなり、駒割りは角金交換で先手の駒得ですが、後手は竜を作ってバランスは取れているようです。
福間女流王位の端攻め
加藤女流四段は△7八竜とかわし、福間女流王位が1筋の歩をぶつけると、3筋の歩をぶつけて角の利きを止めます。福間女流王位は1筋の歩を取り込み、加藤女流四段が3筋の歩を取り込んで桂に当てると、▲1三歩成と王手で飛び込みます。加藤女流四段は玉を3筋に引いてかわし、福間女流王位が3筋の歩を銀で取ると、更に銀頭を歩で叩いて拠点を作ってから△1三香と"と金"を取ります。
福間女流王位の焦点の歩
福間女流王位は同香成と応じ、加藤女流四段が△1六歩と垂らすと、22分の熟考で取ったばかりの香を手堅く▲1九香と手放します。加藤女流四段は7筋の歩をぶつけて戦線拡大を図りますが、福間女流王位は構わず▲3三歩と焦点に歩を放ちます。加藤女流四段が同桂と応じると、福間女流王位は5筋の歩を突き捨て、3筋の桂頭を歩で叩いて金で取らせ、中央からの攻めで挟撃を図ります。
歩で後手陣を崩す福間女流王位の技
福間女流王位は更に6筋の歩を伸ばして銀を引かせ、5筋に歩を合わせてから▲5四歩と銀頭を叩いて上ずらせ、▲5七角と上がって後手がぶつけた7筋の歩を狙います。加藤女流四段は21分の熟考で残り1時間を切り、△4二金と先受けしますが、福間女流王位は▲7五角と飛び出して後手玉を間接的に睨み、形勢は先手に傾き始めたようです。
角切りの強襲
加藤女流四段が3筋の歩を伸ばし、銀で取らせてから△4五桂と跳ねると、福間女流王位はじっと▲5八歩と打って後手の竜の横利きを遮断します。加藤女流四段は桂交換してから△3五歩と銀頭を叩きますが、福間女流王位は▲2二成香と押し売りします。取ると角で金を取られて馬を作られてしまうので、加藤女流四段は玉を4筋に逃がしますが、福間女流王位は▲4二角成と金を食いちぎり、もう1枚の自陣角で▲9七角と王手します。
電光石火の即詰み
加藤女流四段は6筋の歩頭に桂を合い駒して凌ぎ、飛金両取りに△4八角と打って下駄を預けます。福間女流王位はノータイムで▲6三歩成と開き王手を掛け、加藤女流四段が角の利きを活かして△7五歩と守ると、▲3一銀から王手を続けます。後手玉には即詰みが生じており、加藤女流四段は数手指し続けましたが、▲1三銀を見て投了を告げました。
まとめ
本局は加藤女流四段が積極的に仕掛けて強く踏み込みましたが、福間女流王位も自陣に2枚角を設置して後手の竜を封じ込んでバランスを保ちました。加藤女流四段は攻めの糸口を探りましたが、福間女流王位は2枚角の睨みで後手陣を端から攻略し、歩を駆使して挟撃態勢を作ると、最後は角切りから出雲のイナズマの寄せを魅せました。
本シリーズのまとめ
本シリーズは3局とも加藤女流四段が積極的に仕掛けましたが、福間女流王位は相手に決め手を与えず、終盤のチャンスを逃さず寄せ切る展開となりました。
3勝0敗で6連覇を達成し女流王位通算10期となった福間女流王位は、対局直後に「第一局、第二局とも力戦で難しい将棋だったのですが、4時間という持ち時間を自分なりに要所で使えていたかなと思います」と淡々と振り返りました。感想戦後の囲み取材では「今回のシリーズも戦型選択とか考えるところがあったので、色んな形や幅広い指し方ができるように、今後もやっていけたらと思います」と語り、手堅い受けと鋭い寄せのバランスを兼ね備えた強さに磨きが掛かりそうです。
研究の深さで3局とも序盤を押し気味に指し進めた加藤女流四段でしたが、中終盤以降一気に形勢を損ねてしまう将棋が続き、「ちょっと不甲斐ない将棋ばかりでした。第二局はまだ救いようがある内容だったかもしれませんが最後は残念だったので、全体的に課題が残ってしまったと思います」と反省を口にしており、二強に迫る一番手として捲土重来を期待したいと思います。
女流王位戦は新聞三社連合、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会が主催しています。
棋譜は下記サイトをご確認ください。