「観る将」が観た第14回朝日杯将棋オープン本戦トーナメント藤井二冠1-2回戦
1月17日に第14回朝日杯将棋オープンの本戦トーナメントで藤井二冠が登場する1-2回戦がありました。今回の朝日杯は、トーナメント表の左側に4強が集まり、順当に行けば2回戦で4強同士が激突するという組み合わせになっています。
1回戦 藤井二冠 vs 大石七段
大石七段は2009年プロ入りの31歳で、2013年度に将棋大賞新人賞を受賞しています。藤井二冠には過去3敗しており、本局が4局目となります。1次予選からの出場で、2次予選ではシードされたA級棋士の稲葉八段と糸谷八段を連破して本戦トーナメントに駒を進めました。
振り駒で先手となった大石七段が選んだ戦型は中飛車でした。美濃囲いを完成させた後▲6五歩と仕掛けたのが、大石七段がこの対局に向けて準備した研究手順でした。まだ自玉が薄いと見た藤井二冠は丁寧に受け、△5六歩から待望の反撃に出ます。しかし、ここで大石七段が持ち駒の角を自陣に投入する▲6八角が粘り強い受けとなり、なかなか相手に決め手を与えません。
徐々に苦しくなってきた大石七段は、成桂と「と金」で相手の守備駒を削り▲8四角に命運を託しましたが、藤井七段は△4六桂と詰めろを掛け、相手に持ち駒の銀を守りに使わせます。いったん守備陣を補強した藤井二冠は、再度の△4六桂から△8三角と打って詰めろを掛けます。受けなしに追い込まれた大石七段は、はっきりした声で「負けました」と告げました。
本局は、大石七段が入念に準備した作戦で先攻しましたが、藤井二冠に受け止められてしまいました。しかし藤井二冠に反撃されてからの大石七段の受けも粘り強く、見応えのある攻防を魅せてくれました。大石七段が対局後のインタビューで、力を出し切った表情を見せていたのが印象的でした。
2回戦 藤井二冠 vs 豊島竜王
藤井二冠と大石七段の対局と並行して行われた1回戦で豊島竜王が飯島七段を破り、2回戦で藤井二冠との対局が実現しました。前日にABEMAで第11回朝日杯の準決勝と決勝の映像を流していましたが、藤井二冠としては公式戦で6戦してまだ勝利のない豊島竜王に対し、相性の良いこの棋戦(*)で一矢報いておきたいところです。
(*)第11回朝日杯では、まだ中学生だった藤井五段(当時)が準決勝で羽生竜王(当時)、決勝で広瀬八段を破って初優勝し、六段昇段を果たしています。
また、翌年の第12回朝日杯では、藤井七段(当時)が渡辺棋王(当時)を破って2連覇しています。
本局の戦型は、先手の豊島竜王が角換わりに誘導し、藤井二冠も受けて立ちました。いつも通り序盤はほとんど時間を使わずに指し進める豊島竜王に対し、藤井二冠は小刻みに時間を使っています。豊島竜王が腰掛け銀に構えたのを見て、藤井二冠は早繰り銀から△7五歩と仕掛けます。豊島竜王も2筋の継ぎ歩攻めで相手を壁形にしますが、藤井二冠は相手の桂頭となる3筋から反発します。ここで豊島竜王は初めて時間を掛け、8分程考えて▲4七銀と引いて受けました。これに対して藤井二冠も14分程熟考し△3六歩~△8六歩と踏み込みました。
藤井二冠は、8筋にいた飛車を2筋に回して飛車交換を打診しますが、自陣が薄い豊島竜王は銀を打って拒否します。藤井二冠は攻撃の手を緩めず、更に△5五桂と急所に桂を打ちますが、豊島竜王は▲8三角~▲5六角成と馬を引き付けて守りを固めます。
豊島竜王が▲5二馬~▲2二飛成と反撃し▲5五桂と打った局面は、藤井玉も相当危険な状態に見えましたが、AIの形勢判断は少し藤井二冠に傾いています。ここで藤井二冠に決め手があるかと思われましたが、△3七角と打つとAIの形勢判断が一気に逆転します。藤井ファンにとっては、王将リーグの悪夢が頭をよぎります。しかし、ここで相手玉から遠く離れた場所に打った△8六歩が藤井二冠らしい勝負手で、解説の高見七段によれば、打たれてみると詰めろとわかるが非常に気づきにくい手だったようです。続く△8七歩に▲同金としたため△7八角がまた詰めろとなり、再びAIの形勢判断が藤井二冠に大きく振れました。詰めろがほどけなくなった豊島竜王は駒台に手をかざし、無念の投了となりました。
本局は、序盤から藤井二冠が積極的に攻め続け、対局後に「序盤に失敗した」という豊島竜王が粘り強く受ける展開になりました。お互いに1分将棋となった終盤には、どちらが勝つかわからない際どい攻防となりました。最後は藤井二冠がプロにも気づきにくい鮮やかな寄せを魅せ、豊島竜王に対する待望の初勝利となりました。藤井二冠がこれまで善戦しながらも勝ち切れなかった豊島竜王に勝ったことで、今後の両者の対局が益々楽しみになってきました。
この結果、2月11日に行われる準決勝は、渡辺名人と藤井二冠の顔合わせとなりました。渡辺名人としては、棋聖戦五番勝負や第12回朝日杯決勝のリベンジマッチとなり、相当な準備をして臨んでくると思われます。両者が持ち味を出し切った好局を期待したいと思います。
※藤井二冠と豊島竜王の対局の終盤は見応えがあり、別途投稿しましたので追記しておきます。
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