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「観る将」が観た第45回将棋日本シリーズ決勝

11月24日に将棋日本シリーズJTプロ公式戦(JT杯)決勝、渡辺明九段と広瀬章人九段の公開対局が、東京ビッグサイトで行われました。JT杯はタイトル保持者と前年度賞金ランク上位の12名で行われるトーナメントで、持ち時間10分(切れたら1手30秒未満、他に1分の考慮時間5回)の早指し棋戦です。

これまで3回の優勝を誇る渡辺九段は5回目の決勝進出で、今回は2回戦で豊島九段、準決勝で稲葉八段を降して勝ち上がりました。初優勝を目指す広瀬九段は2回目の決勝進出で、今回は2回戦で丸山九段、準決勝では2連覇中だった藤井JT杯を撃破しました。2022年度から2年間、4つの一般棋戦ですべて決勝に駒を進めていた藤井JT杯が姿を消し、両者としてはこのビッグチャンスを何としても掴み取りたいところです。

照明を落とした会場に向かって右からは銀鼠の着物と鶯茶の袴に紺色の羽織をまとった渡辺九段が、左からは紺色の着物と灰色の袴に葡萄色の格子柄の羽織をまとった広瀬九段が、それぞれスポットライトを浴びて登壇します。地に模様の入った羽織をまとってステージに上がります。司会者がメッセージを求めると、渡辺九段は「決勝戦ということで大変大勢のお客様に現地及び配信で観ていただけていると思いますので、そういった期待に応えられるよう精一杯頑張っていきたいと思います」、広瀬九段は「JT杯の決勝戦という大きな舞台になりますので、自分の力を精一杯出し切れるように頑張りたいと思いますので、ご視聴の程よろしくお願いします」と話しています。


渡辺九段が雁木

振り駒で後手となった渡辺九段が角道を止めて雁木模様の駒組みを進めると、広瀬九段は▲5六銀と腰掛け、4筋の歩を交換して銀で取ります。渡辺九段が角を交換してから△6二玉と右玉に構えると、解説の森内九段はここで封じ手を宣言し、広瀬九段は少考して次の手を封じます。

渡辺九段が飛車を転回

広瀬九段の封じ手は、候補の1つに上がっていた▲6六歩でした。渡辺九段は3筋に桂を跳ね、広瀬九段が銀を5筋に引いてかわすと、△5四銀と繰り出します。広瀬九段は▲4七金と上がって桂頭の傷を消し、渡辺九段が△4一飛と転回すると、▲4六歩と打って守ります。

中盤の難所

渡辺九段が飛車を2筋に転回すると、広瀬九段は9筋の端歩を突き合ったところで持ち時間を使い切り、▲8八玉と入城します。中盤の難所を迎えて渡辺九段も持ち時間を使い切り、いったん上がった銀を△4三銀と戻し、広瀬九段が考慮時間を1回使って4筋の歩を伸ばすと、玉を7筋に寄せて待ちます。

広瀬九段の好所の角

広瀬九段は更に考慮時間を使って▲5五銀と繰り出し、渡辺九段も考慮時間を使って△7二金と陣形を引き締めると、4筋の歩を伸ばして銀にぶつけます。渡辺九段は銀を5筋に引いてかわし、広瀬九段が▲4六銀と引いて後手の桂頭を狙うと、飛車を8筋に戻します。広瀬九段は▲5六角と好所に据え、渡辺九段が考慮時間を使って5筋の歩を突くと、考慮時間を使って2筋の歩を交換します。

渡辺九段が7筋から攻勢

渡辺九段は△4五歩と銀頭に打って桂交換し、考慮時間を使って7筋の歩を突き捨ててから△7六歩と銀頭を叩きます。取ると金銀両取りがあるので、広瀬九段は銀を6筋に引いてかわし、渡辺九段が8筋の歩を交換すると、考慮時間を使い▲6七銀と上がって陣形を整えます。

渡辺九段が金を前進

渡辺九段は考慮時間を使って△7七桂と打ち込み、広瀬九段が桂交換に応じて玉で取ると、△3三金と上がって飛車に当てます。広瀬九段は▲2二飛成と竜を作って金に当て返し、渡辺九段が△4四金とかわしつつ角に当てると、▲5六角とかわします。ここまでずっとほぼ互角を示していたAIの評価値は、渡辺九段の66%と傾いてきました。

渡辺九段の攻防の角

渡辺九段は最後の考慮時間を使って△5五歩と伸ばし、広瀬九段が▲7四角と後手の銀の利きに差し出すと、△5九角と王手して先手玉の退路を封鎖し、△8五桂打と王手を続けます。広瀬九段は▲7六玉とかわし、渡辺九段が角銀交換してから△4三角と王手しつつ自陣の銀に紐を付けると、最後の考慮時間を使って▲7五玉とかわします。AIの評価値は、渡辺九段の98%と大きく傾いています。

飛車切りの寄せ

渡辺九段は△7七桂成と飛び込んで飛車の利きを通し、広瀬九段が▲8四桂と王手しつつ飛車の利きを止めると、飛車で桂を食いちぎってから△8三歩と打って追い返し、成桂で金を取って詰めろを掛けます。広瀬九段は▲7三歩成と桂を取って王手し、渡辺九段が金で取ると、▲7四歩と金頭を叩きます。先手玉には即詰みが生じており、渡辺九段が△8四金打と王手すると、広瀬九段は秒読みの声を聞きながら投了を告げました。

まとめ

本局は広瀬九段が序盤に工夫を見せ、渡辺九段は雁木で応じてジリジリした中盤戦となりました、広瀬九段が好所に角を据えると、渡辺九段は7筋から攻勢を掛け、金を繰り出して竜を作らせる代わりに角を攻めて主導権を握りました。広瀬九段は玉を上部に脱出しましたが、渡辺九段は攻防の角を放ってリードを拡げ、最後は飛車を切って寄せ切りました。
渡辺九段は5年ぶり4度目のJT杯優勝を飾り、年度末に向けて各一般棋戦での活躍が楽しみになってきました。広瀬九段は惜しくも2度目の準優勝となりましたが、準決勝で藤井JT杯を破ったのが印象に残る大会だったと思います。

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