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【シンカビト vol.1】 里 大輔 #part2

少年の「僕」が、今日の「僕」に教えてくれること
里 大輔 / DAISUKE SATO

-PART2-
【自分が明確に信じているものを守ること】

林:どうして里少年は、親元離れて一人で競技をするという道を選ぶに至ったんですか?

里:勝ちたい、評価されているとか、自分が勝つことで喜んでくれる人がいるっていう環境で、揺れる価値観のようなものが自分の中ですごく増えてきたんです。

家庭内では「スポーツで生きていくか否か」を提示される機会が増えてきて、僕としてはその否定に対して「嫌だ」っていうよりも、なぜスポーツがダメだとされるのか、この「なぜ」の部分がクリアにならない限り、僕は納得出来なかったんです。

それはやっぱり今まで培ってきた練習とかの中で「なぜ」を明確にし続けてきたからこそ、子どもながらに「なぜ」がクリアではないという違和感に対して抵抗したって感じですかね。

スポーツをしたかったていうのも当然あるんですけど、その「なぜ」の答えが自分の持っているものと合致していなかったんです。

林:当時の里少年は、親という絶対的な存在からの圧力に対しての抵抗を感じていたんだと思うんですけど、親御さんはどういう気持ちだったんですかね。

里:苦しかったと思います。

自分に子供がいて、スポーツとか芸能で食べていきたいって言ったときに、小学生ぐらいの時には「応援するよ!頑張って!」て言えますけど、いよいよ、高校生、大学生となった時に、本当に突出していない限り、自信を持って背中を押せるかって言われると難しいですよね。

他人の子供には綺麗でかっこいい事言えるかもしれないですけど、やっぱり自分の子どものことになると臆病になるんじゃないかと正直思います。

林:大人になって気付いたこととして、子供の頃って、何か対立が起きたときに「正義対悪」みたいな考え方になりがちで、でも実は「正義対正義」だったりするんですよね。

親にも悪意はなくて、善意と信念と愛をもって反対している。そこで折り合えなかったこともまた一つのターニングポイントですよね。

里:いやー。ほんとにそうですよね。この組織を抜けるか、未来の安定をとるか。

誰からも応援されていない中、自分が信じているもの、でも信じているものですら保証がないっていうのは何となくわかっているけど。

でもそれは、一言で「夢を追う」ていう感覚とは違ったんですよね。夢ばかり追うなって。それは子供なりにそうじゃないって思っていたし、今振り返ってもそう思う。

確実にチャレンジしていくために、失敗したら次のプランあるのかっていうわけじゃなくて、明確に自分が信じているものがありました。色んなことに対して役に立つっていう自覚もありました。

スポーツを追求するというよりも、自分がやるべきことに対しての仕込みと、そこへのハードワークと、それをどう修正していくかていう、そのパッケージを追求するツールがスポーツだったんです。

でも、子どもの時はそれを説明できなかったけど、スポーツだけをやっているわけではないことは分かっていた。早熟ですよね。本当に自分がいた環境は良かったと思います。

林:今39歳の僕は、すごく意味がわかります。

里さんのパフォーマンス理論について、あるいはコーチング理論についての話を、僕はビジネスの話として解釈ができます。汎用性があるっていうか、色んなものに役に立つっていう感覚が今なら分かる。

子供ながらにその感覚があるってすごいですね。

里:当時は、矢印は自分だけに向いていました。今はその矢印を色んな人たちに向けていますね。

大会で勝った時に「ターニングポイントになりましたか?」ってよく聞かれるんですけど、今振り返ってみると、何か結果を出したらそれがターニングポイントになっているわけではなくて、自分のターニングポイントはスポーツにおける直接的なことでもないな、と思います。

林:里さんがターニングポイントって呼ぶ場所は、外部環境というより自身の意思決定という要素が強いのかな。

里:かっこよく言えば、自分が意思決定をしているけど、実際は意思を決定させてもらえる環境にいる。

意思を決定するに至るまでに、自分の中で色んなものを築ける環境に自分はいたんだなって思います。

林:「これでいいや」ってなんとなく決めちゃうんじゃなくて、準備や葛藤を超えた先に覚悟を決めて、何かを生み出すっていうのが意思決定ですよね。

里:僕は結構不安症でビビリなんで、だからこそ準備を重ねることで不安を払拭しています。だから、OK、行くぞ。っていう時の覚悟の決め方と、覚悟の継続期間は普遍だなって思います。


【付けられた価値じゃなくて、自分で価値を付けにいく生き方】

林:一本のインタビューでは終わらない感じですけど、この先には何がありましたか?

里:競技者として「挫折」も沢山あるんですけど、「やり続ける」ことを大事にして、自分が立つステージから降りませんでした。

勝つこともあれば負けることもある。僕の人生で、付けられた価値か、自分で価値を付けるか、二つの選択を迫られることが多かったです。

まずは、高校から大学に行く時、慶應や早稲田への選択肢もあった。だけど、自分の本質的な要求、「なぜ」に答えられるものが僕には必要で、全く無名の大学に決めました。

ここでは僕の「なぜ」に答えてくれるコーチが海外から帰国して大学のコーチになるタイミングと、僕の選択の時期が重なったんですよね。そのコーチの一期生として自分が歴史を作っていきたいって思ったので、実際進学先の選択に迷ったのは1日だけだったかな。

その後、大学院へ進み、修了間近になって、プロも経験しましたが、自分の競技レベルは低いと判断したので、実業団に行くことはしませんでした。

同時期に大学の監督のオファーがありました。当時24歳という若すぎる前例のない状況だったため、条件は驚くくらい低かったです。
コネクションによりいくつか選択肢はありましたが、安定した人生か挑戦する人生か。決断はシンプルでした。

まずは大学の監督の第一歩はクラブの立て直しからはじめました。部員の人生・勉強・競技の順に優先順位を掲げ、朝練習を廃止し、朝に新聞のレポート、就職に向けた勉強や社会貢献活動など、自分たちを支えてくれる環境に対して『やるべきことをやった人が』『やりたいことができる』と部員たちに説明し参加してもらいました。

トレーニングでは常に『成し遂げるためには何が必要か』を掲げ、常に『なぜ?』『ではどうやって?』を追求しながら練習をしました。徐々に成果をあげ、地元の高校から多くの選手を送っていただき、また『君のところは選手としてでなく人間を育ててくれる』と信頼を得るようになりました。

しかし、実績をあげることにより、周囲の方に自然と信頼を得ることには有り難くも、本当の自分の実力は純粋に成長しているのだろうか?

大学や監督の肩書きは純粋に自分の実力を表現していることなのだろうか?

自分が今まで積み重ねてきたことを純粋に評価される場所はどこなのだろう?

と自分自身に疑問を抱くようになりました。最初は厳しい挑戦で選んだ監督の道も、多くの選手や指導者の方によって成長させてもらえたことで、次の挑戦が見えてきました。

安定した大学での人生か。独立してプロとして挑戦していくか。

でも、このタイミングで僕は独立してプロとして生きていく道を選んだことは今こうやって振り返ってみても良かったと思えます。付けられた価値じゃなくて、自分で価値を付けにいくっていう生き方を自分はしていると思う。

多分どの道を選んでいたとしても最後は今の選択を選んでいたなって思います。どのみちこの選択を迫られて選ぶ時があるというか、この道をもっと早く選択することも出来たんだろうなって思うことの方が多いですね。

林:僕の場合、真逆の選択をしてきたことが多いかもしれないな。

なぜかって考えてみると、これ以上自分は成長しない、変わらないっていう前提が自分にはあったんだと思う。だから、箔をつける、鎧を身に着ける必要性を感じていました。

三菱商事に入ったのも、そこで明確にやりたいことがあったわけじゃなくて、いずれ自分の事業を立ち上げるときに、箔が欲しいと思ったから。

僕は、人が人を見る目を信用してなかったんですよね。人はプロフィールだけで人を判断するもの、これが前提だと思っていました。

でも、自分が変わろうとすると、自分を変えようとすると、出会う人が変わってくることに気が付きました。

今回、里大輔という人物に出会えたのも、ご縁もあるけど、準備が出来ていたからなんじゃないかと。人生の舵は自分にあるっていう感覚が引き寄せを生んだような。

里:僕は林さんとはまた違う選択をしてきたんです。僕の選択の最大の弱点は、王道の道を歩かなかったが故に、圧倒的に人脈が少ないことです。

自分の近くに、自分の持っている疑問を解決できる人が居なかったというか、自分が追求したいところまで深掘りしている人が居なかったので、自分でその疑問を深掘りするしかなかったです。

少数だと本当に人と繋がるのって結構難しいことを学んだので、今後は大事にしないとなって思います。

林:人生における決断とか選択は何に支配されているんだろう。勇気ではなさそう。

僕は育った環境要因が強そうだなって思います。若かりし里少年の求めるものが周りの助けを必要としないものだったのかなって。自分の価値の追求であったり、納得っていうのを自分の力で作り上げたかったんじゃないか。

でも、社会を変えるみたいな欲求には自分の器を超えた大きな力が必要だから、今まで関わらなかった人達と繋がる必要が出てきて、見える世界の色も変わってきたのかな。

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