見出し画像

勃起した男には何を言っても無駄だと言っていた女の人

(こちらの記事の続きとなります)

今まで、何か思ったり、何か引っかかることがあるのに、気持ちがいいから射精するまではやめられないとか、そんなふうになったことなんてあったんだろうかと思う。

勃起した男には何を言っても無駄だから、というようなことを言っていた女の人がいたけれど、それを聞きながら、自分は全然そうじゃないなと思っていた。

その女の人は、男はそういうものだから危なくなりそうなら全力で逃げるし、状況的に逃げるのが無理そうなら、どうせ無駄だから諦めるしかない、というようなことを言っていた。

どういう男と遊んでいるとそういうことになるんだろうなと思ったけれど、連絡が入ったからと夜中に出かけて男の金で遊んでいるような人ではあったし、その人がそう思うなりの出来事があったのだろうと思っていた。

そして、そう言っていた女の人が、俺の部屋に泊めてくれとやってきて、一緒に寝ながら、身体に触って何もしなかった相手だった。

俺はその人の太ももに勃起したものを押し付けて、横から抱くようにして胸や首筋を触っていたけれど、もったいぶった反応しかないことにつまらなくなってしまった。

相手から身体を離しながら、勃起した男には何を言っても無駄だからと言っていたのを思い出した。

俺は勃起したまま相手の隣で仰向けになって目を閉じながら、勃起したからって、それくらいでやらせてもらいたがるふりはできないなと思った。

そして、隣から聞こえる相手の息の音を聞いているうちに、五分もしないで眠ってしまった。


そのときと今とでは違いすぎるのだ。

今は聡美のことがとても好きだし、聡美にくっついていることが気持ちよすぎて、やらせてもらいたがっているふりをする必要もない。

あの女の人も、俺としたかったのなら、俺のほうを見ればよかったのにと思う。

自分からは何も切り出したくなかったにしろ、目が合って、多少でも俺に向かって目の奥を揺らしてくれたなら、もう少し近付いていろいろしただろうにと思う。

今だって、やめようと思えばやめられるのだろう。

けれど、目が合ったままでは無理だなと思う。

こんなふうに視線が絡み合っていると、相手に引っ張られて気持ちが前のめりになってしまって、やめようなんてまったく思ってもいないことを口に出せるような余裕がなくなってしまう。

こんなふうにセックスできてしまっているのが、自分にとってあまりにも特別な時間で、頭も身体も温かく痺れてしまって、どうしようもなくなってしまう。

けれど、この聡美と俺を強くつなぎあわせている引き付け合うものは、だんだんと消費されていってしまうものなのだ。

聡美が今くれている、俺をしっかりつかまえてくれている視線は、いつかだらんとゆるんだものになってしまう。

何回目のセックスなのかはわからないけれど、このまま付き合っていれば、ある日気が付くことになるのだ。

いつもどおりな感じで脚を開かせて、腰を押し付けて、覆いかぶさって動き始める。

しばらくしてお互いの快感が徐々に高まってきて、そのうちに、なんとなくぼんやりしたものが自分の目の前にかぶさってきて、気持ちが相手にうまく入り込めていけないのを感じて、おかしいなと思う。

そして、ぼんやりしているのは相手の目なのだということに気が付く。

相手の目がぼんやりとしていて、俺がぼんやりと見られているのだということに気が付く。

相手は俺を見てくれているし、反応もしてくれている。

けれど、これまでよりも自分が放っておかれているような感じがする。

相手は気持ちよさそうにしてくれていて、俺はいつものように刺激を途切れさせないように調整して、セックス自体はそれなりな感じで進んで、そして俺が射精すれば終わりになる。

相手は満足そうにしていて、俺は何も言わない。

そして、たいして何かを考えるわけでもなく、すぐに眠ってしまう。

そんなふうにセックスをしたのと前後して、その人はある日思うのだろう。

ふと気が付いたら、俺に対してずいぶんとリラックスできている。

そして思うのだろう。

この人といることが私にとって自然なことになったんだな。

最初はどういうふうに接すればいいのかわからなくて困ってばかりだったけれど、いつの間にか、何も不安に思ったりせずに当たり前のように一緒にいられるようになったんだな。

そんなふうに思うのだろう。

そして、そう思っているとき、その人は幸せを感じているのだと思う。

この人とはこんなふうに接していれば大丈夫と思えるようになって、俺に対してリラックスできるようになったことで、セックスの中でもリラックスできるようになったということなのだろう。

それまでは、俺がどう反応するか不安になりながら、緊張感を持って俺の反応を確かめていたのが、もう不安に思う必要はないと思えるようになったのだ。

だから、これで大丈夫かという問いかけが俺に向けられなくなって、もう大丈夫なものが今もちゃんと大丈夫なことを、うれしいなという気持ちで見守るような視線になったのだろう。

相手の反応を確かめることに強迫されて前のめりだった意識が、自分の気持ちに深く背を預けるようにだらりとした楽な状態になってしまったのだ。

それによって、その人自身が目の奥に引き下がってしまったように感じられるようになるし、俺の目の奥は探られなくなっていく。

そうなってしまえば、視線がぶつかり合ったようになることはなくなっていくし、目が合っていても、引き付けあったまま目を逸らすことができない状態にはならなくなっていく。

何が変わったというわけでもないのだ。

ただ相手の目がゆるやかになったというだけで、俺のすることにはしっかり反応してくれているし、気持ちよさそうにもしている。

けれど、以前ほどは俺をまっすぐには見ていないし、見詰め返してくれていても、俺が今どんな気分なのかということを確かめてくれている感じがしてこない。

それでも、気持ちよさそうにしている相手に求められるまま、セックスは続いていく。

実際に気持ちよかったのだろう。

むしろ、俺がどう反応するかわからなくてずっとそれを確かめながらしていたときよりも、自分の気持ちよさに集中できる分、気持ちよさは大きくなったのかもしれない。

そんなふうになってから「今までで一番気持ちいい」と言われたことが何度もあった。

そして、俺はその気持ちよさそうな姿を見ながら、自分の中が空っぽになっているのを感じるようになる。

相手が自分を確かめようとしてくれていないときに、俺は相手の何を感じればいいのかわからなくなってしまうのだ。



(終わり)



「つまらないセックス」からの抜粋を加筆修正したものとなります。

(下記から抜粋)


(全話リンク)


いいなと思ったら応援しよう!