絶煙して六年経って思うこと
タバコを吸わなくなって六年が経ったけれど、この正月に、自分の家で昔の友達と集まって飲み食いしたり麻雀したりで、長時間タバコの煙の中で過ごしたら、体がかなりタバコに反応してきて、何年経っても体はタバコを忘れてくれないんだなとうんざりさせられた。
喫煙者を同じ部屋で過ごし始めて六時間後くらいには頭痛がしてきて、頭痛が引いてくると、絶煙したときの離脱症状のような抑うつ感が持続するようになって、明け方まで麻雀して、もう少し話しながら飲んで、いつの間にか寝て起きてからも、頭に軽い締めつけ感があるし、抑うつ感も続いていて、意識して喋ろうとしないと延々と黙ったままになりそうな気分にすっぽりと包まれていた。
友達を駅まで送っていって、少し横になってまた起きてから、夕方になっても、徹夜と軽い二日酔いでだるいところに、ニコチンで心拍や血圧が上昇していることで、心臓がはっきりとどきんどきんとしていて気持ちが悪かった。
しばらく活動してから、飯を食べてだるくなって横になったら、気がついたときには、離脱症状があった頃のように、寝汗をべったりかいていた。
寝汗で起きてからは、心拍の違和感はなくなったけれど、抑うつはうっすら続いていて、もう一度しっかり寝て、やっと体に違和感がなくなった感じだった。
それでも、六年前の絶煙してしばらくは、道ですれ違う人の歩きタバコの副流煙くらいでも頭がずきっとしたり、喫煙者と飲みに行ってタバコの煙を吸いすぎると、翌日も体の中にも頭にもずっと違和感が続いて、一日中仕事に集中するのがかなり大変だったりしていたのだし、その頃からすれば、時間が経ったぶんだけ、体のタバコへの反応は弱まってきているのだろう。
たしかに、ここ数年は、道ですれ違う人の副流煙にも、脳が反応しそうになる気配くらいは感じるけれど、ずきっとくることはなくなったし、飲み屋で隣の人にタバコを吸われているくらいのことはあっても、そのあとしばらく体調に影響が出るようなこともなくなっていた。
けれど、この正月の麻雀のように、濃ゆい副流煙をたっぷり吸ってしまうと、俺の体はまだタバコ中毒者だった肉体として反応してしまうしのだ。
アル中だった人が、数年ぶりであっても、飲んでしまうとまたすぐにアル中生活に戻ってしまうように、俺の体だって、すぐにでもタバコ中毒者に戻る準備はできたままでいるということなのだろう。
中毒というのはそんなにも強固に肉体に刻まれるものなんだなと思うし、人間というのは、とことんまでその人の肉体でしかないものなんだなと思う。
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それにしても、正月の麻雀では、どうしてあんなにも身体がタバコに反応したのだろうと思う。
けれど、軽く窓を開けてはいても、翌日になっても、ふと身体がタバコに反応しているような気がしてくるくらいに部屋がタバコ臭くなっていたし、考えてみると、絶煙してから自分の部屋で誰かがタバコを吸っていたのは初めてだったのだろうし、タバコ臭い部屋で寝るのも初めてだったのかもしれない。
俺の家にいた二十時間くらいの間に、ひとりは一箱ちょっとぐらい、もうひとりも半箱くらいは吸っていたから、今どきにしてはかなりのペースだろうし、俺が喫煙していた頃でも、家にいる時間が多い休日で一箱いくかどうかくらいだったから、自分がかつて吸っていた頃以上のハイペースで濃い副流煙を吸っていたのだろう。
片方が、タバコを吸っていた頃でも俺がきつく感じて苦手だったセブンスターだったというのもあったのかもしれない。
けれど、絶煙してからも、六時間くらい喫煙者と飲食店で飲んでいたことは頻繁にあったし、半日雀荘にいたことも一度か二度はあった気がするけれど、それは大丈夫だった。
冬で自室だったから、窓を小さく開けるくらいで、さほど寒くもなかったから、空調もつけずにコタツで過ごしていて、空気の流れがなさすぎたということだったのかもしれない。
俺はもともと喫煙者の祖父がいる家で小さい頃に生活してもいたし、その後も、どこかにいて空間全体がタバコ臭いと感じることはめったになくて、タバコ臭くて気分が悪いと感じていたのは、昔の新幹線の喫煙車両くらいだったように思う。
それなりしっかり空調が効いている空間なら、タバコの煙も、タバコの匂いも、俺はたいして気にならないほうだったのだ。
今だって、タバコの匂いに反応するのは、臭いことに拒否感が出ているというよりは、脳や体がタバコに反応する感覚が浮かんできて、それが離脱症状が強かったときの苦しさをフラッシュバックさせるような感じになることで拒否感が出ているのだと思う。
俺の知り合いや元同僚には、今だにタバコを吸っている人がたくさんいるけれど、そういうひとたちに悪い印象をもつようになったわけでもないし、俺だって、職業柄タバコを吸うことで他人に嫌そうな顔とか迷惑そうな顔をされることがないのなら、タバコを辞めていなかったのだろうと思う。
いがらしみきおも、創作仕事の人でタバコが吸えないと絶対不利だとしながら、自分がタバコを辞めたのは、人に気を遣いながら生きてるのが嫌だからと語っていて、タバコのことを心底いいものだと思いながら、人に嫌がられるのが嫌だからやめたというのは、本当にそうだよなと思った。
タバコをやめたからって、俺はタバコを嫌いになんてなりたくなかった。
それなのに、こんなにもタバコを近くで吸われるだけで不快な反応が発生する体になってしまって、タバコの煙で俺の体を反応させようとしてくる人たちに、このひとのタバコのせいで苦痛が発生していると自動的に感じてしまう体になってしまったのだ。
それはどうしたって、自分の人生に自分が裏切られたような、とても惨めなことだなと思う。
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