羊の毛刈り
私は私だけど、誰かから見た私も私。
いつのまにか、外側から見た私が私として一人歩きしていた。
そのままの自分でいるのが怖かった。突然否定されたり、怖い人に脅されたり…嫌われたりした。私は外に行く時、自分を守るために着ぐるみを着るようになった。誰かと話すと、外側の私が勝手に話してくれる。面白くなくても笑ったり、周りに合わせていると自然と友達も増えてきた。見て見ぬ振りをすれば仲間に入れてもらえるようになった。
だんだん着ぐるみを脱ぐことがなくなって、そのまま過ごした。私はどこから着ぐるみか分からなくなった。それは、もう私と一体となって、私はもふもふの羊になった。
ある日、牧場で羊の毛刈りのショーを見た。夏に向けて冬毛がバリカンで刈られていく。
羊飼いに抱かれて、羊は大人しくなる。ふわふわ、ふわふわ。たくさんの毛が落ちる。ふわふわ、ふわふわ、ふわふわ。ちょっと黒ずんでいた毛の内側から真っ白い毛が見えてきた。ふわふわふわり。すっかりほっそりとした羊。足取り軽く。羽が生えたみたい。ぴょんぴょんと跳ねるように戻っていく。
いいな。羊。いいね。軽そうで。
私も羊になりたくなった。
私も着ぐるみを脱いでぴょんと跳ねるようにいきたいな。
夏の羊のように少しずつ自分の着ぐるみを脱いだ。
ほんとうの自分はすぐそばにいた。誰の顔色も気にならなくなった。みんな冬毛といっしょにばいばい。
そしたら、やさしい世界が広がってきた。本当に私を大切にすると、色んな人に優しくなれた。もう着ぐるみはいらなかった。本当の私はいつも私自身になった。
春になり…生まれたばかりの仔羊は美味しそうに草を食む。
それを見てる私は、ほんとうのわたし。
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