ヴィンセントインブリクストン観劇
■出演
ヴィンセント・ファンゴッホ:正門良規(Aぇ! group)
ユージェニー・ロイヤー :夏子
サム・ブローマン :富田健太郎
アンナ・ファンゴッホ :佐藤玲
アーシュラ・ロイヤー :七瀬なつみ
■作
ニコラス・ライト
■翻訳
芦沢みどり
■演出
森新太郎
未亡人のアーシュラ(七瀬なつみ)が営むブリクストンのある下宿屋に、二十歳の青年ヴィンセント(正門良規)が、空き部屋 の貼り紙を見たと訪ねてきた。実のところは家から出てくる美しい娘・ユージェニー(夏子)に惹かれて、この下宿屋に部屋を借りに来たのだ。何も知らないアーシュラは、ヴィンセントに部屋を貸すことを決める。ほどなくして先に下宿していた画家志望のサム(富田健太郎)とヴィンセントが口論となり、それをきっかけに娘のユージェニーが 下宿をする目的だと知ったアーシュラは、ヴィンセントに部屋を貸せないと話すが…。(HPより)
森さん演出作品(The Silver Tassie 銀杯(18')、エレファント・マン(20')、HAMLET —ハムレット—(19')etc)を拝見して、美しい男たちの悲劇がすごく魅力的で惹かれたことは記憶にあたらしい。主演が正門くんとあって、私はとても興味が湧いた。しかもあの、ゴッホ役。どうしても晩年のあの姿が浮かぶ。ヒゲ面なのか。似合わなそう。そんな先入観を抱きながら劇場へ、席は下手前方。
◼️ただの感想🌻
夢と情に翻弄され、ヴィクトリア朝イギリスたゆたうヴィンセントが可愛いくて仕方がなかった。クライマックスはタオルで拭いて暖かいスープでも振る舞い、抱きしめてあげたくなった。だけど愛情を持って抱きしめられていたら?晩年の絵は描けなかったかもしれない。
『カラスのいる麦畑』好きだよ‼︎
下宿のきっかけは娘であるユージェニーであったが、ヴィンセントは孤独が呼応し合った未亡人のアーシュラに惹かれていった。美しく若く気丈に振る舞うユージェニーより、憂いを帯びた年上の女性が魅力的だったのか。だが、ユージェニーという人は作品の中では家庭の犠牲で青春を蔑ろにしている不憫な一面がありながら、サムに出会い、平凡な暮らしの住人になる。
サムも美術学校に通う筈だったがほどなくして交際していたユージェニーに子供ができ諦めた。何より、下宿のヴィンセントの才能に自身の限界を感じてリタイアしたこともあり、家庭に居場所を見出したのかもしれない。(個人的にはサムには私はフラフラしていてほしかった。売れない画家でいいから)
アーシュラを描いた裸婦像を眺めながらうっとりする正門ヴィンセントには、なんだか熟女に誘惑された狂った弟を観ている気分になって複雑だった。1幕のラストシーンのその先が観たかった。皮膚や肉体は垂れ下がり、ハリもない身体を美しいとして、神聖な存在として扱うヴィンセント。アーシュラの壊れた自尊心も、ヴィンセントの心のスキマとうまくパズルのピースがハマって、共依存状態。その絵を同じく下宿していた妹にも見つかってしまう。
見つかってもなお怯まず、ヴィンセントは彼自身の正義の愛へ突き進む。
アーシュラ教入信である。
妹アンナや誰の声も届かない。ヴィンセントはそれで幸せだったのか。
幸せだったのだと思う。
アーシュラも画家であるヴィンセントが好きだった。絵を辞めて、彼女の元を去ってもなお、画家としてのヴィンセントをきっと慕っていた。
アンナは最後まで報われなかった気がする。兄を思ってヒステリックになりながら、気持ちを訴えかけて、ときにはミスリードをしたユージェニーへ意見をして揉めるなど、懸命に叫び続けていたけれど、結局ヴィンセントは外見も心もボロボロになってもアーシュラを思った。
ラストは画家としてのゴッホを匂わせるかたちで闇へ光が差し込むように、静かに幕が降りていった。
◼️余談:ヴィクトリア朝と平成サブカルチャー
不思議の国のアリスやドラキュラにジキルとハイドにシャーロックホームズが誕生したのもこの時代。やや、短絡的ながら、忙しない世の中で不干渉というか人のかかわりが希薄でおどろおどろしいサブカルチャーの渦、平成日本とリンクして親しみがもてた時代背景だった。
好きなミュージシャンが昔、10代向けのファッション雑誌で「感性(感情?)が鈍るから、僕は幸せになれない」と言っていた。私は当時からこの言葉が好きだった。幸福の渦中にいると頭が馬鹿になって、感情の鋭さが失われるかもしれない教に入信して狂信しがちだったから!(偏見!)
だがしかし、実際そんなことはないだろうから、各位、幸せになってほしい。私自身、画家キャリアスタート時より晩年ゴッホのほうが近い年齢になると、そう考えるようになった。
幸せの定義は異なり、孤独で感性を保つ人も居れば、きっとパートナーや家族が居ながら鋭さを保つことが幸福という人も居るのだから。
しかし、後日ゴッホが弟テオにあてた書簡をよむうち、とある日に彼は手紙でこう書いていた「 画家リシュパンの言葉を引用『芸術愛は真の愛情を失わせる。』 まったくその通りにちがいはないが、その反対に、ほんとの愛情は芸術をきらうのだ。」真意やいかに。
筆まめというか、じわじわくる愛情というか、正門良規っぽくないですか。ゴッホ。
◼️正門良規という人
いまの正門良規はゴッホが画家を志ざしはじめる年齢くらいだけれど、本当にもっと評価されてほしいと願うばかり。演技中の人との接し方もスマートで素晴らしい。
極めて個人的な意見ではゴーギャンとの逸話の舞台化か映像化があれば西畑さんと演じてほしいが、自画像みていると永瀬くんのが合ってそうなのは悔しいですね。末澤くんもいいな。
実直な男の大成を願って無理のない範囲で応援しています。
個人的に猫背で無我夢中に筆をはしらせる姿がとても好きでした🌻
「悲しみが僕から消えることはない。闇でもあり、光でもある、あなたが昔言ったように。そう、夜空に輝く星のようだ。」
私もこのシーンすき。
長々と失礼しました。
読んでくださってありがとう。