【さきよみ】村上寛『さよなら、産後うつ』より「はじめに」を公開!
はじめに
初めまして。信州大学医学部周産期のこころの医学講座の村上寛と申します。
私は、信州大学医学部附属病院で妊産婦さんのメンタルヘルス専門外来「周産期のこころの外来」、そしてお父さんのメンタルヘルス専門外来「周産期の父親の外来」で、これまで本当にたくさんの妊産婦さんやお父さんとお会いしてきました。
「周産期」という言葉は、本来妊娠22週から出生後7日未満のことを指す用語ですが、妊産婦さんのメンタルヘルスにおける「周産期」は、妊娠前〜妊娠〜出産〜育児、あるいは流産死産後など非常に長い期間を考えます。
この本を読んでくださっている方の中には、「産後 メンタル」などの言葉を検索サイトで検索したことのある方も多いのではないでしょうか。
入力すると、「産後うつ」という言葉が必ず出てきます。
こっそり一人で検索をかけて、突然「産後うつ」といった得体の知れない言葉が出てきたら、とても怖く感じると思います。
「産後うつ」とは、産後から気分の落ち込みが見られたり、不安や焦りの気持ちなどが出現したりして、そのつらく苦しい状態が何ヶ月も続くことを指します。
みなさんの中には、産後うつは「突然なるかもしれない、なったらただちにお薬が必要な状態」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
確かにお薬の治療が必要な「産後うつ」の方はいらっしゃいますが、大切なのはそうならないようにできるだけ予防することです。
外来で「産後うつ」となった方々のお話に丁寧に耳をかたむけてみると、それぞれの妊娠中のエピソードを語っていただけます。
「妊娠がわかったときはとても嬉しかったけれど、実はその直後からずっと出産がものすごく怖かった。だけどまわりはみんな、赤ちゃんを楽しみにしていた」
「死産後の次の妊娠、胎動が少ないとまた死産になってしまうのではないかと緊張していた」
「出産が近づいてきて、急に自身の親との関わりにおける辛い過去を思い出すようになった」など……。
これらのエピソードに共通していることがあるとすれば、「妊娠中にそのこころのつらさを外部に相談しにくかった」ということです。
妊産婦さんが産後うつにならないようにできる限り予防したい。また産後うつになってしまった方の重症化をできる限り防ぎたい。また、妊産婦さんのまわりの方が、少しでも妊産婦さんのこころのつらさを聴けるように。
今回これまでの「周産期のこころの外来」、「周産期の父親の外来」の経験を、書籍という形でまとめました。
『さよなら、産後うつ』というタイトルは、私の活動を支える、「産後うつになる妊産婦さんを一人でも減らしたい」という強い想いを表したものです。
実際に産後うつで苦しんでおられる方々だけではなく、これから妊娠・出産をされる方々、あるいはそのまわりの方々に向けてこの本を書かせていただきました。
さまざまな方にこの本をお読みいただき、その結果、産後うつになる妊産婦さんを一人でも減らすことができたらと心から願っております。
村上寛『さよなら、産後うつ』(晶文社)
目次は下へ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
【目次より】
1 妊娠中のこころのこと
◆急な入院になったら
◆飲酒・喫煙、やめるのがつらい
◆二人目以降の妊娠
◆おなかの赤ちゃんを失うということ
◆妊産婦さんへかける言葉
[コラム]長女の育児に関わらなかった私
2 出産後のこころのこと
◆赤ちゃんがかわいいと思えない
◆産休・育休と仕事
◆産後の「ガルガル期」、それ本当?
◆保育園問題、3歳児神話
◆SNSとどう付き合う?
◆赤ちゃんと離れてもいいんです
◆とにかく眠れない
[コラム]”周産期のこころ”の最強チーム
3 夫婦のこころのこと
◆父親としての自覚
◆里帰り出産はするべき?
◆父親の育児休業
◆父親の産後うつ
◆妊娠をきっかけとした結婚
◆流産・死産を経験した父親のみなさんへ
[コラム]松本地域のみなさんとともに