読書メモ『「家族の幸せ」の経済学』
何度か自分の記事でも紹介させていただいている本である(文末参照)。
『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』
経済学というとお金にまつわる学問だから、結婚、出産、子育てはもとより、「家族の幸せ」などとは関係ないのではないかと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。経済学は人々がなぜ・どのように意思決定し、行動に移すのかについて考える学問ですから、そこで得られた知識を活かすことで、家族の幸せにより近づくことができるのです。
経済学を始めとしたさまざまな科学的研究の成果を元に「家族の幸せ」を追求する一冊。結婚や子育てにまつわる根拠のない口コミ、そして疑うことすら許されない雰囲気のあった神話の数々を信頼性のあるデータで打ち崩し、家族がよりよく生きていく方法を提示してくれる。
新書大賞2020にてTOP5入りしたことでも有名な本書。「経済学」と聞くと難解なイメージをもってしまうかもしれないが、伝えたいことはシンプルであるし、その多くは直感的に理解できる話である。
ざっと内容に触れておこう。
第1章では家族の前提として結婚を取り上げている。マッチングサイトのデータ分析から人々が結婚相手に求めるもの(異性にモテる要素)を明らかにしたり、カップルがどのようなきっかけで出会っているかなどを解説している。婚活に関心の強い人に特に勧めたい内容と言えるだろう。
第2章「赤ちゃんの経済学」では赤ちゃんにまつわるテーマを3つ扱っている。
・赤ちゃんの出生体重はその後の人生にどのようにかかわるか
・帝王切開で生まれたことは子の健康を左右するか
・母乳育児は赤ちゃんの健康に好ましい影響を与えるのか
これらの神話は子育て世代を苦しめかねないが、実際これらは「神話」なのだろうか? 著者の論運びは丁寧であり、子育て世代をいたわってあげたいと思わせてくれる章でもある。
第3章では育児休業について扱っている。ヨーロッパの育休先進国の育児休業制度も参考にして母親と子供への影響を見ていく。ここで特に印象に残っているのは「育児は必ずしも母親がしなければいけないわけではない」という著者の結論だろうか。保育士に頼むことも子供の発達にとって有益とのことで、自分でずっと子供の面倒を見ていられないからと母親が気を病む必要はないと改めて教えてくれる。
第4章では男性の育児参加について。男性の育児休業取得はなぜ進まないのか? そして男性の育休の取得のメリットとデメリットとはなんなのだろうか。北欧の国の父親の育休取得率が70〜80パーセントという驚きのデータから、なぜそのような高い取得率が実現したのかの部分に驚かされる。
第5章では保育園での幼児教育が子供に与える影響を調べている。シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン氏の調査が本章のキーとなっており、幼児教育の効果について詳しく解説される。幼児教育は子供だけでなく母親にもよい影響を与え、家族の幸せに繋がっている。保育士たちの働きがどれだけ大事かも同時に教えてくれていると言えるだろう。
第6章は離婚を取り扱う。家族の幸せのために「離婚する」という選択も当然あり得るわけだが、離婚やその制度が変わることにはどのような効果があるのかを明らかにしていく。
参考データが外国のそればかりで「日本のものはないの?」と思っていたが、著者曰く日本のものはデータが不足していて使用が難しいのだという。
個人的に気になったのはやはり第1章と第6章である。
第1章は結婚相手に求めるものが書かれていて、恋愛にまつわる記事ばかり書いてきた私は読む前から注目していた。似たもの同士が結婚しやすいという部分を見て、昔読んだ『合コンの社会学』で「合コンに集まるメンバーが同じ階層で固まりやすい」という箇所を思い出した。これも似たような理由ではあるまいか。
結婚市場で好かれる要素というのはアクチュアルなテーマであるし、やはり気になる人は多いはずである。
また第6章の離婚の研究は個人的に考えたことがなかったためその視点には思わず唸ってしまった。結婚するための方法やメリットを紹介する書籍は(アプローチ手法は違っても)多々あれど、離婚の効果を経済学的に説明するという試みはなかなかないはずである。この章は本作を語る上で特に欠かせないと私は思っている。
本書の内容をそのまま全部真似することはなかなかできないだろうが、これらの知見をもとにすることで家族が少しでも幸せになっていくことはできるはずである。
また子育て世代が大変なことはみんな知っているが、だからと言って周囲が具体的になにかしてあげられることは少ないかもしれない。しかし偏見を排し、かれらのことを少しだけでも理解しようとする人が増えればもっと世の中は生きやすくなっていくはずだ。そんな前向きなメッセージも随所に組み込まれているのが本書の魅力のひとつと言えようか。
他にも海外の結婚・子育て事情も知ることができるおすすめの一冊である。
※下のリンクは本書の第1章で紹介されている結婚にまつわる調査をもとに書いたもの。
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