2022年5月21日、東京ドーム
枕元のスマートフォンに手を伸ばし時間を確認すると12時過ぎ。
確か10時頃に一旦目が覚めたんだけど二度寝しちまったんだ。
土曜の惰眠は人生何度目だろう。
眠りこけてる間に街は動き出すし、遠い国では争いがまだ続いている。
それでも五月の軽やかな陽気は心に穏やかさをもたらす。
若い頃は人との約束を蹴って眠り腐っていたことも多々あったけど、
この五月の気候は「動きださなきゃ人生もったいないぜ」とおれを優しく諭す。
更に動かなきゃいけない理由があった。
今日はラルクのライブだ。
2020年に開催された8年振りとなるツアー”ARENA TOUR MMXX”はコロナ影響により後半開催のスケジュールがすべて中止となった。
運よく中止前の2020年2月8日のさいたまスーパーアリーナでの公演を観ることができたがこのツアーは非常にバンドの演奏熱量とラルクの持つ”ロックバンド”感が色濃くでたコアファンには堪らない内容だった。
ラルクが近年5年おきに開催するアニバーサリーライブは所謂結成周年記念コンサートの意味合いが強いためセットリストがどうしてもシングルヒット曲が網羅されてしまい、ただでさえ活動が牛歩なラルクはライブ一本が希少なため一部のファンはビギナーサービスすぎるセットリストを嫌う傾向にある。御多分に漏れずおれもそのひとりだ。
と、言っても2011年5月開催の20周年記念に行われた味の素スタジアムでの2daysは2日間セットリスト被りなし。デビューからの軌跡を辿る曲群と演出、そして初日の大雨から2日目の快晴も込みでラルクが掴んできた実力と運が総動員されたようなアニバーサリーだった。
そして、5年後に迎えた25周年ライブ。2017年4月東京ドーム2days。
本来なら25周年は2016年に当たるところだがが2017年に行われた。
結果的にこのライブをもって所属事務所によるライブ企画制作は最後となり、以後のライブ制作は外部イベントプロモーターが着任しスタッフは一新する。
内部の事情はわからないがポジティブに受け止めることができないのは容易である。
実際、この25周年ライブは突貫工事のような出来栄えだった。
リーダーのてっちゃんは「25周年ライブはやる予定はなかった」とオフィシャルで発言している。
20周年の内容を期待して当日ドームに向かったけどベスト盤みたいなセットリスト、明らかに温度感がおかしいメンバー、お子様ランチみたいな演出、最後の曲が終わる前に会場を後にした。
そして本日、2022年5月21日はL'Arc〜en〜Cielの結成30周年記念コンサート。
おれは着替えて唯一持ってるグッズ「らるくつした」を履いて家を出た。
総武線に乗る。
土曜16時30分の総武線千葉行き。
乗客数は本当にここは都心かと思うほどにまばら。
皆どこに向かうんだろうな。
なんてぼんやり思いながら水道橋に着いて改札を抜けるとグッズに身を固めた老若男女が愚連隊の如くひしめき合っている。
この日のために有給を取ったり新幹線や飛行機で来た人も大勢いるだろう。
日本各地から共通の期待を持った人々が4万人同じ会場で時を過ごす。
おれみたいにジャージとプロレスラー"エル・デスペラード"のTシャツを着た人は流石に見かけないけど、ここはプロレスの聖地でもあるからあながち間違ってはいないはずだぜ。
入場ゲートに並ぶ長蛇の列に揺られ電子チケットをかざし受付のお姉さんに身分証を提示していざ会場内へ。
席に着くと右隣はグッズに身を包んでいない30代と思われる男性二人組。
ほどなくして左側の席には坊主頭で黒ポロシャツを着たおっさんが着席した。一瞬、ここは場外馬券場だろうかと錯覚したが。
周りを見渡すと開演前の高揚を抑えきれない女子たち色めく歓声が響き渡っている。正直、隣にギャルがきたらどうしようかとドキドキしていたが、おれの座席ブロックは中年男性ラルクファンのエアポケットだ。
心の中で「大丈夫、おれたちはファミリーだ」と両隣の男たちに声をかけると照明が暗転し抑えきれない観客のどよめきがドームを震わせた。
モニターには歴代MVをカットアップして繋げた煽り映像が流れ出す。
夢中で早く駆け抜けてきたロックバンドが紡いだヒストリー。
この30年目の現在地点を示すべく始まったオープニングナンバーは...
1.「ミライ」
2021年、コロナ禍で疲弊した日本に否世界に叩きつけたラルクからの未来予想図。時代性もありシンボリックな楽曲であるがラルクの歴史からするとラルクっぽくないアレンジになっていて、ここに穏やかなチャレンジを感じる。
かつて甲本ヒロトは「未来は僕等の手の中」と歌ったが、hydeは「未来はいつも僕等次第」と歌う。
ジャニーズポップス及びロックで天文学的数値で使用されてきたであろう「未来」という言葉は今後どんな更新を続けるだろう。
2.「READY STEADY GO」
2曲目は近年のライブでは定位置であった"Caress of Venus"と予想していたがまさかの"RSG"。本曲もライブ定番曲だが終盤に配置さえれることが多いため意外だったが楽曲の機能性が高いため十分2曲目でもロケットダッシュを切ることができる。
ちなみにドームの席は隣との距離が近いため派手にノっちゃうと接触し迷惑をかけるかもしれないので、おれは腕を組んで上半身を揺らし足元でリズムを取る拘束クラブスタイルで楽しんでいる。
3.「New World」
本曲リリース時はラルクを聴いていなかったが、改めて聴くと高速8ビートにブレイクビーツがアクセントで加わる異端なギターロックナンバー。
歌詞は月並みな加減があるがそこは作詞作曲:yukihiroなのでご愛嬌。
この前半戦、一気に畳み掛ける気概を察知し、おれたちファミリーの情熱は静かに火が灯る。
4.「SEVENTH HEAVEN」
本曲もリリース時はリアルタイムで聴いていないがここ数年のライブで披露される度に好きになった。
一歩踏み違えたらネタ曲になりそうな80年代オマージュのユーロビート風ダンスナンバーだが、この手の曲を作らせるとhydeの本領発揮。
5.「Lies and Truth」
所謂、ラルク節を決定付けたであろう1996年発売6枚目のシングル。
当時はこの曲のリリース後を起点に本格的にビジュアル系のブームが音楽メディアを席巻していったが正直ほとんどのバンドがほどなく衰退の一途を辿る。なぜなら、ラルクはそもそもビジュアル系ではないという点と常に進化と変化を欲する真っ当なロックバンド。ビジュアル系ではなくて副産物的にビジュアルが良すぎるだけなのだ。
6.「叙情詩」
ken作曲群において屈指の美しさと完成度を誇る名バラード。
ステージではこの時代にタバコを吹かしながら演奏しMCでは中学生でも言わないような下ネタで会場に冷笑を誘うkenちゃんだけど、メジャー音楽業界の中でここまで切なさなと色気の調和が取れた曲を書ける男はいない。
MVも本当に素晴らしい。
7.「XXX」
前編のコラムにも書いたおれをラルクに引き戻した罪深き名曲。
"SEVENTH HEAVEN"と同じくhydeによるペンだがこの人はお題を元に曲を書かせたら一品級だと思う。未聴の方は是非聴いてほしい。
なお、曲終わりのhydeのカメラ目線は指定天然記念物。
8.「fate」
この曲は生涯でこれからも何度も聴き続けるだろう。
両隣のファミリーからも一音も聴き逃すまいという集中を感じる。
そうだよな、おれたちはいつだって"凍る針葉樹の間を深く駆け抜ける運命"だよな。
9.「finale」
リリースは2000年1月。ノストラダムスはホラ吹きってことがわかってすぐのこと。当時、化粧品のCMだった"NEO UNIVERSE"との両A面シングル。
同じクラスの大谷さんとどっちの曲が好きかなんて話をしたっけな。
思春期ど真ん中でうまく話せなかったけど本当はもっと音楽の話がしたかったんだ、22年振りに言えるよ。
今じゃ大谷さんは立派に母ちゃんやってるらしいよ。
大谷さん、もう会うこともないだろうけどおれはいま東京ドームであんたが好きだったあの暗い曲を聴けたよ。
10.「MY HEART DRAWS A DREAM」
うっかり感傷に浸るなんてラルクはそう簡単に許さない。
正義って言葉の意味が何だかよくわかんなくなったこの頃だけど、おれはこの歌が正義として成立する世の中であってほしい。
夢、自由、笑顔、未来、生きてくためにはどれも必要不可欠だろ?
11.「Driver's High」
説明不要のお祭りナンバー。もともとはアルバム曲からのシングルカットだけどそれがヒットしちゃってたんだから凄えよな。
ちなみにこのライブ鉄板曲だけど、なぜかライブの度にhydeが歌詞を飛ばしたり間違えたりが頻繁に起きていた。今日は無事完走。
ちなみに個人的にウケたのがいつかのライブで歌締めの「来世でまた会おう!」を「来世でまた会いましょう!」に変えたとき。
12.「Pretty girl」
おそらくラルクでいちばんアホっぽい曲。その辺のバンドがやったらまあまあ痛い感じになるけどそこがしっかりカッコつけられるのがラルクの基礎ポテンシャルが異常値を示していることがよくわかる。
13.「STAY AWAY」
こちらも大ヒット曲だけど、hyde作詞の雰囲気が変わったのもこの頃か。
馬車馬のごとく働いてた1998年〜1999年のストレスがぶっ放されたようなリリック。それでも売れたからある意味皮肉ではあるんだけどね。
14.「HONEY」
ライブも後半突入。ヒット曲の叩きつけに乱舞する女子たちに囲まれたいが両隣の男は微動だにせず。
これも有名すぎてネタ曲化してるけど、日本のバンドでグランジオマージュでミリオン売れたバンドなんて他にいないんだよな。
改めて、この曲のベースはバカです。指8本ないと弾けないって。
15.「いばらの涙」
the bends期のradioheadを彷彿とさせるヘビーチューン。
ライブによってhydeがギター弾いたり弾かなかったりする。
後半重い曲をポジショニングすることで前後の流れに緩急がつく。
16.「Shout at the Devil」
"息の根止めておけば良かったなんて思うだろう あの朝に"
という、今すぐおれで良ければ相談に乗りたくなる歌詞から始まる曲。
音源も一発録りで勢いあるけどやっぱりライブ映えしますね。
終盤yukihiroさんの雷神様のような太鼓叩きは痺れる。
17.「Sell my soul」
中3当時、「ark」と「ray」がリリースされた頃クラスで特に人気だったのが「ray」収録のこの曲。
この曲から会場後方に設置されたサブステージにて演奏。
いやー、hydeからタイトルがアナウンスされたときの湧き方が凄かった。
一時期のhyde曲はジャズロックのテイストが押し出されていて、その後のソロへの布石になっていたのかも。
18.「LOST HEAVEN」
個人的に印象が薄い。
しかし、左のファミリーが静かにガッツポーズを繰り出したことは見逃さなかった。好きなんだね。
19.「星空」
前の曲と同じくアルバム"AWAKE"からのナンバー。
AWAKEあんまり思い入れないから乗れず。
20.「FOREVER」
現時点での最新シングル。
この曲の前に観客にウェーブを求めるんだけど4回くらい求められて帰りたくなるが、小さく前ならえみたいに手を上げるファミリーを見捨てられず。
イントロからてっちゃんだなーって瞬時にわかる。
サビで前蹴りのポーズ決めるhydeが最高。
21.「予感」
最新曲からインディ時代のレア曲をさらっとやる憎たらしさ。
難波ロケッツから東京ドームで演奏することを当時のメンバーに言ったらどんな顔するんだろうな。
22.「Blurry Eyes」
この曲についてはコラム前編にて思い切り語ったので割愛。
こんどみんなでカラオケで歌おうぜ。
23.「GOOD LUCK MY WAY」
東日本大震災後の6月にリリース。
2022年、あの頃と違うメッセージを持つことになった曲。
全体の疾走感に耳を奪われるが、hydeの歌い手としての"伝える意思"がこの曲以降強くなったように思う。
24.「虹」
いよいよラスト。まあ虹だよね。
つぎラルクいつ観れるかわかんない寂しさと絶対また観れる未来があるからおれもなんとかやっていくよ。
閉演後、外に出るとぱらぱらと雨が降り出していた。
夜の街にもネオンの虹は架かる。
駅は混みそうだからこの前知った美味い中華屋で軽く飲んで帰ろう。
両隣のあの男たちも誘えばよかったな。
画像は「らるくつした」
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