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最近読んだ本(2023年前半、金融編

はじめに

以前、「投資・決済システム素人のエンジニアがキャッチアップするために読んだ本(決済編」という記事を書いた。今回はその金融編。

自分はカンムというFintechの会社にソフトウェアエンジニアとして属しており、「Pool」というクレジットカード×投資のサービスを開発している
これは、投資のリターン(税引き前予定利回り1%〜)とカード決済のキャッシュバック(決済金額の1%)により、日々の支払いをキャッシュレスで行うと同時に資産形成も可能というサービス。手前味噌だが、他に類を見ないとても面白いプロダクトだと思っているし、一番のファンでもある。

半年前にFintechの業界に飛び込んでから、プロダクト開発に必要な最低限の決済知識はある程度身についてきた。が、携わっているプロダクトはクレジットカードと投資機能が組み合わさったサービス。決済領域だけでなく、投資、ひいては金融業界についてまともな知識がなければ、ユーザーが満足するような投資体験は提供できない。さらに、第二種金融商品取引業をはじめとした法律の縛りを理解していないと、知らぬ間に法的リスクに抵触しかねない。
幸いなことに、メンバーは金融ドメインのエキスパートばかり。自分のわからない部分は安心してお任せしているのだが、カンムという優秀なメンバーがゾロゾロいる中で、いつまで経ってもおんぶに抱っこでは良くない。足を引っ張るのではなく、肩を並べていきたい。

と、ここまで意識が高いことを書いてみたのだが、シンプルに金融業界が面白いのと、その金融業界でプレイヤーとして面白い仕事をしていきたいのがモチベーションとしてある。

ここで筆者のステータスを述べておく。自分は半年前までは金融なんて一ミリも興味がなかった。そもそも金融とは何か、何のためにあるのかといった根本的な問いに対する明確な答えは持っていなかったし、投資をまともにしたことがなかったので、株式・債券の違いも明確に説明できない。デリバティブ取引?なにそれ?状態。
そんなとき、「解像度を上げる」(これはとても良い本)という本に、業界の構造やトレンドを深掘りする手取り早い方法が紹介されていた。大きめの書店に行って、関連する業界の本を端から端まで買ってみるという方法。なるほどやってみるかと思ったのだが、闇雲に買うよりも一旦とりあえず社内の人がおすすめしている本を全部買って、片っ端から読んでいくことにした。社内、金融・決済のプロかつマジで優秀な人が多いので、本屋で片っ端から買うよりも良い本に出会う確率が高くなると思って。

ということで、ここから紹介する本は一通り読んだ本の中から、自分的に良かった本をいくつかピックアップしたものである。まだ片っ端から読んでいる旅の途中だけど、頭の整理を兼ねてここで一旦まとめてみる。

紹介する本は5冊


お金の向こうに人がいる

お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門
金融というより経済の入門書。そもそもの「お金」について学びたいと思って。専門用語なしで最後まで読み通せる「やさしい経済の入門書」と謳っているだけあって、かなり読みやすい。高校生の時に読みたかった。
「なぜ紙幣をコピーしてはいけないのか?」といった命題が各章に割り振られており、簡易な表現・具体的な例を用いて解説されている。各章の問いを念頭に置きつつ、答えを探すように一つずつ読み進めることで、インフレ・デフレや物価について自分の言葉で解釈して、理解するという読書体験が得られると思う。
また、この本を通して筆者は「お金」ではなく「人」中心として経済を考えることを訴えている。自分は金融業界に入って、ある程度業界を知っていくうちに、どこかお金のやり取りが数字ゲームに見えてきたりしていたのだが、そこに釘を刺された印象。定期的に摂取したい文章が散りばめられている本だった。

図解即戦力 金融のしくみがこれ1冊でしっかりわかる教科書

図解即戦力 金融のしくみがこれ1冊でしっかりわかる教科書
これ一冊でしっかりわかる教科書シリーズ。金融業界に足を突っ込む/突っ込まないに関わらず、「市場と金利」「株・投資信託の仕組み」「為替とは何か」「債券とは何か」について学べる教材としてベストバイだと思う。
各トピックの金融用語を網羅しており、分野ごとのポイントもわかりやすく整理されている。たとえば、株や債券から派生した金融商品である「デリバティブ取引」であれば、さらに「先物取引」「オプション取引」「スワップ取引」と項分けされているといった感じ。それぞれ金融商品はどのような特徴があって何が違うのか、横にならべての比較が簡単になっている。

この一冊を読むと、金融ニュースを一通り目を通すことはできるようになるとは思うが、自分なりの考えを持てるようになれるかというと難しい。この本は金融用語を必要十分な解説でまとめた教科書的な立ち位置なので、ここから個々の分野を掘り下げていくための出発点となる一冊だと思う。

図解即戦力 金融業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書

図解即戦力 金融業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書
これ一冊でしっかりわかる教科書シリーズ第二弾。前述した「金融の仕組みがわかる」本と一部重なる内容はありつつ、銀行、証券業者、保険業者、投資銀行、ノンバンクetc…の役割や収益のしくみについて、より網羅的に解説されている。
第一章の「金融業界で今起こっていること」で、現在の金融業界が構造的に収益が上がらない傾向にあることについての説明が目を惹く。コストカットと収益最適化を見込み、地銀の再編が積極的に行われているのだが、単独トップシェア100%になったとしても収益不採算になってしまう都道府県が全体の50%に上るという。最近、日本の銀行がアジア進出を図っている理由の一つにはこれがあったのか、と読んでいて思わず膝を打った。
時事ニュースの背景を考えられる下地を養うという点でも、この本はおすすめ。

サラ金の歴史

サラ金の歴史 消費者金融と日本社会
銀行による企業への融資ともう一つの貸金の世界である、個人への小口の借り入れを提供する消費者金融について、その成り立ちと成長・事件・規制の歴史についてまとめられた本。
効果的な利益追従と貸し倒れのリスク防止のため、支払い能力の見極めや債権回収の方法を進化させていった貸金業者と、消費者を守るために業界の健全化に取り組んできた官民の努力が、時に生々しい当時の資料を絡めた豊富な参考文献とともに解説されている。

「サラ金」という字面を見ると、大規模な不祥事や事件が過去にあった背景から、どこかダークな印象を持っていた。しかし。この本は貸金業について筆者の徹底的な事実に基づく極めて冷静な目線で論調しており、読者が金融に携わる身・消費者の身にかかわらずフラットに読み進めることができる。

また、ジェンダーと家計の形態の変化と、貸金業の成長の相互作用がとても興味深い。筆者の整理仕方が上手いのもあるが、こんなにも密接に紐づいているのかと納得させられる。章・項構成からもその雰囲気は感じ取れると思うので、ぶら下げておく(以下は、目次から独断でいくつか抜粋したもの)。

  • 1. 「素人高利貸」の時代:戦前期

    • サラリーマンと素人高利貸

  • 2. 質屋・月賦から団地金融へ:1950~60年代

    • 団地金融の誕生と創業者

    • 団地金融の限界の消滅

  • 3. サラリーマン金融と「前向き」の資金需要:高度経済成長期

    • 金融技術の革新と利用者の性格

    • 夫婦間のせめぎ合いとサラ金

  • 4. 低成長期と「後ろ向き」の資金需要:1970~80年代

    • 資金調達環境の好転と審査基準の緩和ー女性・下層の金融的包摂

    • 第一次サラ金パニックと貸金業規制

  • 5. サラ金で借りる人・働く人―サラ金パニックから冬の時代へ

    • 感情労働と債権回収の金融技術

    • 貸金業規制法の制定と「冬の時代」

  • 6. 長期不況下での成長と挫折―バブル期~2010年代

物価とは何か

物価とは何か
周りの人が結構読んでいたので手に取った。この本を読むと、以下のような疑問が説明できるようになる。

  • 「なぜ企業は値上げをせず、商品を小さくするのか?」

  • 「なぜ日本銀行(黒田日銀)は物価安定の目標として2%を掲げているのか?」

  • 「なぜ現実は遅々として2%の物価安定が実現しないのか?」

  • 「企業が値上げ・値下げをする判断はどのようなメカニズムになっているのか?」

中でも、インフレ・デフレの仕組みを説明する理論として取り上げられている「自己実現的インフレ・デフレ」についての考察が面白い。
曰く、

1. 物価がX%で上がる/下がると皆が予想する
2. その予想を踏まえて企業や店舗が値札を書き換える
3. その結果実際にその率で物価が上昇/下降する

というもの。
これを読んで、「最初に予想ありきなんて直感と反している」「予想はどこから来るんだ」と疑問を感じた方はぜひ本を手に取ってみてほしい。フィッシャー効果やケインズの流動性選好説などおなじみの理論を紹介しつつ、実際のデータも交えながら順を追って丁寧に説明してくれる。知的好奇心がくすぐられるポイントが随所にあって、読んでて飽きない。

一通り読み終えて、インフレ/デフレと人々の予想、金利・金融政策の相互作用がある程度理解できたけど、なんて複雑なんだろうと感じた。また、今まで「口先介入」と言われる行為は文字面でしか捉えていなかったのだが、人々の予想ありきで物価が上下するという理論に基づくと、意味のある行為なんだなと。

この本を読んでから、SNSでたまに見かける、何かあった際に必要以上にインフレやデフレと結びつけて騒ぎ立てている人への胡散くささが強まったように感じる。物価や金利が上がる/下がるに関わらず、デリバティブをはじめとして、お金が増える手段は色々とあるわけで。その人の発言には、単なる心境の吐露だけでなく、何かしらの誘導やポジション取りの真意が含まれていたりする場合もある。ただ、その人たちの発言も「自己実現的インフレ/デフレ」の一部として影響を与えてしまっているわけで。SNSが発達した現代において、このようなカオスな情勢において、金融政策の舵取りをしていくのは大変だなぁと素人ながらに思ったりした。

おわりに

まだまだほんの一部。読書の旅は長い。だけど結局、体系的な知識を摂取するには本が一番早い気がする。
ChatGPTが必要な時に必要な知識を教えてくれるようになり、読書をしなくても知識を得られる時代なったが、それでも本を読むことはやめられない。


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