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ついに『週刊ニッポンの浮世絵100』が刊行開始!見どころをまとめてみた!

こんにちは。和樂webにも寄稿している、アートライターの「かるび」(@karub_imalive)と申します!

さて、今回は文化事業室が2020年の春から総力を挙げて取り組んでいるウィークリーブック『週刊ニッポンの浮世絵100』(9月17日創刊)について、先日記者発表会にてその概要が発表されました。

会場内で、第1号の見本誌や初回特典、オリジナルグッズなどじっくり見ることができました。本稿では、この取材成果を元にアートライターの目線で『週刊ニッポンの浮世絵100』の魅力や見どころを詳しく書いてみたいと思います!

分冊雑誌の分野で存在感を発揮する小学館

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本が売れない時代になったと言われて久しいですよね。分冊雑誌の世界でもその傾向はあるようで、書店に行ってもかつてほど分冊雑誌コーナーの存在感を感じなくなりました。

そんな中、美術分野の分冊雑誌でちゃんと頑張ってくれているのが小学館・文化事業室なのです。

ニッポンの国宝

たとえば、2017~2018年にかけては、「国宝」をテーマとしたウィークリーブック『週刊ニッポンの国宝100』を刊行。

そこから約2年のブランクを経て、満を持して刊行が始まる浮世絵の新しいウィークリーブックのポスターが、こちらになります。

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その名も『週刊ニッポンの浮世絵100』!ショッキングピンクで彩られたポスターは、インパクト絶大。「江戸時代のポップ・アート」とも異名を取る浮世絵の庶民性をイメージさせる、ビビッドな仕上がりとなっています。

では早速第1号の表紙を見てみましょう。

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こちらも日の丸を想起させる、「赤」をベースとしたビビッドな仕上がり!

でも、よく見るとなんだか既視感が・・・!

・・・。

比較

そう、雑誌のタイトルや装丁が『週刊ニッポンの国宝100』と瓜二つなのであります(笑)

心の声:(まさか、て、手抜き・・・?!)

・・・。
・・・・・・。

いやいや、これは決して手抜きではないはず。

前回、このフォーマットで非常に売れ行きもよく、予想以上の成果を挙げたこともあり、良い意味で「キープコンセプト」を目指したということなのでしょう。むしろ、小学館・文化事業室の美術系ウィークリーブックはこのフォーマットでブランド化させていくんだ!という強い決意を感じました。

『週刊ニッポンの浮世絵100』の3つの注目点とは?

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さてそんな『週刊ニッポンの浮世絵100』ですが、早速2度読み返して見ましたが、内容が本当に素晴らしかった!期待していた以上のクオリティとなっていました。

では、具体的にはどのあたりが見どころなのでしょうか?早速、本誌の注目点を探っていくと致しましょう。

注目点1:オールカラーの威力はさすが!ビジュアルの美しさに刮目!

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まず、ザーッと見ていって目に飛び込んでくるのは、図版の美しさです。

僕は、アート系ライターとして現在ゴハンを食べていますが、この道に進んでやっと4年半。まだまだ初心者だという自覚があります。なので、美術館や展覧会の主催者にインタビューをする時は、臆面もなく鑑賞方法のアドバイスを求めます(笑)。

具体的にはこんな質問をするようにしています。

「美術鑑賞がもっと上手になるにはどうしたらいいですか?」
「アートの審美眼を養うにはどうしたらいいですか?」

そんな時、アートの達人が口を揃えてアドバイスしてくれるのが

「とにかく良い作品を見なさい」

ということ。

浮世絵の場合は、「良い作品」の定義に「状態」の良し悪しも加味されます。なぜなら、浮世絵は木版画作品なので、同じ作品が複数現存するからです。したがって、浮世絵を鑑賞する場合は、「できるだけ良い状態の作品を見なさい」というアドバイスも多くいただきます。

では、なぜできるだけ良い作品を見なければならないのでしょうか。

それは、今までにその人が見た一番良い作品の記憶の蓄積が、その人の「アートを見る眼」の基準を作るからなんです。普段から最良の作品を見ておけば、何が良い作品で、何が悪い作品かすぐに判断できるようになりますよね。自分の記憶のデータベースを常に良質な状態に保つことが、鑑賞のための審美眼を鍛えていくのですね。

これって、アートの書籍を選ぶときにも全く同じことが言えるはずですよね。

つまり、何か一つのアート分野を学ぼうと思って美術書籍を買おうとする時、そこに掲載されているアート作品のビジュアルの出来不出来は、学びのクオリティに直結するのです。

残念ながら、印刷物は本物ではありません。ですが、本物には適わないにしても、できるだけ本物の持つ質感やオーラを誌上で極力再現するように努めているかどうか。そこが良書かどうかを見分ける一つの分かれ目だと思うんです。

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その点、小学館の文化事業室は本当に凄い。掲載作品のビジュアルのクオリティに対しては、徹底的にこだわって制作されていますから。その姿勢は、雑誌でも単行本でも変わりません。僕はもう全幅の信頼を置いています。

この『ニッポンの浮世絵100』では、特にカラー印刷のクオリティが素晴らしいです。

全ページ基本的にはオールカラー印刷なのですが、にじんだり、つぶれたりすることなく、オリジナル作品の鮮やかな色彩が違和感なく誌上で再現されているのが凄い。真っ暗な展示室では見えづらかった部位まで、クリアな画像でしっかり読み取れるので、美術館での鑑賞体験をしっかりと補完してくれるでしょう。

また、本誌は大学ノートとほぼ同じの約A4サイズ。だから、見開きで原寸大の浮世絵を再現できたり、原寸の200%など極限まで拡大した図像をゆったりした誌面で味わえるのも嬉しいです。

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だから摺師・彫師・絵師が作品制作のために繰り出している「ワザ」の痕跡もバッチリ丸裸にできますし、摺りの微妙なグラデーションや、木版の木目までばっちり見えちゃうんですよね。

注目点2:見比べて学べる!徹底比較分析が凄い!

何年も美術展に通いまくっていると、行く前から評判になりそうな展覧会とそうでない展覧会の見分けがつくようになってきます。特に、美術展ではお客さんの満足度がアップするような「鉄板」の展示方法があるんです。

それって、何だと思います?

そう、それは「比較展示」なんです。

美術鑑賞とは、つまるところ作家の個性を楽しむことに他なりません。作品同士の「差異」が明確になって、作品と作品の「違い」が腑に落ちると、一気にアート鑑賞は味わい深いものになってくるのですね。

その点、本誌はしつこいほどツボをおさえていらっしゃるようで(笑)

目次を見てみましょう。

「浮世絵くらべる大図鑑」「浮世絵世界 vs 日本」が2本ずつ。それぞれのページの小見出しを見てみると「群鶏対決」「水鳥対決」「ディテール対決4番勝負」など、対決させすぎです(笑)

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第1号の最大の注目ポイントは、誌面後半の「写楽vsバスキア対決」

えっ、モネとかゴッホじゃなくて、バスキア??!・・・って思いませんか?

「19世紀後半~20世紀初頭にかけてジャポニスム旋風を巻き起こした浮世絵は、印象派など近代西洋の巨匠達にも多大な影響を与えました。だから浮世絵と印象派は似ているんですよ」・・・みたいな話は比較的よく聞きますよね。ですが、まさかここでバスキアが登場するとは。意外すぎます。

でもよーく見比べてみると、絵がちゃんと似ているのが凄い。

確かに、彼ら2人は活躍した時代も場所も全く違っていますが、①活動期間が短い②天才肌の個性派作家③ポップカルチャーの旗手だったという点では意外なほどに共通点があるんです。

浮世絵の見方って、まだまだ新しい視点や切り口があるのですね。編集部の着眼点の鋭さに唸らされるとともに、こうした「比較分析」の面白さを実感しました。

注目点3:初心者をおいてきぼりにしない!知識ゼロでも入っていける親切設計!

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浮世絵といえば、一昔前まではどちらかといえば非常にマニアックで地味な美術分野であるというイメージがありました。美術館にいくといつもガラガラで、静まり返った展示室の中では、気難しそうなオッサンが腕組みをしながら作品の品定めをしている・・・。

しかし時代は変わりました。インバウンドの盛り上がりによる海外人気にも後押しされて、ここ10年ほどで浮世絵展の開催件数も飛躍的に増加中。

書籍はどうかといえば、やはり同様に出版点数が伸びているようです。初心者でも楽しめるようなビジュアル満載の楽しい入門書も増えてきた印象があります。

その流れに決定的なひと押しをしてくれそうなのが、今回の『週刊ニッポンの浮世絵100』です。

注目点1、2でも取り上げたように、美麗なビジュアルと既存の発想にとらわれないユニークな比較分析は、まさにこれから浮世絵を学んでいく初心者に絶好の教材になりそうです。

これらに加え、初心者にとって嬉しい点がさらにあと2つあります。

ひとつは、徹底して「よみがな」を振ってくれているということ。

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専門書を読んでいて、集中力が続かなくなってしまう意外なポイントが、「専門用語をどう読めばいいのかわからない」というつまづきなんですよね。勇気を出して読み始めたのはいいけれど、難読な業界用語だらけで、さっぱり本の中身が頭に入ってこない。あー、もうめんどくさい・・・と、気がついたら数分後には専門書を投げ出してしまっていた・・・という経験ってありませんか。

僕はしょっちゅうです。

その点、『週刊ニッポンの浮世絵100』は素晴らしい。葛飾北斎、伊藤若冲といった、かなり基本的な固有名詞でも、ちゃんと読みがながふってあります。(よく見たら、表紙ですらちゃんと読みがなが振られていますからね!!)

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だから、本書はビジュアルだけでなく、文章も安心して読み進められるのです。読みがなが完璧に整備されているおかげで、自然と絵師や作品名、浮世絵の専門用語の読み方がマスターできてしまうわけです。これは初心者にとって本当に嬉しい点です。

もう一つ注目したいのが、本書の随所に登場する「ちょっとおせっかい君」と名付けられた北斎を模したアイコンです。このキャラクターと一緒に「ちょっとおせっかいな浮世絵コラム」と名付けられたショートコラムがすごく面白い!

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第1号だけでも、実に5箇所に登場。浮世絵鑑賞のための基礎知識や小ネタを初心者に興味を持ってもらいやすいように散りばめてくれているんです。(この部分だけ拾って、Twitterに毎回投稿すれば立派なコンテンツになりそう!)

「100」という数字へのこだわり

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そういえば、この「100」ってどういう意味なんでしょうか。

『週刊ニッポンの国宝100』では全50冊が刊行され、1号につき2作品ずつ国宝を特集する(つまり50号×2=100作品の国宝を紹介する)構成になっていました。

それに対して、『週間ニッポンの浮世絵100』は全30冊です。今回「100」の意味するところは少し変則的。

50人の絵師+50作品で「100」としているのですね。

江戸時代を中心として、日本を代表する浮世絵師50人をまず誌面前半で特集し、後半部分では、絵師ではなく重要な作品単位で50作品見ていこう、ということなのです。

したがって、第1号では、浮世絵師として「葛飾北斎」が特集され、作品としては「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」(東洲斎写楽)が特集されているのですね。

でもこれはなかなかひねり出してきたな・・・と思いました。一般教養として浮世絵を掘り下げて楽しもうと思ったら、やっぱり「絵師」別で見ていくだけでなく、それと同時に有名作品も深く知りたいなと思いますからね。

浮世絵好きに絶対オススメ!まずは第1号を読んでみてください!

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いや~それにしても待ちました!『週刊ニッポンの国宝100』から約2年。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、発売タイミングが当初から約半年遅れとなった分、内容は濃く・ぎゅぎゅっと引き締まった印象。

これから30週間に渡って、浮世絵漬けの日々が続きそうでワクワクします!

僕はまず定期購読すると決めていますが、バックナンバーや電子版もしっかり用意される予定なので、好きな絵師、好きな作品の特集号から買い集めていってもいいかもしれませんね?!

・・・あっ、でも、できるだけ第1号は買っておいたほうがいいですよ!

それはなぜかというと・・・(以下、第2回へ続く)


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