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カスタマーサクセスの4つの基本戦略

概要

図1

カスタマーサクセスとして、既存の有料契約済み顧客からの収益拡大を図ることは重要なテーマです。
そのために、1組織(アカウント)契約あたりの売上額を最大化することが求められます。

この目的を達成するためには、サービスの顧客生涯価値(LTV)に直接影響を与える4つの戦略、すなわちエクスパンション、アップセル、チャーン、クロスセルについて考える必要があります。

カスタマーサクセスの戦略には、オンボーディングや顧客満足度向上などさまざまな要素が含まれています。
その中で、「売上」という言葉を使用することに対して違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、その背景について後述で説明します。

背景:カスタマーサクセスのセールス化

直近のトレンドとして、カスタマーサクセスのセールス化が話題に上がっています。
実際、カスタマーサクセス業界で著名な方々も意見を述べており、今後のカスタマーサクセスはオンボーディングだけでなく、売上についても戦略的に考えていく必要があると個人的にも感じています。

参考記事
合同会社sasketの山田ひさのりさん、株式会社LayerXの梶原 将翔さんのnoteから引用

今後のカスタマーサクセスのキャリアに対する私の主張をふんわり述べておくと、カスタマーサクセスはよりセールス化していくと思います。それも、従来からある、皆が想起する「The セールス」ではなく、顧客の課題を解決するパートナーとしてのセールスに近づいていくでしょう。

山田ひさのりさん:カスタマーサクセスの一部はBPO化していくという話

いずれにせよ顧客満足を追求するのではなく、顧客が求める成果をプロダクトと商談を通じて提供するセールス活動の側面が強まっていきます。CSMの多くがここに属することになり、セールス未経験の方はセールス力をつけることが求められます。

梶原 将翔さん:これからのカスタマーサクセス

Chatworkを例とした場合

冒頭の図1をもう少し具体化して、Chatworkを例した場合は図2になります。
Service1がChatworkになり、Service2以降がChatwork アシスタントChatwork 勤怠管理などのサービスになります。

図2

Service1にあたるChatworkの利用金額は、
図2のとおり、利用人数 × 顧客単価 (× 解約発生(=0))で表されます。
いくら利用人数や顧客単価を積み上げても、解約が発生すれば、
一瞬で1組織(アカウント)契約あたりの売上額は0になってしまいます。

Chatworkを例とした場合、
カスタマーサクセスの役割は、有料契約済みの顧客に対して、
利用人数を拡大(エクスパンション)と、
顧客単価を上位のプランで向上(アップセル)を促し、
一方で、顧客の解約(チャーン)などを最小限に抑えながらも、
Chatworkアシスタントなどの他サービスの営業活動(クロスセル)をする必要があります。

各戦略カテゴリについては下記で解説します。

エクスパンション

Service1内で既存顧客からの収益を拡大する1つの方法として、
エクスパンション、利用人数(有料ユーザー数)の拡大です。

例として、現職のChatworkでは、カスタマーサクセスの重要な目標として、追加ライセンス数(利用人数)の拡大を追求しております。

追加ライセンス数の拡大は大きく3つのパターンで行われています。この拡大の余地があるカスタマーサクセスの商談を、有効商談数としてKPIに設定し、モニタリングしています。

図3

Chatworkは有料アカウントと無料アカウントを同時に併用できるため、同じ組織内でも有料ユーザーと無料ユーザーが混在するケースが多く見られます。

カスタマーサクセスは、こういった会社の担当者と話し合い、利用用途・業務目的・活用度に応じて無料ユーザーを有料プランに変更することを勧める場合があります。
これにより、結果的に利用人数の拡大につながるケースもあります。

例えば、一つの部署でしっかりとChatworkを活用できる環境を支援し、全社導入の土台や事例作りを行います。
図3のように、部署単位から全社、さらにはグループ全体へと組織単位が大きくなるほど、獲得できる利用人数や売上も増えますが、カスタマーサクセスとしての業務難易度も比例して上がります。

アップセル

Service1内で既存顧客からの収益を拡大する最後の方法は
アップセルによる、顧客単価(1組織契約あたりのARPPU)の向上です。

多くのSaaSでは、設定価格の見直しが行われており、カスタマーサクセスが介在せずに全顧客を対象にほぼ一律で顧客単価を値上げするケースがあります。

一方で、カスタマーサクセスが顧客単価を向上させる方法についてご紹介します。例として、Chatworkでは大きく2種類の有料プラン、ビジネスプランとエンタープライズプランがあります。

Chatworkの料金プラン(2024/05/12時点)

多くのケースでは、カスタマーサクセスは顧客のニーズに応じてビジネスプランから上位のエンタープライズプランを勧めることがあり、結果的に顧客単価の向上につながります。

アップセルには、現契約プランより上位の有料プランに移行する場合や、有料オプションの追加受注などが含まれます。

Chatworkでは、アップセルを効率よく伸ばす方法の一つとして、特定のヘルプページに右下のポップアップを設置し、アップセルリードを獲得する導線を設けています。

例:Chatworkのヘルプページ

余談:エクスパンションとアップセルの区別

エクスパンション(=アップセル+クロスセル)のような区分けもありますが、
Chatworkのように有料契約後も利用人数を伸ばしていく必要のあるサービスは,図1のように分ける場合も適切だと思います。
各サービスやプライシングの形態に応じて、区別の有無を選択するのが良いでしょう。

エクスパンション、アップセルを定義上分けたほうが良い場合は、目的とするリードの獲得する種類が異なるときだと考えられます。

利用人数を増やすには、ターゲット顧客の拡大余地(=従業員数 ー 現有料ユーザー数)をCRMやSFAに項目を実装し、拡大余地に応じてエクスパンションリード化(CS対応可能リード)する必要があります。

顧客単価の向上には、顧客のどのような行動や状態だと上位プランや有料オプションにニーズが発生するのかを考える必要があります。
顧客行動で分かりやすい例としては、上記で紹介したヘルプページでのアップセルリードの獲得があります。

このように、目的や導線、CRMやSFAなどを考慮したときに、エクスパンションとアップセルを定義上分けた方が良い場合と、そこまでしなくて良い場合が各事業部やサービス単位ごとに存在すると思います。

一つの見極めとして、もしカスタマーサクセスマネージャーが「アップセル(or エクスパンション)を今年の目標として追う」とメンバーに伝えた際、メンバーが「利用人数の拡大か、顧客単価の向上のどちらか?」と迷うような状況であれば、コミュニケーションコストの低減のために、エクスパンション(利用人数の拡大)とアップセル(顧客単価の向上)を定義上分けた方が良いでしょう。

チャーン

利用人数や顧客単価を向上させても、1組織(アカウント)契約あたりの売上を無にしてしまうのが、チャーン、サービスの解約です。

もちろん、カスタマーサクセスとしてはチャーン抑止を目的にオンボーディングを行う必要があります。
チャーンの予兆として、売上に直結する要因には利用人数の縮小やダウングレード(下位プランへの変更やオプションの解約)もあります。これらも同様に抑止しなければなりません。

プロダクトの活用度がチャーン(予兆も含む)抑止に重要であることは、Chatworkのデータからも関連性が高いことが分かっています。
教科書的な内容ですが、カスタマーサクセスによるオンボーディングがプロダクトの活用度や定着の促進を通じてチャーンを抑止します。したがって、カスタマーサクセスのオンボーディングは非常に重要です。

しかし、今回はカスタマーサクセスのセールス化を背景にしているので、
こちらの文脈でチャーンについてのの影響について記載します。

カスタマーサクセスのセールス化によるチャーン低下の可能性

私の経験から、エクスパンション、アップセル、クロスセルができなかった顧客はチャーンする確率が高い可能性があります。
つまり、カスタマーサクセスが既存顧客との信頼性を高め、プロダクトへのロイヤリティや活用度を向上させることができなければ、チャーンの可能性が高まるということです。

エクスパンションやアップセルを行っていただけた顧客は、サービスの利用意義を強く感じており、他のSaaSに関する相談からクロスセルにつながることも多々あります。
一方で、サービスの限界や私の活用提案が不十分だったためにエクスパンションやアップセルができなかった顧客には、解約の連絡をいただく場合もありました。

チャーンの抑止には、まずオンボーディングの完了が重要ですが、その次のステップではカスタマーサクセスがエクスパンション、アップセル、クロスセルを成功させることでチャーン抑止に貢献できると考えています。
こうした観点から見ると、カスタマーサクセスのセールス活動は広義の意味でオンボーディングの一部とも言えるかもしれません。

クロスセル

エクスパンションからチャーンに至るまで、Service1内のカスタマーサクセスについてお話ししました。
最後に、Service1の事業部・チームのメンバーが、Service2のセールス活動を行うクロスセルについてです。

Service1のChatwork事業部では、クロスセルについてService2(Chatwork アシスタントChatwork 勤怠管理など)の受注までは追わず、クロスセルのリード創出までをKPIとして追っています。
このリード創出を「トスアップ」として社内で呼んでいます。

私はクロスセル専門の営業組織にいた経験から、
インサイドセールスやフィールドセールスもトスアップをKPIとして追っている中で、カスタマーサクセスからのトスアップは質が比較的高いと感じています。
カスタマーサクセスは顧客の業務をより深く理解しているため、クロスセル提案が非常に的確であると数値・現場の両面から実感しています。

商談獲得や受注は、異なる本部にあるクロスセル専門のインサイドセールス部隊や、同グループのフィールドセールス、または提携先が行っています。
具体的には、「Chatwork DX相談窓口」として、グループサービスだけでなく、提携先のサービスまで40以上のサービスをクロスセルすることができます。

Chatwork DX相談窓口


Chatwork DX相談窓口の商材の一例

まとめ

カスタマーサクセスにおいて、既存の有料契約済み顧客からの収益拡大を図ることは非常に重要です。
今回は、カスタマーサクセスのセールス化を背景に、1組織(アカウント)契約あたりの売上額を最大化するためのカスタマーサクセスの4つの戦略、エクスパンション、アップセル、チャーン、クロスセルについて説明しました。

カスタマーサクセスによるオンボーディングは、これら4つの戦略の根本であり、特にチャーン抑止において極めて重要です。
オンボーディング後のさらなるチャーン抑止の試金石としても、エクスパンション、アップセル、クロスセルは重要な役割を果たします。

マルチプロダクト化やコンパウンド戦略が主流になってきたSaaSにおいて、カスタマーサクセスから創出されるクロスセルリードの質の高さが、今後のクロスセル戦略において鍵となるでしょう。

これらの戦略を総合的に活用することで、カスタマーサクセスは組織の成長と収益の最大化に大きく寄与することができます。

SaaSにはさまざまなプライシング形態や、それに応じたカスタマーサクセスの組織形態がありますので、すべてが当てはまるわけではありませんが、このnoteが読者の皆さんにとって少しでもお役立ちできると幸いです。

自己紹介

Chatwork株式会社 カスタマーマーケティング部に所属する山岡と申します。
ジョブカンやChatworkと2社のSaaS企業で、カスタマーサクセス領域で業務経験を積んできました。
ほんの少しだけ事業企画・推進も行い、CSの有償提供(ジョブカン初期設定代行)のローンチとクロスセル専門の営業(Chatwork DX相談窓口)推進しました。

ここまで読んでいただきありがとうございます!
もし、ご興味を持っていただけたら、気軽にお話しましょう!!



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