コーディネーション能力とスポーツスキルとの関係〜コツとカン〜
今回は子供の運動発達・スポーツ界で注目されているコーディネーション能力についてです。一般的に検索すると方法論が多く出てきますが、今回は競技スキルトレーニングとコーディネーショントレーニングの目的の違いと、そのコーディネーショントレーニングの中で方法ではなく、それよりも重要な感覚的な部分をまとめてみました。
はじめに
お子様の動きのヒントになれればと思い書き進めました。
今回のnoteで、コーディネーショントレーニングがどのように子供たちの運動の為発達とスポーツに影響を与えるかをインスタグラムでは説明できていない部分まで、説明できればと思います。
最後までお読みいただけると嬉しいです。
下の動画(上記をクリックすると閲覧できます)では一連の運動の中に、走る・ステップを合わせる・跳ぶ・飛び越える・バーに当たらないようにする・空中での姿勢をコントロールする・着地する など一つの動作の中に複数の能力を高める要素を組み込んでいます。
近年、幼少期から特定のスポーツばかりを行なっていることが競技の成長の観点からは問題視されています。
球技系のスポーツであれば、ゴールデンエイジ期(9〜12歳)にスキルトレーニングをたくさん行っておくことは技術の習得には非常に重要です。しかし、ボールスキルの習得に先走りがちになったり、その割合が身体活動のほとんどを占める形になってしまっている場合は、動作の偏りが生じやすく、先々での動きの応用が効きにくくなる可能性が高くなります。
せっかく身につけた技術も成長とともに発揮できなくなかったり、頑張っているけどスムーズに技術を獲得できないという育成年代の問題が生じてくる可能性もあります。
競技に必要なスキルの向上の獲得のスムーズさにつながるのは、コーディネーション能力が満遍なく備わっているかが鍵を握るため、競技スキルに特化する前にコーディネーション能力の向上が大切ですし、小学中学年の子供たちもコーディネーション能力を高めていくことは非常にのちの自分を助けることに繋がります。
コーディネーション能力とは
コーディネーションとは、旧東ドイツのスポーツ運動学者が提唱したアスリートの運動能力向上を目指した理論のことで、日本語にすると「調整力」ともいわれています。
人は運動するときに、脳から「からだを動かす指示」が出されます。
そして脳の指令をもとに自分のからだを動かし操作しますが、この指示と動きを調節するのが『コーディネーション』です。
コーディネーションは主に7つの能力からできています。
この7つが複雑に組みあわされることで、上手に運動が遂行されます。
運動能力を高めるためには、7つの能力を総合的に育むことが大切です。
下記に一つずつ能力を見ていきます。
7つのコーディネーション能力
BODYschoolでは、幼児から小学生に関してはこのコーディネーション能力も身に付けていけるような運動を経験できるようにプログラムを構成しています。
7つの能力を個別で紹介していますが、実際の運動時は切り離された能力のみだけでなく、複合的な能力を実行できることが先々の成長やスポーツ技術・パフォーマンスの向上には大きく役立ちます。
競技トレーニングとコーディネーショントレーニングの違いと重要性
ここからは競技トレーニングとコーディネーショントレーニングの目的の違いについてまとめていきます。
運動パフォーマンスの向上・技術の習得を考えると、コーディネーション能力が低いよりも、高い方が優位とされています。下の図のように、基礎体力が土台となり、その上に一般的なコーディネーション能力があることで、その先のスポーツ技術スキルが積み重ねれる幅が広くなりますし、応用の幅も広げやすくなります。
運動パフォーマンスの向上にはコーディネーション能力が必要不可欠になってきます。そして、その根底にあるのは基礎体力です。基礎体力がなければ積み重ねの土台の幅が狭くなるためいつかは伸び悩みが生じる可能性が高くなってきます。
伸び悩みを防いだり、身のこなしをよくするためには、スポーツをする子ではより一層基礎体力を向上させながら、コーディネーショントレーニングを積み重ねていくことが成長の鍵となります。
それではどのようにコーディネーション能力がスポーツ技術・競技力向上につながるのかを解説していきます。
いくつか動画を参考までに載せておきます。
(クリックすると動画が見れます)
動画にあるこれらのコーディネーショントレーニングは、神経系の適応能の可能性を高めることが目的にあります。つまり、『運動そのものを獲得するよりも、運動の学習能力の獲得』『コツとカンの運動感覚の獲得』が最重要です。
下記の図ではコーディネーショントレーニングと競技トレーニングの違いを表しています。
ふたつの違いとして
競技専門的なスキル系のトレーニングは一般的には上達するために練習します。(サッカーで言えばパスを成功させる、精度を高める)何か実行したことを正確に成功させるための練習が競技での練習・目標になります。
一方で、動画にもあるこれらのコーディネーショントレーニングは、神経系の適応能の可能性を高めることが目的にあります。つまり、『運動そのものを獲得するよりも、運動の学習能力の獲得』『コツとカンの運動感覚の獲得』が最重要です。
そのため、コーディネーショントレーニングは動作を上手に行うことは第一には求めずに、身体・脳・精神面に刺激を与え、感受性に働きかける(感覚の入力)といったことを優先します。
『今の力の入れ加減よかったな。こうしたらいい感じだな。あのタイミングで来たときはこんな感じになるのか。』… のように身体の内部に問いかけたり、感覚を蓄積したり、からだに対して感覚的な刺激をたくさん入れることで経験が蓄積されます。(経験の蓄積にも個人差があり感覚を留めておく能力が重要となります)
この経験の蓄積が元となり、スポーツスキルの習得の際に重要となる内観・振り返りの質を高めていくことにつながります。
このようなトレーニングの目的の違いや、スポーツスキルに関わる能力の段階から、幼少期のうちからコーディネーション能力を向上させておくことは非常に重要であると思っています。
サッカーをする子であれば、子供の頃にしておきたいことは、サッカーが上手になるためのサッカーに特化した練習のみを頑張るのではなく、あらゆる運動や遊びのなかで、多数の動き方を身につけ、動きのコツとカンなどの運動感覚、コーディネーション能力を身につけることが大切です。
(その他のスポーツも同様です)
『コツとカン』『感じ取り』を育む
コーディネーショントレーニングでは、身体で上手に表現するよりも今起きている、しようとしていることを楽しみながら『感じ取る』(感覚入力)ことが最優先です。感じ取りながら実行していくことで『コツとカン』が身についていきます。
しかし、そのコツとカンの育まれ方は個人でそれぞれ違ってくるため注意が必要な部分だと言われており、実際のスクールの指導においてもコツとカンの育まれ具合を見極めることには注力しています。(あくまで感覚的な部分のため難しい部分ですがそこが運動指導では重要な部分です。)
『コツとカン』は動きのなかで何を感じたのかという意識の有り様です。
そのため『感じの世界』は人によって千差万別で主観的なため、仮にAくんとBくんの力の入れ具合が客観的な測定(例:同じ力で投げたという数値、同じ距離を跳ぶなど)によって同じだとしても、その時の感覚をその子の言葉で表現するとなれば、必ずしも同じになるとは限りません。そして、その動作時の感覚を掴んでいる場合は言葉で表現できますが、子供達の中には言葉にはできない段階もあるため、アドバイスが運動を邪魔してしまう場合も時には起きてしまうので注意が必要な点です。(安易なアドバイスは頭と身体が混乱してしまいます。)運動始めはあまりアドバイスは必要とせず、まず自分が見たままに動いてみようとしていることが重要で、見守る時間、自然なポジティブな後押しが大切です。
余談ですが、スポーツ競技の試合前・ハーフタイム中にこのようなコツとカンに関わるアドバイスをすることは重要な試合であればあるほど非常に注意が必要です。
子供たちは感覚をすり合わせれることは難しく、それを意識するあまりミスがアドバイス前より起きてしまうという子もいたりします。
話を戻します…
上記の『感じ取り』に入る段階までが未就学児から低学年の子供たちの中では難しい部分であり、特に言葉を選びながら(時にはほぼ見守るだけか手本を見せるだけもあります)接する必要性があります。このような環境の中で動く楽しさを感じていくことで、自然と感じ取流ようになり、次第に動作の幅が広がり始めます。
逆に、幼少期に動作に興味がないと感じとる回数も少ないため、高学年で動きの幅を広げていくことのその子自身のハードルが高くなってしまうなと感じています。
このようなコーディネーショントレーニングや関わり合いによって、運動に興味を持ち、感じ取りの能力を向上させておくことで、以前はできていなかった動作ができたり、動きに繋がりができてきます。前章で述べたように、コーディネーション能力が向上していることが、競技スキルのトレーニングの際に『こうすればうまくいった』という、内観・振り返りの質の向上にも繋がり、競技スキルの向上にも役立ってきます。
このような感覚的な運動習得の観点からもコーディネーショントレーニングに触れる機会を作ることは、スポーツをするにあたって非常に重要であると捉えることができます。
運動経験に応じて、能力を向上させるための刺激の数や質、言葉がけ、要求をコントロールして環境を設定しながら動いていくことで、子供の運動能力・コーディネーション能力・感覚的な能力が向上していきます。
今回は一般的なコーディネーション能力と運動発達・スポーツとの関係をまとめてきましたが、深掘りするとコーディネーション能力はその他にもいくつかありますし、さらに深掘りすると基礎動作や基礎体力も能力の積み重ねが非常に重要になってきます。今回ここに出ていないコーディネーション能力に関してはまた、次の機会に投稿できればと思います。
終わりに
BODYschoolでは、上記で述べたコーディネーション理論に基づき、運動の発達に関しては、全員同じ過程をたどってゴールに到達(能力を獲得)することは第一にしておらず、その子のペースで運動が好きになり、もっと動きたい、そうなりたい、そうしたい欲を引き出して、能動的な形で能力が培われ、その子自身の心とからだが育まれていくことを小学生以下の年代では重要視しています。
コーディネーション能力を高めるようなトレーニングを行なっていく中で、できなかったことが『できる』ようになることで、できる喜びを感じ、自信を持つようになります。これを運動有能感といい、運動の発達には必要不可欠な要素になってきます。
この運動有能感が向上することで、さらに意欲的になり、動く頻度が増加し、できることも増えることで結果として動きの幅が広がってきます。
また、運動有能感やコーディネーション能力の向上に伴い、生活動作の向上(姿勢・傾聴・落ち着きのなさ)につながるとも言われていますし、実際にスクール内でも変化を感じています部分もあります。
動作に関して、今行っていることが完璧にできることは求めていません。
運動の指標とする形は存在しますが、先ずは『それっぽい』を目指します。
できたときはタイミングを見計らってポジティブな言葉をかけ、うまくいかなくても動作そのものを実行しようとしている、していること事態にフォーカスして、また次動きたい、新しい動きを体験してみたいと思えるような環境を作れるかどいうかを大切にしています。
その結果、楽しさを保ちながら、継続して動けるようになり、基礎体力(体力・筋力)が向上し、怪我をしにくい身体の土台が培うことや、能力が向上していくとを目論んでいます。
スクール内では理学療法士・フィジカルコーチとしての視点で、怪我につながるような身体の使い方や筋力の問題、骨の位置関係の問題を分析しながら運動を見守っています。
時には、コーディネーショントレーニングに発達してほしい筋・動作が向上していくような動作を組み込んだり、運動パフォーマンスを阻害する要因を改善するストレッチやエクササイズも指導し怪我をしにくい身体を目指しています。
昔であれば、木登り、缶蹴り、ケイドロ、草野球、キックベース、竹馬、こままわし、めんこ、学校公園遊具の使用の自由など、家庭の周囲の遊びの中で動きの経験値を高めることができる手段や機会が数多くあったことから、コーディネーション能力は自然と身に付きやすかったと言われています。
しかし、現代では遊ぶ環境の変化やデジタル化が進む中で、遊ぶ環境や機会の現象、スマホやゲームに時間を費やすことが増えたことで、運動時間が極端に少なくなっており、コーディネーション能力や体力の低下が問題視されているのが現状です。
令和4年の全国の体力テストでも平成20年と比較すると大幅に低値を示しています。また、令和以降、平成と比較するとテストの数値は低下傾向にあり、その先の運動習慣や健康・医療問題も危惧されます。
子供の頃の運動習慣が大人になってからの運動習慣に大きく影響を与えると報告は以前からもあり、その運動習慣がある人は運動が子供の頃から好き出会った子が多いそうです。また、令和4年の学生調査でも運動好きの子の方が圧倒的に将来継続的に何か運動を続けたいというアンケートの全国調査でも出ています。
子供の頃の運動好き・運動習慣は、大人になってからの運動習慣にも影響を与え、それが生活習慣病や慢性疼痛にも大きく影響してくるとも言われています。これから医療費の負担が大きくなる可能性が大いにある世の中では、子供のうちから運動好きになり、身体に興味を持ち、怪我をしにくいからだ作りをしておくことが、生涯を少しでも有意義に過ごす一手段になるのではないかと考えています。
最後に、能力の向上は大切ですが、それだけが目的にならないように。子供達が楽しみながら、基礎体力もコーディネーション能力も楽しみながら、怪我をしにくい身体へと成長できるよう幼児から小学生の子供達には引き続き関わっていきたいと思います。もちろん、その他の学年、一般シニアクラス全ての方に真摯に向き合っていきたいと思います。
いつも長い投稿ですが、ここまで見てくださった方ありがとうございます。
2023年も引き続き、便利になりながらも、社会的な背景による問題が子供達に起きてきている現状も良い方向に進めれるように、BODYschoolを通して社会に貢献していきたいと思っています。
理学療法士/フィジカルコーチ
石田 將