読み切り『友達になるために』
一軒家の玄関
光「ただいま〜(大学で無事に息を潜め続けた今日の俺、お疲れ様‼︎ゲーム♪お菓子♪)」
70歳の親父と2人暮らしをしている、地味で内気な大学生の男、光(ひかる)が私服で帰宅しリビングに入ると、ハゲ散らかした20歳のイケメンがソファでくつろいでいる。
イケメン「おぉ〜光、帰ってきたか。」
光「え…え〜‼︎(このイケメン誰⁉︎しかもハゲ散らかしてる⁉︎友達ゼロの俺にこんな奴は知らんぞ⁉︎)」
舞台は日本
光は衝撃で開いた口が塞がらない。
光「え…どなた様ですか?」
イケメン「何言ってんだ。お前の親父だぞ?」
光「はい…?」
イケメン(以下父)「5年前から予約してた薬がやっと届いたんだよな〜。」
光(あ、親父だ…前もなんか買ってたもんな…)
回想
3年前のこと
光が部屋で1人スマホでゲームをしながらニヤニヤしている。
光「ニャンちゃん可愛いな〜。」
親父が入ってくる。
父「おい光‼︎プレゼントだ‼︎」
光はスマホを急いで隠す。
光「急に何だよ親父‼︎ノックぐらいしろよ‼︎」
父「ほら‼︎」
父は光に薬を渡す。
光「何コレ?」
父「性格が逆転する薬だとよ‼︎」
光(コレ大丈夫なのか…?)
箱の裏を見る。
『責任は一切請け負いません。』
光(怖い怖い怖い‼︎モルモットじゃん‼︎)
父「コレでお前にも友達が出来るな‼︎」
光「は?何言ってんだ親父。知ってるか?“妻”って検索したらプレゼントとかの関連語出てくんのに“夫”って検索したらピーーーー[※放送禁止用語]が関連語で出てくるぐらい世の中は物騒なんだぜ?尚更、友達なんか作ったらソイツらは俺の知らない所でピーーーーみたいな陰口言うに決まってんだろ。だから俺は1人でいるんだ。」
親父が光の肩を叩く。
父「そんな寂しいこと言うなよ‼︎お前のメンタルは割れた花瓶だな‼︎」
光(もう砕けてんじゃん…)
父「とにかく、ソレ20万したからちゃんと使えよ‼︎」
光「年金の無駄遣い‼︎」
父「経済回してんだから良いだろ。」
回想終わり
光「(アレ結局使わなかったもんな…)ソレ何の薬?」
父「20歳に若返れる薬らしいぞ‼︎でも、まだ試作品だから皮膚しか戻らんかったわ‼︎ガッハッハ‼︎」
光「(ガッハッハじゃねぇよ‼︎試作品買うの怖すぎんだろ‼︎その勇気、尊敬するわ‼︎)なんでそんなの買ったんだよ?」
父「若い方が大学生から話しかけられやすいだろ?」
光「まあそーだけど。」
父「1日しか効かないらしいから、今から大学行くぞ‼︎」
光「は?俺まだお疲れ様会やってねぇんだけど。」
父「どーせ1人だろ?」
光「お疲れ様会って1人でやるもんじゃねぇの?」
父「何言ってんだ。友達作りに行くぞ‼︎」
光「…は?」
大学前
光と親父が私服で門前に立っている。親父は金髪のカツラを被っている。その側に鼻水を垂らしたデカい男、武が立っている。
父「カツラなんか被る必要ないだろ。」
光「俺が恥ずかしいんだよ。(ハゲ散らかした大学生は嫌だろ。)見た目が若くても中身は中年なんだから変な事すんなよ?」」
父「わかってるって。それよりお前、友達いたんだな‼︎安心しだぞ‼︎ならもうワシはいらんな‼︎」
親父が帰ろうとするが光は引き止める。
光「待て親父‼︎コイツは…ストーカーだ‼︎」
父「何⁉︎ホントか⁉︎」
光「コイツ、毎日俺を追いかけてくるんだよ。」
武「何言ってんだお?オイラ達、鼻くそ付け合った仲じゃねぇかお。」
光「そんな覚えはマジでない‼︎」
父「そんなに仲良かったんか‼︎」
光「仲良くないし、してもない‼︎」
武「親父ってお前若すぎねぇかお?何歳でヤったんだお?」
父「俺をそこら辺の男と一緒にすんなよ?」
光「息子の前でそういう話をするな‼︎」
親父が光の肩に手を置く。
父「とりあえず、もっと友達増やすぞ‼︎友達100人でっきるっかな〜♪」
武「かな〜♪」
光(だから友達いらねぇって…あーもう嫌。頭痛くなってきた…)
大学内の通り
親父を沢山の陽キャが囲む。光と武はハブかれている。
女「キャーキャー‼︎カッコいい‼︎」
男「お前マジで俺らと同級生?」
父「おうよ‼︎」
光(やっぱりボッチだとこういう時に感じるよな…1人でいると孤独感、2人でいると劣等感、3人以上で疎外感…)
光が武を見ると、武は鼻をほじっている。
光(いや、コイツといたら劣等感はねぇな。平等どころか優越感を感じる。)
親父が光を引っ張る。
父「今日だけちょっとこっち来て、コイツと遊んでてな‼︎」
男「え?誰コイツ〜?」
女「え〜知らなーい。なんかパッとしなくなーい?」
光(パッとしなくて悪かったな‼︎)
男「俺コイツ高校一緒だったぜ‼︎確か…ひ…ひとり、だったっけ?」
女「え?ボッチ?良い名前じゃん‼︎」
光(ずっと独りで悪かったな‼︎あと、1人をボッチと聞き間違える貴方は耳鼻科行くべきですよ‼︎)
父「光〜‼︎こんなにいっぱい友達いたんだな‼︎羨ましいぞ‼︎」
光(お前は俺達の会話を聞いてどこで友達だと思った‼︎言ってみろ耳くそ‼︎)
父「俺ちょっと腹減ってきたわ。」
男「マジ?じゃあ食堂行こーぜ‼︎」
父「行こーぜ‼︎」
親父は急に痰が絡む。
父「カッ…カー‼︎カー‼︎カー‼︎カー‼︎ペッ。」
痰を道端に吐く。周りにいる陽キャが引く。
周りの人達(うわ〜おっさんやん〜汚ねぇ〜)
男「あ、あー俺達ちょっと用思い出したわ…すまん…また今度行こーぜ…」
女「わ、私達も…」
みんな早歩きで逃げる。光が親父とコソコソ話をする。
光「おい親父‼︎痰なんか吐くなよ‼︎汚ねぇ‼︎」
父「仕方ないだろ。生理現象なんだから。最近の若者はカーカー言わねぇのか?」
光「言わねぇよ‼︎」
父「時代も変わったもんだな。」
光(そんなもんに時代も何もねぇだろ…)
光は周りを見渡す。
光(俺ヤバい奴連れてることになってるだろーな…)
光が武が痰を近くで見ているのを見る。
光「何してんだよ、武。」
武「鼻水の進化系にアリ集まってるお。」
光(その言い方やめろ‼︎シンプルにキモい‼︎)
食堂
3人がイスに座っている。また違う男女が親父の周りを囲み、光は押しつぶされ、武の周りには人が集まらない。
武「おぉ。また人がいっぱいいるお。」
女「キャーキャー‼︎カッコいい‼︎」
光(おい‼︎押しつぶすな‼︎俺が見えてないのか⁉︎死人が出るぞ‼︎)
男「俺達も一緒に食っていいか?」
父「おう‼︎いいぜ‼︎」
光(一緒に食うなバカ‼︎死人が出るぞ‼︎)
親父がお手拭きをあける。
父「あーホント腹減ったわ〜‼︎」
お手拭きで手を拭き、そのまま顔を拭く。
周り(うわ〜おっさんやん〜汚ねぇ〜)
男「あ、俺らちょっとやる事思い出したから…すまん…」
女「私達も…」
陽キャが早歩きで帰っていく。光が親父にコソコソ話しかける。
光「おい親父‼︎死人を出す気か‼︎」
父「誰が死ぬんだよ?」
光「俺だ‼︎高校とかだったらイジメルート辿ってついには自殺してまうぞ‼︎」
父「大袈裟だな。」
光(大袈裟じゃねぇよ‼︎それで今まで何人死んでいったと思ってんだ、クソ野郎‼︎)
父「しかもお手拭きで顔拭いただけじゃないか。」
光「ソレが若者には生理的に受け付けねぇんだよ‼︎」
父「そーなのか?」
父が武を指さす。武もお手拭きで顔を拭いている。
父「ほら、武くんもやってるじゃないか。」
武「オイラいつもやってるお?顔拭いたら綺麗サッパリするお‼︎」
光「コイツを大学生代表にするな‼︎」
食堂前
周りに陽キャが集まらず、3人しかいない。
父「誰も来なくなったな。」
光「誰のせいだと思ってんだよ‼︎あと、スマホの力舐めるなよ。噂なんか一瞬で拡散するからな。」
武「オイラ、友達連れてくるお‼︎」
父「おぉ‼︎マジか‼︎それは助かる‼︎」
光「え…?(嘘だろ…コイツに友達が…?俺以下だと思ってた奴が知らない間に俺以上になってたのか…?すげぇ劣等感感じてきた…)」
武が友達を呼びに行く。
父「なぁ光。友達は作らなくていいかもしれないな。」
光「だから家出る前も言ったじゃねぇか。」
父「…武以外はな。」
光「なんで武だけオッケーなんだよ‼︎」
父「今日いろいろとジェネレーションギャップ感じてきたけど、相変わらず友達の質だけは昔から変わらないらしいな。」
光「何が言いてぇんだよ?」
父「武は他と違って、俺達がどんな振る舞いをしようが絶対に何も言わねぇし、離れたりしない。友達にするなら、上っ面じゃなくて芯の部分を受け入れてくれる相手にしろよってことだ。」
光(親父もたまにはまともな事も言うんだな…でも、それはそーかもしれないな…)
武が何人か男友達を連れて来る。
武「連れて来たお〜‼︎」
父「おぉ〜‼︎結構いるじゃねぇか‼︎」
光(なんかますます劣等感感じてきた…)
男1「なぁ武。ちゃんと来てやったんだから金くれよ。」
武「いいお‼︎」
光(え…?金?)
武が札束を出す。
男2「ナイスゥ〜‼︎」
父「なんで金なんかもらってんだ?」
男3「契約だからだ。」
光は怒りが我慢できなくなり、握り拳を作る。
光「それはおかしいだろ…」
男1「あ?なんだてめぇ?」
男2「喧嘩売ってんのか?」
光「友達がいない俺でも、友達の定義が間違ってると思う。」
父「間違いないな。」
男3「こんな奴相手したって何の利益にもならねぇからやめとこーぜ。」
男1「そーだな。」
男2「目当てのモンは手に入ったからな。」
男達がどっかに行く。
光「武、友達は金で買うモンじゃねぇぞ。」
武「…わかってるお。昔はちゃんとした友達多かったんだお…」
光「そーなのか?」
武「オイラな、昔、薬飲んだんだお。ソレ飲んでから友達居なくなったんだお。もう一回飲んだら治ると思ってたんだけど、もう在庫がないって言われたんだお…お金があっても解決出来ない事もあるんだお…」
光「…それ何の薬?」
武「性格が逆転する薬だお。」
光「え…(何だろ、この複雑な感じは…武が気の毒だと思いつつ、自分が呑まなくて良かったって思ってる…俺、誰よりもクソだな…だからボッチなんだな…)武。もしその薬がまだあるって言ったらどーする?」
武「もちろん買うお‼︎」
光「…俺一個だけもってるわ。」
父「お前まだ使ってなかったのか⁉︎」
光(え⁉︎俺の親父だよね⁉︎どこが変わったと思ってたの⁉︎もし薬飲んでこの性格なら、前のままで絶対良かったと思うけど‼︎)
武「マジだお⁉︎いくらだお?」
光「金はいらねぇよ。その代わり…」
光が照れる。
光「…俺と友達になってくれ…」
武「はえ?」
光「か、勘違いすんなよ‼︎お金友達しかいないお前を気の毒に思っただけだからな‼︎」
武「何言ってんだお?俺達、もう友達だお?」
光「え…」
武「だって鼻くそ付け合った仲じゃねぇかお。」
光「だからマジでしてねぇから‼︎あとソレ、引かれるから人前で言うのはやめてね‼︎」
親父が泣きながら光と肩を組む。
父「何だよお前ら‼︎感動するじゃねぇか‼︎友情は良いもんだ‼︎鼻くそ付け合っただけのことはあるな‼︎」
光「だからしてねぇって‼︎あと臭い‼︎めちゃくちゃ臭い‼︎」
父「加齢臭かもしれんな‼︎ガッハッハ‼︎」
光「汚ねぇな‼︎早く離れろよ‼︎」
『友達は上っ面ではなく芯の部分で選ぶのだ。』