破壊

破壊 (支配権)

<< これは2003年に雑誌へ寄稿していたコラムを修正したものです。>>

 私は、独立後、初年度1億円の売上をつくりました。このまま続けると数年で年商10億円くらいになると思って、製造販売を行うメーカー部門を別会社にして独立させ社長を募集したのです。実際に商売をやってみて、年商10億円でトップシェアを取れる会社なら5年で100社くらい作れると思ったのです。しかし社長候補がみつからないのです。私は、仕事というのは、持ち株会社を作ることだと思っていたので、実務は適任者に任せて、私はその会社の株を持てばよいと考えていました。知恵とアイディアを基にいろいろな分野へ進出したいと考えていたからです。しかし、この国では意味を理解する人とは出会いませんでした。
 そこで、中東のA国の駐日大使館へ連絡したところ、A国の経済公使が私のところまで来て、とりあえずA国で開催される展示会に行こうということになりました。そのとき私は「特許を売るために契約書を持っていく」と言ったところ「A国企業へ販売せずに一緒に行く日本人へ売りなさい」と言われました。たぶん「A国の資産を持ち出すな」という意味だと思います。経済公使はその仲介役を引き受けるとのことでした。ということは、取引が成立し、私が利益を得たときは、A国へ納税すれば利害関係が一致するということ
です。

 すでに知恵を全世界に販売するシステムができあがっているA国の企業になるということです。私は、自分でそのシステム全体を作る事が目的なのですが、私の生物としての寿命もあるので、A国企業になってシステム作りを省き少しでも多くの知的財産を販売できれば良いと考えたのです。そのときの心境を分かりやすくいうと「目的のために悪魔に魂を売る」といった感じです。A国は悪魔ではありませんが、私の行いが日本人の行いではなくなるということです。また、システム全体の支配権を持つことを諦めるということで
す。

 国内外の投資家は、当然のこととして、支配権を持つことを目的に戦略と戦術を練っています。支配権さえあれば利益などは簡単に作ることができます。その日、その時、その場所で、その国の通貨になればよいのです。

 物の製造販売などは、単純労働であって売れる物を作って売ればよいのです。ヒットする物やサービスの特許など知的財産を能力のある会社や経営者に提供し大きな売上げを作ればよいのです。対価は、その会社の株でよいのです。お互いに成功報酬という意味です。その会社が大きく育てば、その会社の支配権の一部が資産になります。私は、資金を投資するベンチャーキャピタルではなく、利益を生む基を提供し成功報酬で対価を受け取るベ
ンチャーキャピタルということになります。その会社の株を公開する、しないにはまったく興味が無く、利益を生む企業の支配権を持つことに意味があるのです。

 私が思うには、株を公開しないメリットは、公開するメリットより多いと思います。目先の利益が目的なら公開して利益を得ればよいのですが、株を公開しないということは企業を制御する早さと正確さを追求することが可能になるのです。

 A国は、現金を投資して支配権を得るのではなく、知的財産を基に支配権を拡大しているのだと思います。製品を製造販売する企業へ現金で出資しても、すでに他の株主が存在するので100%の支配権を得ることはできません。しかし、利益を生む基から作った場合は、大きな支配権を得ることができるのです。

 今回の寄稿で、予定の12回が終了しました。1年間ありがとうございました。さようなら。(2003年6月)

ありがとうございます。起業以来、下請けと工賃仕事をせず自分で考えたものを世に出して生きてきました。その経験をノンフィクションとして書いています。