カーブミラーはなぜ曇るのか(2) ”空気吸込式”
この話は、このあと現在(2019年)も続いている開発ストーリーの始まりです。
概要
1993年の何月だったか忘れましたが、当時務めていた会社へあるカーブミラーメーカーの営業マンが来ました。目的は、結露と霜が付かないカーブミラーを開発できないかとのことです。そのときすでに対策した製品は3種類ありました。
そして、結露予知センサーを開発し”特願平06-091229”を出願しました。しかし、この方式は光学式センサーを使うため汚れに弱く実用化を断念しました。このあとサラリーマンをやめメーカーを立ち上げることになりました。メーカー立ち上げを行いながらカーブミラーの結露対策の研究を続けていました。
(1)で開発した結露予知センサーは後の自動車雨滴感知センサーと同じ方式だと思います。汚れに弱く10年メンテナンスフリーは難しいと思い断念しました。
次に空気吸込式という方法を考え特許出願したのでご紹介します。
毎晩屋外に出て熱電対による気温やミラーの温度測定を行っていると放射冷却がおこったときの空気の温度分布が分かってきました。
1.放射冷却をさらに理解する必要性
単純な方法で結露対策を行う必要があります。複雑なセンサーなどを使わないためです。そのためには、さらに放射冷却を理解する必要があると思いました。
あるとき、ひらめきました。夕方日没頃太陽からの熱が届かなくなり放射のみが発生する時間にカーブミラーの支柱の温度を測ってみました。すると高さが1m高いと温度が1℃高いことが分かりました。そして、別の日、気温を測ってみました。同じく日没頃放射冷却だけが発生する頃です。そうすると地面からの高さが1m高いと温度が1℃高いのでした。放射冷却は地面から赤外線を宇宙空間に放射し徐々に上空が冷えていくからです。地面が冷えたあと上の空気は遅れて冷えるのです。このことが証明されました。また高さが1mで気温が1℃違うことも分かりました。それが、下のイラストです。
そして、考えた結露予防方法は、カーブミラーより1m高い位置の空気をミラー内部に吸い込むことです。そうすれば、カーブミラー周辺の温度以上に保つことができると考えました。構造は下の図のようになります。
記号の説明
10:カーブミラー
13:ひさし
22:ファン
23:太陽電池
動作を説明します。日中、太陽電池で発電した電力をバッテリー(鉛シール蓄電池)に蓄えます。太陽電池が発電しなくなった時を日没として、そこからバッテリーに蓄えた電力をファンへ供給します。カーブミラーより約1m高い位置にあるパイプを通して空気を吸い込みます。ミラー周辺の空気の温度より約1℃高い温度の空気を吸い込むことが目的です。
そしてミラーをミラー表面に接触している空気よりも高い温度に保ちます。ミラー周辺の露点以上に保つということです。気温より低くても露点以上であれば結露しません。
1995年10月15日 実験場所を決めミラー建てる。
ミラーの取り付け方法と吸気用パイプの構造です。
太陽電池ユニットの構造です。内部には鉛シール蓄電池と充放電回路とファンが入っています。
これが実験結果です。
上の写真は吸気のパイプを中に入れすぎたためミラーの一部しか結露予防ができませんでした。
下の写真はパイプの位置を調整しミラー内部前提に空気が回るようにしました。
このように結露は予防できました。
特許出願
そして特許出願しました。
特許の出願番号は、”特願2000-297710” です。
これは審査請求せずに見なし取り下げとしました。
理由は、吸込み口があるため虫や枯れ葉などが詰まる可能性があるからです。やはり10年間メンテナンスフリーを目指さないと採用するカーブミラーメーカーが現れないと思います。
それと結露は防ぐことができましたが、これで本当に放射冷却を理解したのでしょうか。完全に理解したのであればさらに単純な方法があると思いました。
ありがとうございます。起業以来、下請けと工賃仕事をせず自分で考えたものを世に出して生きてきました。その経験をノンフィクションとして書いています。