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村上春樹に正解を求めるのは不正解  舞台『海辺のカフカ』NY公演

(この記事は2015年7月24日に書かれたものです)

ニューヨークの書店を巡るなかで必ずと言っていいほど品揃えされている村上春樹の小説。彼は今年4月に米TIME誌が発表した「世界で最も影響力のある100人」の一人として選ばれ、毎年のようにノーベル賞を受賞するのではないかと噂されています。

しかしこれまで私は彼の作品を理解できたことがありません。中学生くらいのとき読んだ『ノルウェイの森』は「自分はこういったタイプの男の子は好みではない」と気づかせてくれたくらいで、何年も後になってタイムリーに読んだ『アフターダーク』に至っては「何だったんだろう?」と思う始末でした。高校生のとき、同級生が『ねじまき鳥クロニクル』を読んでいてとても面白い、と絶賛していたのを聞いても「読んでもよくわからない」という先入観からトライすることはありませんでした。そういったこともあり、ここ十年ほどは読もうとすることさえ止めていました。世の中が『1Q84』や『多崎つくる』に湧いているときでさえ、私の興味が彼の作品に向かうことはなかったのです。

日本のものが海外に進出すると、現地への影響力はそこまで大きくないのに過大報道されがちです。ですが、村上春樹はそんな疑い深い私でも素直にすごいと思うくらい、こちらでも人気があることが分かります。

「なぜ村上春樹に人は魅了されるのか?」いつか解明したいと思っていたところ、『海辺のカフカ』の舞台がNYにやってくると知りました。正直、とても迷いましたが蜷川幸雄の舞台に興味があったので行ってきました。

今回の舞台は、村上春樹の『海辺のカフカ』をフランク・ギャラティが書いた脚本をもとに、蜷川幸雄が演出した作品です。現在、リンカーンセンター・フェスティバルが開催されており、その中のひとつの作品として4日間にわたって上演されます。 キャストは宮沢りえをはじめすべて日本人、英語字幕つきの日本語での上演でした。日本人である私は字幕が必要ないのでなんと最前列で鑑賞できました。字幕の関係か、真ん前の席よりも後ろの席の方が価格が高いのです(!)。何より日本語の舞台をニューヨークで観ることができるとは、とても新鮮でした。

蜷川幸雄の舞台を観るのは初めてだったのですが、アクリルボックスを使ったセットの演出など、めまぐるしく変わる場面を美しくかつダイナミックに表現していました。宮沢りえが可憐で今にも死にそうだった演技はもちろん、ナカタさん役の木場勝己さんの演技に圧倒されました。可愛らしい様子だからこそ垣間見える悲哀がひしひしと伝わってきました。演技に詳しくない私からみても、カフカ役の男の子はあまり滑舌が良さそうには思えませんでしたが、その佇まいや存在感は少年と大人の間を行き来きする主人公を絶妙に表現していたように思います。

そして何より、舞台装置を動かす黒子さんの活躍が光る舞台でした。彼らのコンビネーションは、緻密に計算されたフォーメーションサッカーを観ているようで、チームスポーツ好きの私にはこの舞台のMVPは彼らだと思えてなりませんでした。

劇場は木曜と平日であったにも関わらずほぼ満員。観客は日本人が多かったように思いますが、同じように現地の人も多く、最後にはスタンディングオベーションになっておりました。

この舞台を観て分かったことがあります。それは「村上春樹に正解を求めるのは不正解」ということです。父親を殺したのは自分かもしれないし、そうではないかもしれない。佐伯さんは母親かもしれないし、そうではないかもしれない。などなど、この舞台には不可解なことがいくつも登場します。ですが、そこに正解はありません。自分で考えて想像するしかない。オノ・ヨーコの作品もそうですが、「正解は観ている自分が決める」というのが彼らのスタンスなのです。作品に観客が加わることでより作品に広がりが生まれるのです。それを意図しているのかしていないのかは分かりませんが、それが「村上春樹が世界で受け入れられる理由」なのだと思います。

十数年前、私は中学校や高校でひたすら一つの正解を求め机に向かう典型的な学生でした。しかし、今は社会に出て「世の中には正解のない問題が沢山ある」ということを知っています。以前の私には、村上春樹を読むのは早すぎたのかもしれません。まずは手始めに『海辺のカフカ』の原作を読むところから始めてみたいと思います。

これを読んで気になった方、日本でも秋に凱旋公演を行うようです。少しでも興味があるなら是非観に行ってみてください。村上春樹は自分に会わない、理解できない、という方にこそおすすめです。


海辺のカフカ

http://butai-kafka.com/

NY公演は2015年7月26日まで

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