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南南西に進んだら月面着陸した


もうずっと暑い。
季節だけ置いてかれて、永遠に夏なんじゃないかと思う。
姿を見せない蝉、いつのまにかスイカバーが現れて、汗ばむシャツがはりつく、ブルーハワイという言葉に人類が煌めく季節。

愛逢月がはじまって、茹だる暑さに堪えながら、学芸大学駅を友人と歩く。
夏の神様に魅入られたような溌剌な人で、この人に名前を呼ばれると「名前があって良かった」と思う。大袈裟だろうか。

一軒目。駅を出ると左右に大きく伸びる商店街の外れに、カフェ感覚で入れてしまうクラフトビール専門店がある。
シンプルなグラスでいただくビール、名前は『南南西に進路をとれ』。
「西海岸に行くぞ!と息巻いていたが、幸せすぎて、笑っていたら南の島に着いちゃった!」という設定らしい。なんとも滑稽で愛おしい。
爽やかな柑橘の香り、ビール特有の苦味は感じられなかった。

学芸大学駅の本気を見た


サクサク飲んでしまって既に酔いは丁度良いのに、夏の夜はずっと明るい。なんだかお得に感じちゃう。

二軒目は、『金魚割り』というお酒に初めて触れて、帆立がゴロゴロ入った麻婆豆腐とか、チーズが皿一面に積もるつくねをいただいた。
今後、私はこのチーズに一生足を向けて寝れないことになる。

感涙した



三軒目、幸せすぎて酔中散歩をしていたら渋谷に着いてしまったので、宇田川町にある今月で閉店するというワインバーへ。
全てが美しくてワイングラスをグッと上げて飲み干す。
空になったワイングラスを映す影が、月面のように輝いていた。


ぐるぐる回る酔中にて、どうか、この愉しくて幸せな時間を、翌朝になっても記憶にとどめておいてと希い、気絶するように眠る。

翌朝。
友人の柔らかな声も、シェリー酒の中に香る甘ったるい無花果の匂いも、言語化できない微かな体温の上昇も思い出せた。

ちゃんと、綺麗な月夜だった。

アームストロングが地球に帰って眠りから覚めた時、何を思ったのだろう

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