田原坂がかっこいい件
たまたま、先日テレビで民謡「田原坂」を視聴する機会がありました。民謡には基本的に興味はないので、ほんとうにたまたま。
田原坂は「たばるざか」と読みます。九州では原の字を「はる、ばる」と読むことが多く、田原坂もその一つで熊本の地名です。民謡の「田原坂」は、西南戦争の激戦地だったこの場所に因んだ曲なのです。
で、画面に「田原坂」の歌詞が出たのを目にして、私はそのかっこよさにひれ伏しました。そして、この感動をどうにか伝えたい!と思ってこの記事を書いています。まあ、昔からある作品だし、何をいまさらと思わなくもないですけど、私には最新のコンテンツなのでして。しばしお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは早速、歌詞を見ていきましょう。
雨は降る降る 人馬は濡れる 越すに越されぬ 田原坂
どうですこの、見事な七七七五の音のリズム!ぜひ口に出して読んで欲しい。読んでて楽しくなってきませんか。あめはふるふる じんばはぬれる。こすにこされぬ たばるざか。ね?
歌詞の内容は、まずは引きで、この戦の遠景を描いているわけです。雨が降っていて、人も馬も濡れそぼって歩いている。そして「越すに越されぬ」から、戦況が思わしくないことも伝わってきます。なんとなく、みんな下を向いているような、そんな感じがします。色彩としてはグレー。たった26文字でここまで描写してしまう表現力には、脱帽しかありません。かっこいい。
歌詞は
右手に血刀 弓手に手綱 馬上豊かに 美少年
と続きます。遠景からの、美少年へのアップにグッと映像が寄るわけです。右手を「めて」弓手を「ゆんで(=左手)」と読むことで、七七七五の音のリズムが整い、軽快感をキープしていますね。
右手に血刀、弓手に手綱。右手と左手、血刀が死、手綱が生と、いろいろな対比がなされています。血の赤が、歌いだしのグレーの景色との対比で鮮やかに映えますね。そして、美少年。ただ容姿が美しいだけでなく、人をその刀で殺めて、今や鬼気迫る美貌を備えているような気がします。そしてそれを「豊かに」と言ってしまう。戦場という場所で豊かであると。なんというセンスでしょうか。
ところでこの美少年は、官軍、薩軍、どちらだと思いますか?そう、薩軍です。官軍は最新兵器の鉄砲を大量投入して戦ったのに対し、薩軍は武士の魂、刀で戦った。もうどちらが勝つかは明白ですよね。
おそらくこの美少年も戦場に散るのでしょう。その前の、死に直面するからこそきらめく、生命力にあふれた美しい姿を、これもまた、たった26文字で描き切っている。もうこれ、誰が作ったん?かっこよすぎやろと言いたいです。
戦場に豊かさを、敗者に美を見出すセンスは『平家物語』を連想させます。滅びの美学。『平家物語』も弾き語りのための作品で、音読するとかっこいいというところも共通しています。やはり日本人は変わらないのだなあ、としみじみします。
もう一度、この二つのフレーズをぜひとも音読していただきたい。雨の戦場、馬上の美少年。しびれます。
曲はもうすこし続きがあるのですが、今回はお腹一杯、ここまでにいたしとうございます。
因みに、往年の沢田研二の「サムライ」の歌詞は
片手にピストル 心に花束 唇に火の酒 背中に人生を
で始まるのですが、これはきっとこの「田原坂」から来ているのだと、勝手に思っています。しらんけど。
再掲
雨は降る降る 人馬は濡れる 越すに越されぬ 田原坂
右手に血刀 弓手に手綱 馬上ゆたかに 美少年
ありがとうございました。