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【私の感傷的百物語】第十八話 ホテルの廊下
旅先の旅館やホテルで迎える夜というのは、何とも独特の雰囲気があるものです。全く知らない場所で眠るわけですから、程度の差はあれど、どこかに緊張感が残っているような気がします。
僕がその緊張感を大きく感じるのは、地方の古びた旅館ではなく、都会の近代的なホテルに泊まった時です。そもそもベッドで眠るという経験が少ないため、洋式の寝具になかなか馴染めないという問題があります。また窓から見える街のネオンも、少しの間ならば良いのですが、しばらく眺めていると、その人工的な冷たい色合いが、自分を迎え入れてくれないような心持ちになってくるのです。
そして何よりも、ホテルの廊下です。絨毯が続き、ドアが並び、オレンジ色のライトに照らされた、あのホテルの夜の廊下です。そこをスリッパのパタパタという音とともに歩いていると、不安な感情が襲ってきます。すれ違うホテル従業員さんが挨拶を返してくれなかったらどうしよう。不遜なビジネスマンと出会ってしまったらどうしよう、などと考えてしまうのです。まるで自分が無機質で寂しい世界に放り込まれたようにも思えてきます。疲れていて、一刻も早く眠りたい場合ならば、この空間を気にせず、やり過ごすこともできるでしょう。しかし、目が冴えている状況では、安眠するのにそれなりの努力が必要となります。
心霊関係のエピソードでも、よくホテルが登場します。曰く、霊が目の前のベッドを通り過ぎた。突然バスルームの水が溢れ出した。窓に手形がついた。飾ってある絵の裏に、お札がベタベタと貼ってあった。等々。幸か不幸か、僕はまだ一度もホテルでそういった怪異を経験したことはありません。ですが、そういった現象が起こらなくても、夜のホテルの廊下は、僕にとって恐怖の対象になるのです。ただ、それでもホテルに泊まることに、ある種の魅力を感じてしまうのも事実です。おそらく、自分が無意識に、そういった孤独に打ちひしがれるような空間を求めているのかもしれません。これは、僕が一人旅をする時の動機と、重なる部分があります。
単独者であるということは、恐怖でもあり、また、時に快楽になるのかもしれません。
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どのホテルに泊まっても、そう感じる。