内閣たちを理解する

元Speedの今井絵里子が政務官になったことでも話題を呼んだ今回の内閣改造。少し法的に掘り下げてみよう。

日本国憲法

憲法は第5章で内閣について定めている。第65条から始まり、


第六十五条 行政権は、内閣に属する。
第六十六条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ
(略)
第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。


内閣法(と内閣官房組織令)

この内閣について、詳細を定めたものが内閣法である。内閣の中に「内閣官房」という組織が置かれ、この長が内閣官房長官だ。この法律を読むと、どの役職が何を行っているのか、大体のことが理解できる。主要な条文を拾っておくと、

第二条 内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣をもつて、これを組織する。
2 前項の国務大臣の数は、十四人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、三人を限度にその数を増加し、十七人以内とすることができる。
第四条 内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。
○2 閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる。
○3 各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めることができる
第十二条 内閣に、内閣官房を置く
○2 内閣官房は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 閣議事項の整理その他内閣の庶務
二 内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務
三 閣議に係る重要事項に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務
四 行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務
五 前三号に掲げるもののほか、行政各部の施策に関するその統一保持上必要な企画及び立案並びに総合調整に関する事務
六 内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務
七 国家公務員に関する制度の企画及び立案に関する事務 
第十三条 内閣官房に内閣官房長官一人を置く
2 内閣官房長官は、国務大臣をもつて充てる
3 内閣官房長官は、内閣官房の事務を統轄し、所部の職員の服務につき、これを統督する。
第十四条 内閣官房に、内閣官房副長官三人を置く。
2 内閣官房副長官の任免は、天皇がこれを認証する。
3 内閣官房副長官は、内閣官房長官の職務を助け、命を受けて内閣官房の事務(内閣人事局の所掌に属するものを除く。)をつかさどり、及びあらかじめ内閣官房長官の定めるところにより内閣官房長官不在の場合その職務を代行する。
第十五条 内閣官房に、内閣危機管理監一人を置く。
2 内閣危機管理監は、内閣官房長官及び内閣官房副長官を助け、命を受けて第十二条第二項第一号から第六号までに掲げる事務のうち危機管理(国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急の事態への対処及び当該事態の発生の防止をいう。第十七条第二項第一号において同じ。)に関するもの(国の防衛に関するものを除く。)を統理する。第十六条 内閣官房に、内閣情報通信政策監一人を置く。
2 内閣情報通信政策監は、内閣官房長官及び内閣官房副長官を助け、命を受けて第十二条第二項第一号から第六号までに掲げる事務のうち情報通信技術の活用による国民の利便性の向上及び行政運営の改善に関するものを統理する。
第十七条 内閣官房に、国家安全保障局を置く。
第十八条 内閣官房に、内閣官房副長官補三人を置く。
第十九条 内閣官房に、内閣広報官一人を置く。
第二十条 内閣官房に、内閣情報官一人を置く。
第二十一条 内閣官房に、内閣人事局を置く。
第二十二条 内閣官房に、内閣総理大臣補佐官五人以内を置く。
2 内閣総理大臣補佐官は、内閣総理大臣の命を受け、国家として戦略的に推進すべき基本的な施策その他の内閣の重要政策のうち特定のものに係る内閣総理大臣の行う企画及び立案について、内閣総理大臣を補佐する。
第二十三条 内閣官房に、内閣総理大臣に附属する秘書官並びに内閣総理大臣及び各省大臣以外の各国務大臣に附属する秘書官を置く。
2 前項の秘書官の定数は、政令で定める
第二十四条 内閣官房に、内閣事務官その他所要の職員を置く。

といった具合である。
なお、これに紐付く政令が「内閣官房組織令」で内閣官房の組織内の詳細が記述されている。たとえば、現行の内閣官房には、内閣サイバーセキュリティセンター、内閣総務官室、内閣広報室、内閣情報調査室といった組織が置かれているが、この組織の業務についてはこの政令にまとめられている。


内閣府設置法

話がややこしいのは、「内閣官房」とは別に「内閣府」と言う組織が内閣の中には存在するということだ。内閣府令設置法は、冒頭で

第二条 内閣に、内閣府を置く
第三条 内閣府は、内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とする。
2 前項に定めるもののほか、内閣府は、皇室、栄典及び公式制度に関する事務その他の国として行うべき事務の適切な遂行、男女共同参画社会の形成の促進、消費生活及び市民活動に関係する施策を中心とした国民生活の安定及び向上、沖縄の振興及び開発、北方領土問題の解決の促進、災害からの国民の保護、国の治安の確保、国の防衛を通じた国の安全の確保、金融の適切な機能の確保、政府の施策の実施を支援するための基盤の整備並びに経済その他の広範な分野に関係する施策に関する政府全体の見地からの関係行政機関の連携の確保を図るとともに、内閣総理大臣が政府全体の見地から管理することがふさわしい行政事務の円滑な遂行を図ることを任務とする。
3 内閣府は、第一項の任務を遂行するに当たり、内閣官房を助けるものとする。

とあり、あくまで内閣官房とは別物である旨、定めている。
そして、その業務は簡単に言えば、各省庁を横断する政策の調整役だが、第4条に細かく書いてあり、

第四条 内閣府は、前条第一項の任務を達成するため、行政各部の施策の統一を図るために必要となる次に 掲げる事項の企画及び立案並びに総合調整に関する事務(内閣官房が行う内閣法(昭和二十二年法律第五号)第十二条第二項第二号に掲げる事務を除く。)をつかさどる。
 一 短期及び中長期の経済の運営に関する事項
 二 財政運営の基本及び予算編成の基本方針の企画及び立案のために必要となる事項
 三 経済に関する重要な政策(経済全般の見地から行う財政に関する重要な政策を含む。)に関する事項
 四 科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策に関する事項
 五 科学技術に関する予算、人材その他の科学技術の振興に必要な資源の配分の方針に関する事項
 (以下略)

 といった具合であり、全部で60項目が並んでいる。

さて、この内閣府の組織構成はと言うと、まず

第六条 内閣府の長は、内閣総理大臣とする。
第八条 内閣官房長官は、内閣法に定める職務を行うほか、内閣総理大臣を助けて内閣府の事務を整理し、内閣総理大臣の命を受けて内閣府(法律で国務大臣をもってその長に充てることと定められている機関 (以下「大臣庁等」という。)を除く。)の事務(次条第一項の特命担当大臣が掌理する事務を除く。) を統括し、職員の服務について統督する。
2 内閣官房副長官は、内閣法に定める職務を行うほか、内閣官房長官の命を受け、内閣府の事務のうち特定事項に係るものに参画する。

となっており、内閣総理大臣と内閣官房(副)長官は引き続き関与する。そしてその次の条文で「特命担当大臣」等を規定する。

第九条 内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関して行政各部の施策の統一を図るために特に必要がある場合 においては、内閣府に、内閣総理大臣を助け、命を受けて第四条第一項及び第二項に規定する事務並びに これに関連する同条第三項に規定する事務(これらの事務のうち大臣庁等の所掌に属するものを除く。) を掌理する職(以下「特命担当大臣」という。)を置くことができる。
2 特命担当大臣は、国務大臣をもって充てる。
第十三条 内閣府に、副大臣三人を置く。
第十四条 内閣府に、政務官三人を置く。
第十五条 内閣府に、事務次官一人を置く。

国のHPから

以上を前提にHPで実態を確認してみたい。

まずは、「内閣」について首相官邸のHPを見てみると、そこに閣僚名簿がある。ここに並ぶのが国務大臣だ。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/meibo/index.html

全部で17人のはずだが、現在は実は19人いる。これは特別法によって一時的に増員がなされたものだ。内閣法の附則には、

2 東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部が置かれている間における第二条第二項の規定の適用については、同項中「十四人」とあるのは「十五人」と、同項ただし書中「十七人」とあるのは「十八人」とする。
3 復興庁が廃止されるまでの間における第二条第二項の規定の適用については、前項の規定にかかわらず、同条第二項中「十四人」とあるのは「十六人」と、同項ただし書中「十七人」とあるのは「十九人」とする。

とあり、復興大臣と東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣が特別に置かれていることがわかる。官房副長官は法律に従って3人だが、もう一人「内閣法制局長官」と言う人が存在している。

これはまた別の法律「内閣法制局設置法」で定められた組織の長だ。

第三条 内閣法制局は、左に掲げる事務をつかさどる。
一 閣議に附される法律案、政令案及び条約案を審査し、これに意見を附し、及び所要の修正を加えて、内閣に上申すること。
二 法律案及び政令案を立案し、内閣に上申すること。
三 法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること。
四 内外及び国際法制並びにその運用に関する調査研究を行うこと。

として、法律の事務を一手につかさどっている。

なお、別のページに、「副大臣」「政務官」がある。たとえば「総務副大臣兼内閣府副大臣」と言う人がいる様に、各省に紐付く副大臣・政務官と、内閣府副大臣・政務官は別物である。

次に、内閣官房のHPを見てみると、
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/kanbu/index.html

国家安全保障局等、内閣法に沿って幹部が並んでいる。

ここまで見て、最後に内閣府のHPを見ると全体感が分かることだろう。
https://www.cao.go.jp/minister/index.html

たとえば、麻生氏の肩書は「内閣府特命担当大臣(金融)」とだけなっており、首相官邸のHPにはあった「財務大臣」の肩書はない。小泉氏は「内閣府特命担当大臣(原子力防災)」とだけなっており、「環境大臣」の肩書はない、といった具合だ。

今井絵里子政務官はここにいる。その肩書は「内閣府大臣政務官」だ。


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