【宅建試験を通して学ぶ】農地法
概要
読んで字のごとく、農地を守り、農業を守る法律です。一次産業というのは三次産業に比べて市場の効率性は高くないので、一般的な市場原理に任せておくとどんどん農地が無くなっていき、街に姿を変えていくことになりますが、そうすると食糧自給が出来なくなっていきます。そこで、農業を、農地を法律の力で保護してあげましょう、というのが農地法です。一種の産業保護法ですね。
農地法第一条にはこう書いてあります。
この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。
「農地を農地以外のものとすることを規制」ための法律なので、農地を別のものに変えてしまうこと(「転用」)については特に厳しいルールが定められています。さて、それを前提にいくつかポイントを押さえておきたいと思います。
ポイント1:「農業委員会」
日本の市町村に置かれる行政委員会です。教育委員会の農業版と思っておけば何となくイメージがわくと思います。その主たる使命は『農地等の利用の最適化(担い手への農地利用の集積・集約化、遊休農地の発生防止・解消、新規参入の促進)の推進』です。つまり、農地法の番人です。当然、農地のない市町村はそうした使命がないわけですから置く必要がありません。東京の23区の中で置いていない区が結構あるのはそうした事情です。農林水産省のHPに概説してあるので興味のある方は読んでみてください。農地法の実務に国自体は出てきません。「農林水産省の許可」が必要な場面はまずありません。
http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/iinkai.html
ポイント2:「採草牧草地」
農地法2条にはこうあります。
この法律で「農地」とは、耕作の目的に供される土地をいい、「採草放牧地」とは、農地以外の土地で、主として耕作又は養畜の事業のための採草又は家畜の放牧の目的に供されるものをいう。
農地法で保護しなければいけない農地以外の土地を「採草牧草地」と定義しています。これはつまり、「民法に任せてはおけないけれども農地ほど重要ではない土地」、ということを意味します。家畜の放牧のための土地は、つまり牛や馬が草を食べるための土地です。農地と違って牧草地から人間が食べる稲や麦が生まれるわけでは無く、食糧自給という点では人間が食べるのは牛・馬などの家畜そのものなので、採草牧草地自体の重要性は農地ほど高くないものの、その土地が道路になってしまうと牛や馬さんの暮らしが脅かされるので一定程度農地法で保護しましょう、ということになっています。
ポイント3:3条許可~5条許可
農地法の第二章は「権利移動及び転用の制限等」という大項目が立っていて、この章が3条から始まるので一般にこの様に呼ばれています。農地法の肝の部分ですが、農地を保護するために大きく二つのシーンを制限しています。一つ目が「権利移動」、つまり、農地を使う人が変わることです。2つ目が「転用」、土地の利用目的が変わることを指します。前者を制限するのが3条、後者を制限するのが4条、両方が合わせて起こる事態を想定したのが5条の順番になっています。順に条文を見ておきましょう。
第3条
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は・・・・その他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
第4条
農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事・・・の許可を受けなければならない。
農地法の主たる目的は農地の保護にありました。したがって、使う人が変わるだけの3条より、土地そのものの目的が変わってしまう4条の方がインパクトが大きい。ですので、許可権者が3条は市区町村単位の農業委員会なのに対して4条は都道府県知事とワンランク上がっています。3条は引き続き農地のままなので、法の趣旨から行けば新しい土地利用者が農家を営む気があるかどうかを見れば済みますが、4条の方は一種の町おこし要素をはらむので市町村単位ではなく都道府県単位でやりましょう、ということです。当然、5条についても都道府県知事許可です。実務的には以下の条文に従い、農業委員会経由で行われます。冒頭、「農地を農地以外に」ですから、採草牧草地は入っていません。
前項の許可を受けようとする者は、農林水産省令で定めるところにより、農林水産省令で定める事項を記載した申請書を、農業委員会を経由して、都道府県知事等に提出しなければならない。
ポイント4:「市街化特例」
実は4条には続きがあり、「ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。」として8つの例外が定められています。「この限りではない」の「この」とは都道府県知事の許可のことを指すので、この8つの例外においては許可が要らない、ということを意味します。この例外のうちの一つが「市街化特例」と呼ばれるものです。
条文にはこうあります。
七 市街化区域(都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第七条第一項の市街化区域と定められた区域(同法第二十三条第一項の規定による協議を要する場合にあつては、当該協議が調つたものに限る。)をいう。)内にある農地を、政令で定めるところによりあらかじめ農業委員会に届け出て、農地以外のものにする場合
「市街化区域」とは、もともと町おこしをすることを前提としている地域のことです。建物をどんどん建てるべき地域として指定したものの中にいつまでも農地が残っているのは逆に望ましくありません。ですので、市街化区域内であれば転用に許可なんて要らず、農業委員会への形式的な届け出で足りると特例を認めています。
市区町村の農業委員会HPを見ると、各申請書のひな形を閲覧できます。一度、許可証がどんなものかイメージをつかんでおくと良いかと思います。(リンクは仙台市のものです)
http://www.city.sendai.jp/nochike/download/bunyabetsu/shigoto/nogyo/documents/dai4zyourei.pdf
宅建試験の問題を通して
最後に宅建のいくつかの問題を通して解説します。
問1:農地の所有者がその土地に住宅を建設する場合で、その土地が市街化区域内にあるとき、必ず農地法第4条の許可を受けなければならない
答:「×」。市街化区域は町おこしをする地域で、農地は減らしていくべき地域。許可は要らず、届出のみ。
問2:耕作する目的で農地の所有権を取得する場合で、取得する農地の面積が4haを超えるときは、農林水産大臣の許可を受ける必要がある。
答:「×」。基本的に農林水産省が出てくることはない。本件の場合は農業委員会で足りる。
問3:登記簿上の地目が山林や原野であっても、現況が農地であれば、その所有権を取得する場合は、原則として農地法3条または5条許可を受ける必要がある。
答:「〇」。農地法の趣旨は農業を守ることなので、現に農地がそこにあるのであれば当然それを守るべき、というのがこの法律の趣旨。登記簿とは関係ない。
問4:市街化区域内の農地を耕作目的で取得する場合には、あらかじめ農業委員会に届け出れば、3条許可は不要。
答:「×」。「耕作目的で取得する」のだから、町おこしをする市街化区域の目的とは無関係、市街化特例は適用されず、ただの農地の権利取得場面なので、3条の範囲内。
問5:農地を相続した場合、その相続人は、法3条1項の許可を受ける必要はないが、遅滞なく、農業委員会にその旨を届け出なければならない。
答:「〇」。3条は農地の所有権移転のシーンのためですが、その趣旨は新しく土地を受ける人が農業を引き続き行っていく意思があるかどうかの確認のためでした。逆に言えば、そういう意思確認が必要ない場面では許可が要りません。代表例は、家庭の中で所有者が動く相続の時です。
問6:農業者が相続により取得した市街化調整区域内の農地を自己の住宅用地として転用する場合でも、法第4条1項の許可が必要。
答:「〇」。相続によって農地を引き受けなければいけない事態は本人の意思と無関係に起こるので許可が不要。「転用」するのは本人の意思で起こるのだから、相続とは関係なく当然許可が必要。
問7:国または都道府県が市街化調整区域内の農地を取得して学校を建設する場合、都道府県知事との協議が成立しても法第5条1項の許可が必要。
答:「×」。4条や5条の許可と言うのは、農業委員会を経由して都道府県知事が行います。その許認可権者である国や都道府県自らが転用を試みるケースなのですから、こんな場面に5条許可を求めても意味がありません。当然、「×」です。
問8:採草牧草地の所有者がその土地に500㎡の農業用施設を建設する場合、法第4条の許可が必要。
答:「×」。第4条は農地の転用のみターゲットにしていて採草牧草地は入っていません。牧場を続ける意思があるかチェックのため3条や5条には採草牧草地があるのですが、転用については自由にどうぞ、と言う建て付けです。
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