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蒼色の月 #63 「GPS①」

私の携帯に、事務所を辞めた木村から電話があった。
久しぶりにちょっと会えないかと。
20年一緒に仕事をして、こんな風に木村と2人で会うのは初めてだった。
私たちは、駅前の喫茶店で待ち合わせをした。

「奥さん、その節は突然辞めることになってご迷惑おかけしました」

「そんな、あれは所長のせいで木村さんは何一つ悪くはないじゃないですか」

「実は事務所を辞めてから、所長の噂をずいぶんと聞きまして」

「……」

「奥さんが、きっと苦しんでいると思うとなんだかこっちまで気が滅入っちゃってね。20年の長い付合いですからね」

私も夫も。大学を出てすぐに義父の設計事務所に入った。
その時、それぞれに仕事を一から教えてくれたのは木村だった。

「そうか。ご心配かけてすみません」

「今はどうしてるんですか?所長」

「ここだけの話なんですが。健太郎さん家を出て、不倫相手の女の家に転がり込んだみたいです。今もそこで生活してるみたいで」

「それも聞いています。奥さん、もう出るとこに出てはっきりさせた方がいいんじゃないですか?悠真君だって美織ちゃんだってもうすぐ受験でしょ?誰の目からどう見たって所長が悪いのは、一目瞭然ですよ。出るとこ出ればどうやったって奥さんが負けるわけがない」

出るところに出てはっきり…それは私だってもちろん考えている。
しかし、肝心な証拠がなければ出るところに出ても知らぬ存ぜぬで突っぱねられたらどうしようもないのだ。

「でも、法に訴えるには、それそうおうの証拠がいるとネットにも書いてありました…」

「証拠か。証拠ってどんな?」

「夫が女と不倫しているって証拠です」

「具体的には、どんなものが必要なんですか?」

「二人がホテルに入る写真とか動画とか。女の家に帰っているって証拠とか。でも探偵なんて雇うお金もないし。私なりに尾行したりはしてみたんだけど。女の家の前に健太郎さんの車があるのを写真に撮るくらいが精一杯で。子供に嘘ついて夜な夜な外に出るのも限界があるし。もうどうしたらいいのか…」

「奥さん、GPSって知ってますか?今は安価でネットで購入できて、その人がどこにいるかパソコンや携帯で確認できるんですよ」

「ええ、知ってはいます。でもそれを買ったところで夫の車に付けなくちゃならないんですよね?事務所の窓から駐車場は丸見えです。私が夫の車の周りをうろうろしてたらいかにも怪しいですよね。いつどの窓から夫が見てるかわからない。私、夫がとても怖いんです。夫の車につけるなんてことしてもし見付かったらと思うと怖くて怖くて、それは無理です」

「それなら俺が社員の誰かにやらせます。みんな所長の最近の横暴ぶりは知ってるし、奥さんに同情しています。だから協力してくれるはずです」

「でも、そんなこと社員さんにやらせるわけにはいきません。もし夫に見られたらその人が大変なことになる」

「そんなこと言ってる場合ですか?奥さんもっと強くならなきゃだめだ。あの所長相手にきれいごと言ってたら勝てませんよ。まして所長の後ろにはあの父親がついてるんだから。もし奥さんがやる気になったら連絡ください。俺たちはいつでも協力します」

そう言って木村は帰っていった。

木村のいう通りだ。
怖いなんて甘いこと言ってる場合か。
私には守らなくちゃならない子供達がいる。

私はその夜、子供達が寝静まったリビングで一人GPSなるものを検索した。買うと高価だがレンタルもあると書いてある。私は思いきってレンタルGPSを申し込んだのだった。

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shizuku
mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!